第164話「爆裂術師ファランクス」
《地球防衛軍:ドラゴン・スピードの陣地内》
今泉速人、実況スレを観ての反応。
グリゴロスは掲示板を見て全体の状況を流し読みで把握した。
「うへえ、どこも厄介そうだな」
「まあ、初心者は私達『ドラゴン・スピード』の陣地内に集結してますしね」
ファランクスは何食わぬ顔で、グリゴロスの掲示板アイコンをのぞき見していた。
「解るのか?」
「まあ、知ってる範囲で。たしなみ程度には、あ。ちなみに【鷹の眼】程度の精度はありませんよ?」
「【鷹の眼】? なんだそれ」
「知らなくていい事です、ゲームのスキルの事なのでいずれ解ります」
「?」
グリゴロスは不思議そうな顔でファランクスを覗いたが、彼女は素知らぬ顔で無視した。何かもっと知ってる、上級者向けの情報でも教えてくれと言わんばかりだった。
「兎に角、初心者は初心者らしく、目の前の敵に専念するべしって事です。それ以外の情報はむしろ私達にとってはナンセンスです」
「……言ってる意味がよく解らないんだが……」
「それでいいのデス」
「はぁ……?」
「私たちの前に立ちはだかっているのは。異世界攻略軍のギルド『放課後クラブ』、それ以外の情報を教えることは。初心者を余計に混乱させてしまうことと考えます。てことデスよ」
「んん、まあ解った。じゃあ初心者にわかりやすく。放課後クラブについて教えてくれ、あのヤエザキってプレイヤーは何をしたんだ?」
というわけで、ファランクスはグリゴロスにギルド放課後クラブの情報【だけ】。正確に教えることにした、あくまでファランクスによる主観だが、現状もっとも新しい情報源と言えるだろう。
「ギルド、放課後クラブ。このファンタジアリアリティ・オンライン創設者と、その会社である神道社社長。プレイヤー名、農林水サンの妹。それがプレイヤー名、ヤエザキという女性です」
「え? 社長の妹? ちょっと待て、その時点でついて行けないんだが……」
「あなたが知りたいことはヤエザキの戦術でしょう? 今からそれを説明します。まあ私も直接は会ってないので、ネットでの情報だけですが」
「……お願いします」
「ゲーム『クリスタル・ウオーズ』で裏技を会得した後、『エレメンタルマスター・オンライン』を実質クリアした。と情報ではうかがってます、並々ならぬプレイをしたのでしょう。彼女のプレイを観た人々は『命がいくらあっても足りない』と言っていました」
「ふむ【裏技持ちの、残機一杯ゲームクリア者】ね。なるほど……」
「……そんな、一言で片づけられるほど、生易しいプレイはしてないでしょうが……。まあそこは置いておきます」
「おん、そうなのか?」
ヤエザキという名のプレイを観たプレイヤーが、ネットに書き込み。更にファランクスが情報を処理して人に教える。というフィルターをかけているせいで、内容がかなり淡白になっている感じが否めない。
「で、今はあいつと対峙してるわけだから。『対策』とか無いのか?」
「無いです」
「即答!?」
「と言うのも、そのあまりの人気? ぷりから【放課後クラブ親衛隊】なるものが出来上がっていて、まともに近づけないのです。要注意人物は愛称【賢者】と【空戦】ですね、他にも二つ名が散らばってますが。今はそう呼ぶのが妥当でしょう、どちらもヤエザキ以上の『ツワモノ』、上級者です」
「おい、俺ら初心者陣営だぞ……」
「恐らく、ヤエザキ自身は。ゲームクリアアイテムの試し斬りで、初心者を辻斬りした。程度の認識であなたに襲い掛かったのでしょう、災難でしたね」
「……まさに災難だな。それで、もう一度対戦するか、仲間にすることは出来ないのか?」
「仲間!? 何言ってるんですか! 異世界攻略軍の上に、相手は格上ですヨ!? リアリティを謡ってますから【裏切者】の烙印も押されますし。そもそもこの初心者ギルドに乗り換える魅力がありません! ……逆なら解りますけど」
「あん? そ、そうなのか。ごめん世間知らずで。そっかーやっぱ仲間は無理かー」
と、その時。噂をすれば何とやら。放課後クラブ、リーダーヤエザキのご登場と相なった。
「あ! みつけた! メタグロス!」
「だから俺の名前はグリゴロスだ! ほとんど名前合ってねーじゃねーか! あ、それはそれとしてお前。うちのギルド『ドラゴン・スピード』に入隊しねーか? 今なら何と3人目だ!」
「え、……勧誘ありがとうだけど。今私のギルドって4人と2人? 以上居るからさ。いきなりギルド解散してそっち入るとも行かないのよね」
どうやらおいそれとリーダーは引き抜けないらしい。ならば……と。
「じゃあこういうゲームはどうだ? 俺とお前、1対1で勝負して勝った方がファランクスを仲間に出来る。とか」
ファランクスは仰天する。
「は!? はあーーーー!? 丁寧に教えてあげた恩師をいきなり生贄にする気ですかあなたはー!?」
グリゴロスは、ファランクスをなだめる。
「まてまて、これぐらいの賭けをやらないと相手は乗ってこないって。逆に勝ったら戦力大増強だぞ」
「でも!」
「いいよ~」
「「え?」」
グリゴロスもファランクスも半ば冗談半分のつもりで言った賭けにノッて来たヤエザキを奇怪な眼差しで見つめた。
「そういう真剣勝負私嫌いじゃないよ、ただし。それなら本気で相手してそのファランクスって子をリアリティ風に言えば【拉致】してあげる」
「ノッた!」
「ワタシの意見は無視ですか!?」
グリゴロスの交渉術が吉と出るか凶と出るかは、今はまだ誰にもわからない。




