第170話「ボスラッシュ3」
Aランクモブ冒険者と出会った『ドラゴン・スピード』のメンバー。
「流石Aランクモブ冒険者のオレ! 一瞬でこの街全土に情報を広めてやったぜ!(疲れた」
街の最前列から最後尾まで全ての人々に平等に『第1関門浮遊超気』の情報を渡した。
それを、3人ともゲームにログインした状態で考え込むメンバーたち。グリゴロスが口を開く。
「なあ、話を聞いた限りだと。これって無理ゲーとか無敵とか、そういうのには当たらないのか?」
と、グリゴロスは言ったが。セミプロ、ヤエザキは「いや」と、それを否定する。
「今回のゲームのルール上、弱点の無い敵はチート扱いされて禁止されている。つまり【弱点は必ずある】と【運営は弱点を作らなければならない】は仕様になっている」
「まじか!?」
「まあ昔は無敵な敵も居て、弱点も手探りだったんだけどね。ゲーム全体が生ぬるくなったと思っちゃうわ」
それはそれでどうかとは思うグリゴロス。ファランクスは「てことは」と付け足して。
「今は弱点はあるけど見つかっていない状況と……【索敵】とか【看破】とか【観察】とか【解析】とか」
「そうなるわね」
世界樹のゲーム法【3の16】
プレイヤーにとってのチートとは、弱点が無いスキル・武器・アイテムの事である。弱点が明記されていないスキル・武器・アイテムは、チートと判断して運営に報告・連絡・相談することが出来る。
【最強無敵のその果てへ:シーズン1】
今回はこれが当たる。
「本当だ、ルールに書いてある!」
「でしょ?」
「なら、このイベントもクリア可能と言うことですね!」
ヤエザキは仮にも、セミプロだったりするので。運営としての観点から、昔を思い出しながら言う。
「今だから思うことだけど……。無理ゲーだからと言って、反感を買って。ゲームマスターを倒そうとするのは、……ナンセンスね」
それは今だからこそ感じる思考でもあると付け足しておく。
「何で?」
「過去に色々あったから、……かな」
複雑な心境と共に、そういう意味でも歴史は大事なんだな。と改めて体に刻むヤエザキだった。
歴史があるからルールがある、ルールがあるから今がある。
そうやって後から続くものの道となる。
螺旋……。
「……、……っ」
これ以上は触れないでおこうと思ったグリゴロスだった。
「えっと、アビリティ・ツリーにそういうのあったっけ?」
「ちょっと待って……。《解読》……かな、近いのは。あとグリゴロスは素早さにアビリティ振ってるから《急所狙い》がオススメかなと」
「じゃあそれを目指すか、目指さなきゃ話にならん。あぁ、あと個人で遊んでた時に。毒モンスターにひどい目にあったから《耐毒》は個人的に欲しい。《解読》は誰が目指す?」
一同押し黙った……考えている。
「勝ち抜き戦ってことは、一度入ったら。全面クリアするか、全滅するまで出られないって事でしょ?」
Aランクモブ冒険者は答える。
「そうだな。大門を入ったら、その二択のどちらかしかない。ついでに異世界攻略軍か地球防衛軍のどちらに軍配が上がるかはわからない」
一同押し黙った……考えている。そうこうしている間に、Aランクモブ冒険者は去って行った……。
「考えていたって仕方がない、一度当たって砕けてみるか?」
ファランクスとヤエザキは「「それはない」」と重ねて制す。
「いくらデスペナルティが無いと言っても、無謀すぎます。十分な準備をしてから挑みましょう。他の戦闘ならともかく。今回のイベントは長考し過ぎてもなお、足りないです」
「挑むだけ時間の無駄デス。それに私達は最低限のアビリティ設定も終わってません。他のギルドならいざ知らず、私達が突撃するのは悪手デス」
グリゴロスは速く戦いたくてうずうずしている。それをファランクスが止める。
「それはわかるが~」
「焦る気持ちも解りますが、最低限は済ませましょう。それが最短時間の最短距離デス」
「準備を十分に重ねたとしても、負けると解っていても?」
「そうデス。【上質な負け】を提案しマス」
グリゴロスは押し黙り、椅子に重心を置き。再び考え直す。いくら脳筋でもわかる、相手がどれほど強いか……。年期の問題じゃない。
「わかった、じゃあさっさと決めよう」
まるで【待て】をされている警察犬のようだった。




