第148話「恐竜騎士団2」
闘技場の観客は6割ほど埋まっていた。初心者の街で【中の上クラス】なんて滅多に見れるものではない。某テイルズックな戦闘用BGMだと、既に中盤から終盤にかけるあたりの戦闘楽曲が流れる頃合いだろう。もう初心者と言ってられるレベルではなかった。それほどに彼ら彼女らは経験値を得。雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏のメンテにも負けず。な戦い方をやってきたのだ。
(まずは小手調べのジャブを打って本来の目的を果たす!)
と。自身の片手剣と相手の素手がかち合った。
轟音と共に会場に旋風が巻き起こる。一瞬互角に見えたパワー勝負だったが。初撃の爆発力だけ、強い最終決戦型のヤエザキ。すぐさまパワー負けを感じ、いなす。
その後、押し負けるように拳と剣のラッシュが続く。ゲームなので当たり前のように、拳で剣を弾く。この辺りはお約束といった形だろう。兎に角ストロングマンにヤエザキはパワー負けして後ろに後退してゆく。
「どうした? ずいぶん弱っちい最終決戦じゃねえか? まさか筋肉を温めずに来たな?」
「温めてはいませんけど! あなたはただの試し斬りの相手です。そんなので心が踊るはずもありません!」
ピコン! 心の感情値の平均値が表示される。元からMAXで負けている上に、心の信念が定まっていないヤエザキは更にパワーが落ちている。だが、それは相手も同じだった。
心の感情値/心のMAX値
ヤエザキ:400/1000
ストロングマン:900/2000
技術的なラッシュは続いている、そのどれもがストロングマンの方がパワーが上で負けているが。ヤエザキは技術でこれをカバーする。
「何だ、体温めてきたのに冷めて来ちまったぜ!」
それにしても、避けるの上手いなあ。と関心をするストロングマン。無理もない、雲の王国ピュリア戦。シーズン2の後、1ヵ月ほどあの農林水サン。現在の社長であり運営であり天才である姉から。別のゲームではあったがしっかりと基礎練習だけは叩き込まれている。
格上相手なら、天上院姫は世界でも5本の指に入るだろう。だから守ることに関してはピカ一なヤエザキなのだ。これはプレイ時間にも載ってない。
MFC000(ミラーフォースコンバートオーズ)という。姫産のVR機で遊んでいることも、プラスに働いている。彼女ら姉妹は自分達の土俵で戦えているのだ。より遠慮は要らず、自由に動けている。
「なら! 終わらせてやるぜ! 念波!」
「念波キャンセル!」
ストロングマンが、旧チート技【念波】を使ってきた。彼は念波により【1次元違う強さ】に跳ね上げて、一気に剣も心も折ろうとしたが。それを同じ念波で絶好のタイミングキャンセルした。
そのあまりの巧みな技に見事と驚愕の色を浮かべてしまうストロングマン。興ざめからの、奇襲、からの不意打ち失敗により。心の感情値が更に下がる。まさに【スキあり】な好機にまで下がる。
心の感情値/心のMAX値
ヤエザキ:1000/1000
ストロングマン:800/2000
「スキありぃっ!」
刹那――疾風――轟音――!!
ヤエザキは右回転斬りによる、閃空烈波な早業で。これを切り伏せる!
速きこと新幹線のごとく。撃破すること戦車のごとく。一瞬のスピードと砲弾のような破動により。ストロングマンを怯ませ、よろめかせ、青天井を向かせるような。みっともない姿になる前に、それを持ち直した。
「フン! あ、あっぶねえ! ひっくり返るところだった……トドメを刺さなかったのは、情けかい?」
ヤエザキは心のエレメンタルの文字数制限もかねて。短く、端的に、正確に返事を返す。
「礼と恩。です」
「……。ふん、より磨きがかかったじゃねえか」
少女はゆっくり着実に、一人一人と接しながら。名を上げているようだった。
機械的なブザーと共にシステムが勝者を告げる。
〈勝者、ヤエザキ!〉




