第144話「オーバーリミッツと会話」
1回休んで生気を養え、という姉の発言から。ゲーム『エレメンタルマスターオンライン』からログアウトする天上院咲。
確かに、かなりどっぷりゲームの中にダイブしてたので。ここらで現実世界の土を踏むのも良いだろうと思い。
自室のベットの上から上体を起こし。ゲーム機の電源を落とす。すると、ピコリン! とスマートホンからメールが届いた。
宛先はオーバーリミッツからだった、記憶通りなら。一度豪華客船で戦って以来な気がする。あんまり接点がないから現実世界でお話をしたいということらしい。住んでる場所は、ネットマナーとかで教えられないけど。東京都心のレストランで会話をしようということになった。
電車で約1時間かかったが、折角のリアル交流の機会なので頑張った。目印は赤い帽子と腰まである長い黒髪らしい。
咲は学生服のまま、オーバーリミッツと出会うこととなった。本人、あんまり接点がないのでちょっと遠慮気味である。レストランのテーブルに二人は座り、談笑を始める。
「久しぶりね。今はヤエザキさんって言ったほうが良いんだっけ?」
「あーうん、そうなのよ。ちょっと気分転換でね、オーバーリミッツさんは変わらず。なのかな、ゲームの中では」
ネット名オーバーリミッツ、本名不明。性別女子。赤い帽子と腰まである長い黒髪。高校1年生、住んでる所は東京付近。
Dランクギルド『旧:隣り合わせ(サイド・バイ・サイド)』だったが、やってる事が同じだったのでギルド『達観者達』と吸収合併した。
ランクこそDランクだが、ゲームをやる気がないだけで。個々のプレイヤーのレベルと熟練度はSランクにも匹敵する、らしい。天上院咲は見たことがないから実際のところはわからない。
メンバーとしては。湘南桃花、秘十席群、レジェンドマン、などの顔ぶれである。どの人も咲はネット内でもあまり話したことがない。
普段なら、関わり合いも無い二人だが。お互い話し合いをしたいな、という点だけは合致し。今回の会談となる。出会ったのがゲーム内なので、自然とゲームの話題にシフトしていった……。
今回はゲームの話ではなくて。折角、現実世界で出会ったのだから現実的な会話をしたいなと思っている二人。
「噂はちょくちょく聞いてるよ。と言っても『社長の妹』という肩書がどうしても大きく聞こえるけどね」
「あはは。まあお姉ちゃんは天才だから……」
「じゃあ趣味と特技と生活環境を教えて」
「うん。私の趣味はキーホルダー集め、特技は水泳、生活環境はちょっと大きな部屋に姉妹二人で住んでる所かな」
「私は。趣味はスパゲッティ作り、特技は剣道、生活環境は……ん~ちょっと前まで病院通いだったことかな」
「え? 大丈夫なのそれって」
「へーきへーき。私は元気だよ。……ただ、最近。湘南桃花は病名は解んないけど、体を痙攣させることがある」
いきなり内容が現実的というか、生々しく、痛々しくなってきた。
「え、それって結構大事なんじゃないの? 病院には行った? お医者さんは何て?」
「言ったけど。話が噛み合わないんだよねえ……ゲームの世界で私が桃花を攻撃したから。現実世界で桃花が痙攣してる。とかいうよくわからない矛盾が話をややこしくしている」
「で、治るの?」
「わかんない。でも『お薬を増やしますか?』て言われたから拒否した。だって、ゲームの世界で私が攻撃しなければ。現実世界で桃花は痙攣しないんでしょ? だったらお薬事態、必要ないじゃん」
「理屈は解るけど……それでも治らないんでしょ?」
「ん~桃花事態は『これはオーバーリミッツとの絆の証だから治らなくてもいい』だもん。これじゃ話が平行線を行って終わらないよ」
「えっと。それってお姉ちゃんが作ったゲーム機で発生してるんだよね? MFC000(ミラーフォースコンバートオーズ)」
「いや? ゲームもPCの電源も切ってる、ベッドで横になって寝てる時」
「はい!?」
「そしてその神経の痙攣は。私の意志でコントロール出来る」
話が余計にわけがわからなくなってきた、結構事態は深刻で。冗談でもない【現実の真実】だということだけは。天上院咲ははっきりと理解した。
「私の神経意志でコントロール出来るのなら、これはもう病気じゃなくて正常ってことになる。なら、私の意志で治せることになる」
「でもお医者さんは治らないって言ってるんだよね?」
「うん」
お話が摩訶不思議なオカルトみたいな話になってきた。小さな謎じゃない、大きな謎だった。
「事実。桃花が『PCをいじくってる時は何もしないで、するならベッドで横になってる時が良い』て言われたから。ベッドインした時に……」
「まってまってまって! 私、軽い談笑のつもりで来たんだけど。言ってる事重くない!?」
「でも、天上院姫ちゃんの妹。天上院咲ちゃんなら何か知ってるかな~? て感じで」
なるほど、論点が見えてきた。と天上院咲は感じた。オーバーリミッツはしょんぼりと咲を見つめる。
「この症状って。上手く相手に相談できないからさ……。この話、あなたのお姉ちゃんの所にも話してくれないかな?」
責任はゲーム機を作った天上院姫にある。だが、姫はこのことを知らない。だから伝言してほしいと。そういうことだ。あわよくば解決策までいかなくともゲーム会社の社長として意見が欲しい。といったところだろう。
「ん~。転がして良い内容なのか解んないけど。わかった伝えとく」
「よろしくお願いね」
その後も小話は続いたが、大まかな本題はここで終わった。




