第169話「ボスラッシュ2」
ところ変わって、今回は名もないAランクモブ冒険者の物語をしようと思う。
「第一線、最前線組はもう古代ダンジョンに入ったな。遅れず俺も続くぞー!」
モブ冒険者はジャンプしながら第1戦組に飛びついた。やがて、大型トラックも入りそうな大門へ着いた。
観ると巨大なビックスクリーンが壁画のように描かれている。それは1~5まで居るボスモンスター?のわずかながらの情報だった。
「お! 今回は前情報なしって訳じゃないんだな。ラッキー!」
とか言っている、今回コピーされた冒険者の存在を【知らないプレイヤー】はそう感じた。
だが、今回のボスの存在を【知っているプレイヤー】からみたらその楽観視に罵声が飛んできた。
「なに言ってんだよ!? あいつらが前情報だけの動きをするわけないだろ!!」
Sランク冒険者が覇気を纏い罵声を浴びせ。
Aランクモブ冒険者がビビり。
Bランク冒険者が、何とか後ろから追いついて来たにも関わらず。その覇気で心神喪失して倒れた。
「全員、どこかの大陸のチャンピオンレベル。それが5人いてなんと【勝ち抜け戦】だから、常軌を逸している」
「地下4階の不動武って知ってるか? Sランク1位の『最果ての軍勢』のリーダー。つまりアイツ1人だけでも、誰も勝てたことが無い」
「だよなあー。未知未踏が好きすぎるだろ、今回の運営……呆れてものも言えねえ」
「何にしてもいつものイベントとはわけが違う。名前を聞いただけで、誰も勝ち方を知らないんぜ、今回……」
Aランクモブ冒険者は驚愕する。
「え、それが5人居て。勝ち抜き戦!? じょ冗談じゃねーぞ!! あ、回復アイテムは使っていいんだよな!?」
「使って準備はしていいが……5人相手じゃ。……いや無理だろ」
早々に、1人のSランク冒険者の心が折れていた。
「ハハハ馬鹿らしい! 無駄にハードルを上げすぎだろ! 直に戦ってもいないんだから!」
「いや、あいつらに限ってはそれはない」
Aランクモブ冒険者は今の戦場の状況を確認する。モニターを見る、貴重なボスの情報源だ。見ないわけにはいかない、というか対策しないわけにはいかない。まず目に止まったのは。
「全員、アビリティで《神速》持ちかよ……」
そして第1陣の1番隊30名が、【負けて帰って来た】。いわゆる、死に戻りである。
「ただ動くだけで《神速》状態だったぞ。技も使ってないで……」
第1陣全員が鳥肌を立たせる。
「お、おい! どうだったんだ! 四重奏『浮遊超気』の情報は! 情報は……ッ!」
「俺達だってそのつもりで行ったさ! でもダメだった! 何の情報も得られませんでしたぁ――――ッ!」
無駄死に。その言葉が一番よく伝わる言葉だった。
第1陣のSランクギルド達が静まりかえる。
「で、でも。負けた時のペナルティは無いんだな……」
「そ、それだけは。救いだな……」
「じゃ、じゃあ何回も戦えば、【いつか】は勝てるんじゃ……」
「【遥か】かもしれねえし【此方】かもしれねえぞ」
意味が解らない会話だが、Sランクギルドには意味が解るので。逆に誰もツッコまずに。ただ、戦慄だけが残った。
「こ、言葉遊びのつもりか? そんなの言語道断で……」
「あいつが、浮遊超気がそんなことするタマじゃないことは知ってるだろ!?」
Aランクモブ冒険者は知らない。でも知ってるSランク冒険者は、それはもう狂乱の嵐だった。
全員勝つ気はある、引く気もない。戻る気もない。
戦う前から、心を折られている。そんな気持ちだった。でもただそれだけのプレイヤーだったら、Sランクとは呼べない。
「さあ、お前ら。ここからが本番だぞッ!」
「おぉ、そうだな!」
「あぁ、やってやろうじゃねえか!」
「うひょー! 楽しくなって来たー!」
「わ、私の見立てによると。これは○○大戦と同等か、それ以上の高鳴りを感じるわー!」
Aランクモブ冒険者は思った。
(い、イカレテル。まあ、俺もたいがいソウだけど……)
一大イベントは、まだ始まったばかりだ。
Aランクモブ冒険者はそこらのモブとは一味違った。
「お、俺。ここで手に入った情報を、街の温泉街まで持っていって。皆に共有してくる!」
冷静で健全で優秀な対応だった。戦略撤退とも呼べなくもない。
「ああ、その方が良い」
「助かる! 俺もそう思ってたところだ」
「異世界攻略軍と地球防衛軍とか言ってる場合じゃねえよ、協力しなきゃクリアなんて夢のまた夢だぜこれ」
誰も彼の事を弱腰と呼ぶものは居なかった。卓越していた。小バカにすらしない。
「俺たちはSランク最前線は、あとへ続くものの為に、有用な情報を少しでも多く。手に入れる事が役目!」
Aランクモブ冒険者は少し安堵した。
「で、情報は」
「第1関門だけだが、持って行ってくれ!」
「おお、この短時間でこんなに……よし!」
と、託されたので。街の方へ走って戻っていった。
◆
現在入手している情報。
地下一階、VS四重奏『浮遊超気』
天候:暴風
能力:光風
戦闘スタイル:拳と蹴りによる接近戦闘、たまに遠距離圧縮爆風攻撃あり。
アビリティ:《全力》《神速》《剛力》《反射》《乱撃》《飛行》《圧力》《壁走り》《壁破壊》《輪唱》《真空波》




