第167話「メンテ中の会話」
《メンテナンスに入りますので全プレイヤーは自動的に世界樹バンクへ移動します》
仮想世界【世界樹バンク:グリゴロスの部屋、1号室『ホーム』】
「あれ? チームとして勝ったのか負けたのかわからないぞ?」
「それも含めて審議中なのでしょウ」
「そうか、ってなんでお前ここにいる!?」
「のりかかった船デス、まあお気になさらず」
グリゴロスとファランクスはオンラインゲームイベントから抜け出し、世界樹バンクへ強制送還させられていた。
と、ここでピコリン。とイベントの結果発表となった。
〈突如として開いた上空10000メートルに空いた『空の穴』は日本とブラジルに出現。日本の地球防衛軍はこれを辛くも防衛に成功した。だがブラジルの情勢は芳しくない模様……。『空の穴』は落下し、日本の秋葉原の地面に突き刺さる。地上からの進行が容易になったこの状態から、地球防衛軍は異世界アンノーンへとなだれ込む。そこには広大な草原と山々が広がっていて何も無かった。だが、探索を続けて都市らしき場所を発見。そこは温泉湧き出る地下都市だった。次回『温泉地下都市イイユダナ』こうご期待!〉
「ほう、次は地下か」
「爆裂魔法が打てませんね、地盤が崩壊してしまいます」
開幕そっちの心配かよ……とも思ったが、確かに攻撃が全く使えないとただのお荷物以外でもなんでもない。実際お荷物だったファランクス。
と、そこへ。ヤエザキがグリゴロスの世界樹バンクへやって来た。
「やっほー約束通り来たよー。いやー皆に離脱するって言うのしんどかったわさー」
「ちなみにあのギルド。もしかして自分で作ったのか?」
「そうだよ。自分で作って、大きくなったらそのあと抜ける。なんか人生って感じだね」
「複雑だな……今からでも戻るか?」
「いや、いいよ。こっちの方が面白そうだし。あーそれと、私。異世界攻略軍から【裏切者】認定されたからさ。全部の武器やステータス・アビリティ効果が半分になってるから」
「マジか! あいや、前にそんなこと聞いたな……」
リアリティならでわのペナルティだった。緊張感があってゲームとしては良いが、された人間の心境からすると。かなり複雑だろう。
「そんな気にすること無いよ。強くなったらペナルティも解除されるらしいしさ」
「そうなのか。よかった、一生だったらどうしようかと」
流石にそこまで鬼畜ではないらしい。
と、もう一人。グリゴロスの部屋に新たな来訪者が来た。
「おいーっす」
「あ、お姉ちゃん」
「姉さん……てことはこのゲームの社長さん!? 何でこんな所に」
「妹に合うのに許可なぞいるのか~?」
何というか、気持ちとても軽い印象を受けたグリゴロス。ヤエザキは言の葉を制す。
「何? なんか用?」
「いやなに、ただ直に感想を聞きたかっただけさ。そちらの二人組が『ドラゴン・スピード』でいいのか?」
どうやらファンタジアリアリティ・オンラインの事だったらしい。
「ああ、そうだ」
「はじめましてデス」
二人してお辞儀をする、無礼があったら大変だからだ。
「……うん、よろしい。とりあえず顔合わせだけしたかった感じだから。そんな感じで、じゃあまたなあ~」
そう言って、天上院姫/農林水サンはログアウトした。
「なんだったんだ?」
「さあ、お姉ちゃんのことだからわかんない」
怪しい人物だということだけは解った。
すると、ピコリン! と公式から。次のイベント内容の詳細が画面に映し出された。
イベントシナリオ。
〈温泉地下都市イイユダナには、謎の巨大な地下空間が広がっていた。異世界攻略軍、地球防衛軍とどちらも知らない未知の遺跡。そこは高度な人口AIによって守られていた。AIは両軍の最強プレイヤーを的確に割り出し。戦闘能力をコピー、各地下層に設置。古代の遺跡は何を守るのか?〉
イベントルール。
〈制限時間無制限。2つの軍の内、どちらが速く。地下五階までたどり着き、クリア出来るかの競争です。ボス1名対プレイヤー30名とのレイドバトルです。なお、本物のプレイヤー『浮遊超気』『ナナナ・カルメル』『湘南桃花』『不動武』『農林水サン』は参加出来ません。難易度はとても高いです、十分な準備をしてから挑みましょう〉
現在公開可能の情報。
地下一階、VS四重奏『浮遊超気』。天候は暴風。
地下二階、VS放課後クラブ『ナナナ・カルメル』。天候は大雨。
地下三階、VS非理法権天『湘南桃花』天候は大日照り。
地下四階、VS最果ての軍勢『不動武』天候は大寒波。
地下五階、VS紅の夜総団『農林水サン』。天候は雷雨。
グリゴロスは「あーこういうボスラッシュは一度やってみたかったんだよな。て、天候まで変わるのか」と思った。ファランクスはそれとは別のアビリティ一覧を見る。
「アビリティがメンテナンスのバージョンアップで更新されてます。イベントに参加する前にこちらの設定をいじりましょう」
ヤエザキは釘を刺すように言う。
「一度戦闘が始まったら。アビリティや道具やらを整理する時間も限られる。ここは最前線組から離れて、一旦様子を見てから作戦を考えましょう」
「イベントが来ても第一陣から飛び込むなって事か、おっけい」
経験者たちはここはワンテンポ落ち着くように促す、確かにヤエザキと戦い始めてからは。何もアビリティとか動かせなかったので了承する。
《メンテナンスは終了しました。シーズン2へ入ります、では皆様。よい旅を》
運営からのゴーサインが出た、やたら速いなと思いながら。『ドラゴン・スピード』は遅れるの覚悟で準備を進める。
速く続きをやりたい最前線組はもう動き出していた。
「よし、動き始めたけど。今日はもう21時だ、明日の15時ぐらいからここで集合しよう」
「おっけい。そのあと整理整頓ね」
「異議なしです」
互いに互いの顔を見合わせて、この場は3人とも。いったんログアウトする形となった。
現実世界で目覚めた今泉速人/グリゴロスは、物思いにふける。
「中々に濃ゆい一日だったな、だがもう夜だ。寝よう」
速人はそのまま、また横になり。今度こそ寝た。




