第151話「紅白頂上戦争1」
ヤエザキはトーナメント表を自分で作り、予行練習をしたが。しょせんは〈紅白頂上戦争〉の前哨戦。深入りせず、没入する必要もなかった。
「さて、……」
他のプレイヤー達が続々と、イベント〈紅白頂上戦争〉に参加表明をして。受付から転移してフィールドへ流れてゆく。
ヤエザキの不安は「このクエストも出番もなく終わってしまうと困るなあ」という危機感だった。このクエストは間違いなく面白い、面白いのだが。どの程度深入りしていいのかわからないような、そんな闇雲さが充満していた。
先のことを考えすぎると。遠き物事に足をすくわれる。感じが否めない。それでは本末転倒なのだ。だから、参加する前にしっかりとルール設定を確認しなければならない。
そのクエストを受注するまでの、ルール設定で悩んでいるのだ。
「ダメだ、一人で考えててもラチがあかない。受付嬢さんと話しながら設定を決めよう」
ということで名前も知らないNPC受付嬢と、会話をして手あたり次第にルール設定を決めようと。行き当たりばったりで行動するヤエザキ。
〈制限時間はどうしますか?〉
「タイムリミットは30分」
〈紅組と白組、どちらのチームに加勢しますか〉
「悩む必要もなく、紅組で」
〈ステージを選択してください。デフォルメ設定ですと、桃源郷と楽園エデン(別荘)になります〉
「……ん~……海上戦はやった。空中戦もある意味やった。となると、地上戦か……かといってクレナイ国に集まりすぎるのもアレだし……」
ヤエザキは更に思考する。まだちゃんと冒険してない所といえば……。
「『最果ての島』を選択、そこオンリーで他国へはいけないものとしてください」
〈参加人数を設定してください〉
「約30人対30人で」
〈武器の切り替えは行えますか?〉
「許可で」
〈アイテム使用制限は?〉
「無制限でお願いします」
〈野営地は設定しますか〉
「おねがいします」
〈紅組と白組の大将は。農林水サンとオリオン座に設定しますか? こちらはデフォルメ設定です〉
「それでいいです」
〈敗退したプレイヤーはどうなりますか?〉
「スタート地点から復活で」
〈心のエレメンタルは変更可能ですか?〉
「不可でお願いします」
〈ヤエザキさんが今まで出会ってきたモンスターは出現させますか?〉
「そこはアリで」
〈クエスト部屋のランクを設定してください〉
「どのギルドランクであろうと。Bランク統一に設定してください」
〈不参加のプレイヤーは観戦できますか?〉
「出来る方向で」
〈クエストクリアアイテムは最後に一気に出しますか? 倒すたびに出しますか?〉
「倒すたびに、でお願いします」
〈プレイヤーカードの閲覧出来るタイミングはどうしますか?〉
「ゲームが始まる前に、紅白組全員のプレイヤーカードが見れる状態にします」
これは出会った瞬間から、お互いの能力や弱点を両者とも知っていること前提で戦闘が開始できるからこの設定にした。
〈メディアミックスの方向性を挙げてください〉
「?」
〈ゲームを開始すると。AR(拡張現実)のように、他プレイヤーに影響が出ます。その現実世界での影響範囲を設定して下さい〉
「……。漫画、アニメ、ゲーム、小説、映画、特撮、新聞、立法、司法、行政、テレビ、バラエティー、スポーツ、仕事、趣味、散歩で……あ、家庭内だけは影響なしでお願いします」
〈勝敗は大将が倒されたら終了、でよろしいですか?〉
「それでいいです」
〈……。以上で参加可能です。参加しますか?〉
「やっとか、……はい。お願いします」
そういい終わったら、ヤエザキは『最果ての島』に飛ばされた。
◆
最果ての島。紅組は始まりの街『タネ』に集結、白組は終わりの街『ネタ』にワープした。
ログインしたヤエザキは、ゲーム開始時間まで。敵味方の全プレイヤーカードに目を通す。
「皆個性的だなぁ、突っ込みどころしかない」
〈それではこれより、≪紅白頂上戦争≫を開始いたします。皆さん適度に休んで下さいね〉
何故か体の心配をするコンピューター。
アメリカ大陸のように広大なマップの中、1つの打ち上げ花火が空へと揚がり。パアン! と爆発した。
いよいよアノゲームが始まる。ヤエザキはいつもと違って「長く遊べますように」と念を押しての参加であった。




