第142話「仮想戦記1942」
ギルド『九賢者魔団』のガンダルフは【よくいる敵】と相対していた。
「≪強奪≫!! ヒャハハ!! システム外スキル!! ≪創造神代行体ィ!!≫」
「0.01秒」
「あ?」
「≪拒否する≫」
ドゴン! と【パンチの打ち方を知ってるか?】 と言わんばかりの剛拳が影のナイトから轟いた。真のGMから授かったそれは伊達ではなかった。
「て、てめえなにもんだあ!」
「≪なにものでもないさ≫ 彼の純粋無垢さを蹂躙するレッドプレイヤーめ……。ここから先は無邪気な蟻は、一匹たりとも通さぬ!」
まるで門番だった。知らないを知っている少年は、よくわからず混乱して怯えている。
「大丈夫、運営は味方だ……。信じろ」
「う……、うん」
そう言って少年は先のことを何も知らないまま、時間の流れのにそって。避難しに行った。
よくわかりやすい悪党は外道のままに、言葉を繋げる。
「な……なんでだよ! システムスキル!」
≪拒否されました≫
「システム外スキル!」
≪拒否されました≫
「運営権限!!」
≪拒否されました≫
「社長権限!!」
≪拒否されました≫
「さ! 最上位権限!!」
≪拒否されました≫
「あんまりこういう言葉は使いたくないんだがな。言語道断だ」
「ひ! ひいい! バ……バケモノおおおおおおおおおお!!」
――!! ……!! ……。
◆
現実世界、西暦2034年9月3日、午後。
神道社、運営会議室。
「では、次のテーマは『戦記』ということで決定ですな」
「うん、でもコレをやるには私の演説1つも無いとしまらない。時間をくれ~」
「おお、やる気になりましたか。了解しました」
先の一手が読めるから、最初の一手が重く感じる。天上院姫。
チェス盤のような盤上には白黒のオセロの駒が18個並んでいる。自身は黒オセロ。相手側には白オセロが18個用意され。ルールも不明。対戦相手も不明。天上院姫は何をやってるのかは運営陣さえも分からない状態だった。
「姫様、何をやってらっしゃるんですか?」
「ん~? ゲームだよ。駒自身のルールを個別で自分で作り、その中で遊んでる。いつもは5枚ほどだが、今回はなんと18枚が盤上に最初から居る」
「それは、面白いのですか?」
「いや、つまんないよ。つまんないゲームを面白くするのが。このゲームの醍醐味さ」
「はぁ……?」
モブ運営者は、意味が分からず、すっとんきょうな声色を呟く。天上院姫の盤上からは何が見えているのだろうか……。きっとこの運営者には及びもつかない高度な心理戦をやっているのだろう。だがその感じはわかるが、どういう読みあいしているのかはわからない。
「……、……これは長くなりそうだな」
止まらぬ時を刻み続ける時計に目をやる。時計が丁度18分を刻んだ。
天上院姫は。最後まで思考放棄せず。今回はこう結論付ける。
「これは。天上院姉妹のゲーム盤だ、……。だがその場合、相手が居るな……。目に見えてすぐに遊べる相手となると……」
目には見えない概念に目を見やる……。そこには、空以外何もなかった。
「相手はお前だ、――――――――――。」
時計の針が19分を刻む音がした――。
◆
現実世界、西暦2034年9月10日、午後。
エレメンタルマスターオンライン、バージョン1.7.0。
ピーンポーンパーンポーン♪
≪ただいまより。エレメンタルマスターオンライン、バージョン1.7.0。の開始を宣言します。シーズン7の開幕です。皆様是非、楽しんでください≫
天上院咲は待ってましたとばかり、さっそくログインする。すると最初に現れたのは……。
≪チュートリアル。神道社、社長。EMO運営から、直接連絡をする。ダイレクトメッセージをお聞き下さい≫
天上院姫は全プレイヤーへ向けて、チュートリアルの動画として用意した。プレイヤー天上院咲は、この演説の動画を再生する……。
『はじめましての方は初めまして。神道社、社長の天上院姫だ。今回のゲームのルールについては追って司会者に説明させる。まずはプレイヤーへ贈る、全体の指針についてだ。以前にも言ったかも知れないが。私のいない間、よく耐え忍んだ。【世界樹の種】は自然と成長はしたが、指針の無い先行きはさぞかし辛かったであろう。だが、それも今日で終わる。無法地帯は終わり、新たな指揮者の元、真の幕がここに切って落とされる。知恵と未知の狭間を歩き、ゴールの観えない道を行き。さりとて終わらぬ夢に挑み続けた、勇気あるプレイヤー達よ。今こそ、種族も次元の壁も越え。団結するときである! その、団結した【みんな】が切るべきゴールテープはどこか? あえて断言しよう……。私がゴールだ!! 私の心技体、目指すべき理想! 真実! 時間! ラスボス! ゲームの神様! 何処でもいい! 誰でもいい! 私をうならせ! 私を泣かせ! 私を感動させた! そのプレイヤーこそが勝者だ!! 冠婚葬祭その全てを超えて私に挑め!! プレイヤー諸君、道なき道に迷ったらこう祈るのだ! 私を目指せと!!!! 私が先頭だ! 私の後ろにゴールはある!!!! …………ッ! あえて挑発的な言動で、昔の言葉をもう一度言おう。…………プレイヤーの諸君、賭けるものは。――人生だ』
天上院姫は高ぶったテンションを徐々に下げてゆく。深呼吸してリラックスして天上院咲にぼそりと呟いた……。
「……、これでいいか?」
迷える声の行方を受け止めるように、運営陣は声を返す。
「うん、いいんじゃないでしょうか? たぶん。無いよりかはましです」
動画による告知はここで終わっており、いよいよ本腰を入れて。ゲーム開始である。
≪シーズン7の世界にログインしますか?≫
という、シーズン1から7までのシステム的な設定が分かれている仕様に変更されているところだった。もはや、EMOという一つのゲームに。7つのゲームがあるといったほうがわかりやすいだろう。
ちなみに、エピソード1から7までのタイトル名のようなものは無い。エピソード7はエピソード7で。プレイヤー達の物語が個々人違うので。あえて、こういう呼び名になるのだろう。咲はEP7の世界を選択して、次に進む。
天上院姫の最初のログイン場所は、自ギルドが所持している。≪飛空艇・空母エヴァンジェリン≫からだった。ここが、ある意味ロビーになるのだろう。クエストの受付用ロボットもいた。
メインクエスト名は『仮想戦記1942~プレイヤー転移~』
今回のメインクエストはランク制ではなく、選択制になっている。つまり、最低Dランクギルドが最高Sランクギルドと接触して遊ぶ事が許可されている。その大きな1つのクエストの中に、選択肢として3つのクエストが用意されていた。
メインクエスト名『仮想戦記1942~プレイヤー転移~』
≪二人で一人の鎮魂歌≫難易度低
≪新しい熱い歌を私は作ろう≫難易度中
≪おうちかえりたい大作戦≫難易度高
以上の3つとなっている。それぞれ低から高まで順を追って簡単に説明する。
≪二人で一人の鎮魂歌≫難易度低
仮想世界のメインシナリオが1つ用意されている、プレイヤーはその中で好きなように行動してもよい。時間は『夜』で固定されている。舞台は上空高度100M以内。
≪新しい熱い歌を私は作ろう≫難易度中
仮想世界のメインシナリオが複数用意されている、プレイヤーはその中で好きなように行動してもよい。時間は『昼と夜』で固定されている。舞台は上空高度500M以内。
≪おうちかえりたい大作戦≫難易度高
仮想世界のメインシナリオが複数用意されている上に、現実世界と同時進行で時間が動く。プレイヤーはその中で好きなように行動してもよい。時間は『24時間』で固定されている。舞台は上空高度1000M以内。
今回は下はDランクギルドから上はSランクギルドまで、全クラス参加可能の完全にオープンワールドであり。大混戦になる可能性がかなり高い。
EP7はアメリカ・アジア・ヨーロッパサーバーで大きく分かれている。実行できるクエストは一緒。
前回のように、クラス分けをされて介入ができない。ということは無いのだ、ただ一つアジアサーバーという縛りを除いては自由すぎるぐらい、自由である。
主に天上院咲が出会う国は、日本、韓国、中国、インド。
Bランクギルド『放課後クラブ』の農林水サン以外の皆は集まって。難易度高の≪おうちかえりたい大作戦≫を選択することにした。それにあたって、3枚の『戦況地図』が渡される。
そしてフィールドにログイン。咲は上空高度100M以内の、洋式の街並みの屋根上に降り立った。画面の全景からすると、画面右端中央と言ったところだろう。
景色は夜。遠くのほうからは、何やら爆音やら怒号やらが飛び交っている。他のプレイヤーもやりたいことをやりまくっている、やりたい放題な戦場なので。なんかもう滅茶苦茶だ。
流石に、ここの土地勘には詳しい湘南桃花にガイドを任せる。彼女にとってはなにせ2ヶ月後ぶりに来る場所にしか感じられなのだが……。本当に久しぶりの場所である。
月は紅色、黒い雲がかかっている。地面の花はユラユラ。100Mより上は空気遠近法で白くなっていてよくわからない。
「おーおーやってる、やってる」
「皆お祭り好きねー。遊びなのか本気なのかは知らないけど」
あまりにも遠くなのでプレイヤーが何をやってるのかはわからない。『鷹の目』を使ってるわけでもないのでわからない。見えるのは、一番奥のほうに居る。山のようにドでかい超巨大型モンスター『ジーラ』がユラユラ動いている事だろう。
◆
運営管理室、モニター前。
「姫様、アメリカサーバーで。Sランクギルドの1隊がラスボス『ジーラ』に突っ込み。踏みつぶされました。ちなみに悪党ギルドです」
運営陣から聞かされる報告に。呆れる、というよりため息が出る天上院姫。
「放っておけ、今までのはなんとか出来なかったんだ。これから、我らが新しい解答を作るぞ。新しい学校のテストに、我らが解答を示すのだ!!」
「「「「はッ!!!!」」」」
天上院姫は、運営陣を激励し呼応するように言い放つ。
「さぁて諸君。開戦だ!! あ、でもな。適度に休めよ」
◆
今回のクエストは4つ巴の戦場の中から、プレイヤーは第5の勢力となって介入が許可されている。
赤黄青色の三角形に蝶のマークの国『謎の蝶国』
紅と蒼色の縦割りにドラゴンと五芒星のマークの国『神のみわざ国』
緑と桃色の横割りにメダルとVRのマークの国『VR心情国』
ただのモンスター連合国『モブデス国』
そして今回参入する『プレイヤー連合』
「私たちはいつも通りの動きをしましょう!」
「ま、今回ばっかりはそれプラス。慎重も付け足しておきたいわね~」
秘十席群が横槍を入れる。
「わかってると思うが、今回の目的は戦闘じゃなくて救出だぞ」
「へいへ~い」
機械的な声が聞こえてくる。
≪それではゲームのルールを説明いたします。護衛戦です。現在も激戦区であるクレナイ国から、海を越え、ゼロワン国へ安全に避難させることが最重要作戦となります。 戦場で孤立した、『ピンク神楽スズ隊』約1000人の護送です≫
「なるほど、1つ目のクエスト? は護衛任務なのね」
「それはそうと。ヤエザキちゃん。これを受け取ってくれないかな」
と、湘南桃花と秘十席群はヤエザキにアイテムを合成して渡す。
≪『プレゼントボックス』と『信秘の玉手箱』を合成します≫
「え? 何でくれるんですか?」
「責任の押し付け合いでこうなった」
「違う違う! ヤエザキちゃんに活躍してほしいからこうなったの! 変な誤解を生むなって!」
「ま、そういうこと。あとは何も聞かないでくれ」
そう言って秘十席群と湘南桃花は交互に話す。
「ことこの固有結界『紅魔の平原』では最強の武器だろう。あとは使う奴の腕と心しだいだ」
「期待してるよ、咲ちゃん!」
咲は、その刀に込められた重責を噛みしめながら頷く。
「……うん」
≪ヤエザキは神器『真≠幻』を手に入れました≫
日本刀型の神器『真≠幻』は、雑念を己の意思と行動で討つ。Uウェポン。
レア度Uは、レア度の判定外の反則ギリギリセーフの代物。入手条件は湘南桃花と秘十席群によって隠されている。
とりあえず、上空高度1000Mから〈雑念のミミック〉が地上へ降りてきた。姿形はカラス。天上院咲は、どうやって倒そうかどうかで迷う。
「どこでも良いわよ、倒すことに意味があるから」
「ヤエザキの場合、よそ見し過ぎで。集中力が散漫になってるから。力が拡散しちゃうんだよ」
湘南桃花と秘十席群はアドバイスする。そう言って、天上院咲は集中力を増し。
左手に。短剣『ジーラダガー・オーディリー【深い闇】』を鞘にしまい込み。
右手に。長剣『日本刀型の神器【真≠幻】』を前に出して構える。
「セイ!」
勇猛果敢に剣を前に突き刺す。狙ったのは無難に、体の中心点。雑念のミミックは「キキキ……」と唸り声をあげて、静かにポリゴンの欠片となり、四散した。
「ふ~~~――…………ッ!」
ため息とともに脱力するヤエザキ。
湘南桃花と、秘十席群は正義のスーパーヒーローのように『戦鳥』と名前を変え、変身してから言う。
「あんたの場合、〈防音クリアボディ〉での騒音は防げるようになったから。〈集中力〉のスキル覚えたほうがいいわよ」
「ただでさえ難しかった〈集中力〉だ。集団戦ともなるともっと難しいだろう……」
言ってから、ヤエザキの前後。桃花は後ろの敵。戦鳥は前に居た敵。その泥人形型のモンスターに攻撃を多段ヒットさせて。これを撃破する。
桃花は鋼の剣に電撃を付加させた科学的な一撃を。戦鳥は将棋の全駒を五芒星に張り巡らせ、敵を捕縛させ己の右手拳で攻撃を喰らわせる魔術的な一撃を。
泥人形達はポリゴン片となって前後1000匹吹き飛ばす。そもそも二人はゲームをする気などさらさらない。本気と書いてマジだった。
「この介入部隊は、何が何でも負けるわけにはいかないんだから!」
「そうさ。相手が賊だろうが、世界政府だろうが、何だろうが、関係ねえ! 必ずこの隊は勝たなきゃならない!」
二人の本気度に負けまいと。ナナナ・カルメルは羽根つきゴブリンが遠くから魔法攻撃を放ってきたので。軽量版オールド・ミラーシールド【改+1】で守りながら跳ね返す。
その攻撃をモロ喰らって、鈍足状態になったゴブリンを。ネオライト・フェザーソード【改+5】の剣先から魔法を発動する。
「テラ・ウインドスワロー!!」
風の燕を具現し対象に向かって弧を描くように飛んで攻撃する、飛距離が伸び超長距離の攻撃対象の所まで確実に命中する。が、ダメージは低い。
それでも十分、この最初の地では有効打だったようで。羽根つきゴブリンを倒すことには成功した。
「二人にいいかっこさせるわけにはいかないもんね!」
それに続いて、遅れてログインする。エンペラー、遊牧生。ちなみに天上院姫/農林水サンはまた今回も参加しない予定だ。
次いで、≪ヤエザキ親衛隊002≫である『九賢者魔団』のガンダルのフメンバーと合流。
そして、今回はもう1隊。合流する予定がある。
エンペラーのCW時代からの廃人メンバー。ギルド『ターニャン自衛隊』だ。
「遅いぞ! 歩幅合わせる気あるのか!?」
「悪い! これでも道草せずに来たつもりだ!」
「本気かよ……まあ生真面目じゃあこんなもんか……で、おい。先行して迎撃の許可を出していいんだよな?」
「あぁ、いいぞ。上空高度100M以内での武力介入を許可する。ご武運を」
「よし、オイお前ら! 行くぞ!!」
そう言ってその隊は全速力で飛んで行って見えなくなった。戦場を悪い笑顔で持ちこたえているこの幼女だが。実力は紙一重でエンペラーより速い。そのうち慣れるよとギルド『放課後クラブ』には言って聞かせる。
エンペラーは≪ヤエザキ親衛隊002≫に対しても助言ではなく、命令をする。
「ガンダルフ隊は神と名の付くスーパーアカウント善悪合わせて8人の相手だが、……手なずけろ!」
「了解なのじゃ! 全隊! 上空500M以内まで進撃じゃ!」
そうして先行して飛んで行く2種類の違った特色を持つ隊。と、その時自分達『放課後クラブ』の後ろから。アジアサーバー。韓国・中国・インド・日本のSランクギルドの大隊が上空高度1000Mら進軍して行く姿が見えた。
ヤエザキはその速さから自然と声が出る。
「うへえ~流石Sランク、やることが派手だわさ……」
エンペラーは今度こそヤエザキ達を衛ると本気になる。
「俺は上空高度1000Mの奴らが相手だ!」
そう言って、さっさか最新のジェットブーツで天空へと向かうエンペラー。上空高度1000Mまで一気に飛翔する。
「あーエンペラー! 何勝手に行動してるのよもー!!」
ヤエザキ、単独行動をされたので。これにはオコプンプン丸である。
◆
――戦場、野営地。
紅と蒼色の縦割りにドラゴンと五芒星のマークの国『神のみわざ』
ピンク髪に黒服に身を包んだ装束の10歳の戦乙女は戦場に居た。彼女の名はまごう事なき『神楽スズ』その人物だ。はっきり言って自分が何でこんな場所に居るのか解っていない。今回のクエスト最重要人物NPCである。
知らない間に自分は戦場に居て。知らない間に1000人の部下を抱えて。知らない間に味方の国はどこかへ消えてしまった……。本当によくわからない状況に陥ってしまっていた。それから『前の記憶』がぱったり無く。自分が記憶喪失か輪廻転生してこの場に居るんじゃないのか? ぐらいしか解らないでいる。
ただ、自分は面白半分で天空の城に宣戦布告し。森に行ったり雪が降ったり寒かったりしたような気がするが。その『後の記憶』も綺麗さっぱり途絶えている。天空の城は気が付いた時には消えていた。なので、彼女は今。戦場へ前進して瀕死になって撤退して。それから長い月日が経った。という記憶しかない。
どれくらい月日が経ったかと言うと。戦場で野営地を作って。食べれるモンスターの狩りをしたり。野菜を育てて食べたり。魚を釣ったり。時には変な熊さえも食料として命の糧とした者もいる……。その時間は魔法で稼げたが。彼女にとっては1秒間がまるで無限にも感じるほどの膨大な精神時間がすぎさっていたことだけは記載しなければならない。
「ここで暮らし始めて、どれぐらいの月日が経った……?」
彼女の相方である蒼き人型ドラゴン『神楽蒼葉』にそれを訪ねると。
「1ヵ月だよ」
と帰ってきた。
「戦火が広がり始めたのは1ヵ月前、それからスズちゃんが戦場に介入してきてから丁度1ヵ月……と。……今日は日曜日」
「日曜日……。つまり今日は、2ヵ月と1日目の日曜日か……?」
「うん。そうなる」
あまりにも酷なサバイバルの状況だった。ファンタジーにしても限度があるだろう……とも彼女は思う。だが、もし。『前の記憶』と『後の記憶』がもっと悲惨な状況だったら……? そこはどうしても考えたくなかった。思考は止めないが、頭がそれを否定する。
とその時、【知らない誰かが死にそうになる未来が見えた】と同時にここの場所が【破壊光線で木っ端微塵に吹き飛ぶ未来も見えた】時間は……21時だった……。
「な……何時だ!? 今何時だ!?」
「え、何? ……16時だけど……もう夕日は沈んできたねえ~」
「あと3時間じゃないかぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
ふざけるな! 何巻き込んでんだあの桃玉はぁあああああ!! と神様もツッコミをしたくなる瞬間であった。
彼女達陣営の後ろには神の化身『ジーラ』が堂々とまるで玉座に座っているかのように座しており。
行くも地獄、引くも地獄。育てた草花は今にも枯れそう……。そんな渦中にあった。
◆
「どうする? いくら目的地まで遠すぎると言っても。速く1つ目のクエストを達成させたほうがいいにこしたことはない」
「ワープは一度行ったことがないとダメ。上質なジェットブーツ手に入れて、上空に飛んでから横に飛んで、降下するターン数が惜しい。となるとハイ・ジャンプか……」
「当初の予定と違うけど。ハイ・ジャンプは冒険が付き物で片道の出たとこ勝負。て、認識でオーケイ?」
湘南桃花、戦鳥、ヤエザキはそれぞれ口をそろえて確認する。ちなみにジャンプとハイ・ジャンプではジャンプの定義が違う。
ジャンプ:自分がジャンプする仕草そのもの。
ハイ・ジャンプ:魔法を執行した不思議なジャンプ、未知の目的地までジャンプでき。Gを消費して不可能を可能にする。
ナナナ・カルメルがヤエザキに提案を持ち掛ける。
「じゃあ今回は往復を予約しようよ!」
「え?」
つまり、こうだ。ハイ・ジャンプを執行する⇒神楽スズ隊の所まで行き、皆をもう一度ハイ・ジャンプで飛ばす⇒ヤエザキ達のスタート地点へ戻ってくる。ではなく。
まず、神楽スズ隊の座標を指定する⇒ハイ・ジャンプを執行する⇒ヤエザキ達のスタート地点へ飛ばす⇒任務完了。に、時間短縮をする
「でも……人の手を借りちゃっていいのかなあ……?」
「元より今回は1人だけの問題じゃない。100人分の手を借りたってバチは当たらないさ」
ヤエザキの不安を戦鳥が制する。カルメルが「じゃあ後は座標が分かればいいんだね」と『鷹の目』を執行しようとする。
「まって、今回は【他者の現場をのぞき見するわけじゃない】私や戦鳥の目……つまり〈空の瞳〉さえあれば、座標は掴める」
「あーつまり衛星みたいな?」
「今回必要なのは〈空の瞳〉だね」
湘南桃花とナナナ・カルメルが交互に会話する。〈空の瞳〉の発動条件を確認するヤエザキ。
〈空の瞳〉……『鷹の目』を持っている状態で、プレイヤー5人の承認が必要。
というわけで、ヤエザキ・戦鳥・桃花・カルメル・エンペラーの5人の力でもって。〈空の瞳〉を発動させた。
「…………。座標わかった。3のC地点」
すぐさま〈空の瞳〉を解除する5人。
「よし、じゃあ座標3のC地点から、1のD地点までハイ・ジャンプさせるぞ。相手は混乱するだろうが、これが一番安全で速いんだ。皆、ちゃんと説明するぞ」
みんなは「オッケイ」とか「よしきた」と声を合わせる。
「3・2・1・今!!!!」
ビユン!!
神楽スズ隊1000人を、こちらへハイ・ジャンプさせてきた。当然、何が何やら解らず混乱する1000人。と、ここで戦鳥がどこかへ歩いてゆく。
皆が各々説明し始めるそんな中。秘十席群は背を向けながら歩く。
「ログアウトして、散歩行ってくる」
ヤエザキにはまるで意味が解らないが、きっと意味はあるのだろう。湘南桃花は「気にしないで」と周りを制した。
と、その時。上空高度1000Mから急速落下、神念のミミックが湘南桃花の背後から迫り。特殊な拳で襲ってきた。それをヤエザキが長剣『日本刀型の神器【真≠幻】』でとりあえず。
「そこ!」
と言いながら見よう見真似で。横凪にリンゴを斬るように切り刻んだ。神念のミミックは「キキキ……」と言いながら上下に体を分断されてその存在と言う名のポリゴン片となって四散する。
「あ~やりにくい。集中……集中……!」
とブツブツと呟きながら〈集中力〉のスキルの上げ方を考えに考えるヤエザキ。だけど答えは見つからなかった。
を、ヤエザキにばかり考えさせてばっかりだからと。行動でフォローしようとする。ナナナ・カルメルがいた。
地上での攻防もさることながら、今回の上空での攻防も激しかった。神の化身『ジーラ』地上から3人のプレイヤーを目視で確認する。
それに対して、恐れず怯まず。絶対に諦めない【断固とした信念】でこの戦場に【皆で勝つ】と誓う。
上空高度100M。『ターニャン自衛隊』ターニャン、「心のエレメンタル、名は……『天下無双』!!」
上空高度500M。『ガンダルフ隊』ガンダルフ、「心のエレメンタル、名は……『日進月歩』!!」
上空高度1000M。『放課後クラブ』エンペラー、「心のエレメンタル、名は……『衛』!!」
『謎の蝶国』『神のみわざ国』『心情国』『モブデス国』そして数多のプレイヤー達が参入する。
――5つの勢力が群雄割拠する中、その火蓋と言う名の戦火が切って落とされた。
――破壊光線で木っ端微塵に吹き飛ぶ未来まで……残り3時間。
――のちにこの戦争を『秩序のための解答戦争』と呼ばれることになるのであった。
止まらない時の中での後方支援地帯に。前にヤエザキ、後ろにナナナ・カルメルが。二人を互いに守り守りしながら戦地に立つ。
「……、ところでさあカルメル君。この戦、参加するべき? それとも撤退させるスズ隊について行くべき?」
「……、ご自由にどうぞ。片や上心の連鎖、片や下心の連鎖。……だからねぇ」
「それさあ。自由と書いて、拒否権無し。て読みそうだけど……」
どっちを選んでも【逃げる】という選択肢だけは無いことだけは解った、ヤエザキは茶化しながら自然な微笑で返すのであった。
3時間後。なんやかんやあって事態は速攻で収束し。主にランク上位陣の活躍ではあったものの。このクエストはクリアされた。
ヤエザキにとっては「え!? もう終わったの!? 私何にもしてないんだけど!?」と阿鼻叫喚の嵐であったが。リアルタイムのオンラインゲームでは自分の見せ場が無く、何もせずモンスターをワンパンして終わる。なんてことは実は日常茶飯事なので。そういうものだと思って気持ちを切り替えるしか。ヤエザキには感情の整理は思いつかなかった。
兎に角、このクエストは終わった。終わって、誰もが受付で受注可能な一般的なクエストとして。後続組が雪崩れ込む形となった。




