第141話「親衛隊」
◆ネット内掲示板~総合雑談部屋~◆
【なあ、みんなフィールドが広がって。あちこち散っていったけど、皆今どこで何してるの?】
【大きく分けると。初心者は笑いの同盟国ラビットのアシアー大陸、中級者は技の連合国キャットクレナイ国、上級者っていうか最前線は力の帝国バードのシンクウ国にいる感じかな】
【広すぎると賑やかさが分散してしまうのは悩みの種だな】
【心のエレメンタルってぶっちゃけなんなの?】
【心の設定で決めたことに専念することによって強くなる。その志から外れると逆に弱くなると】
【なるほど、解説ありがとう】
【運営さんからこっそり聞いたんだけどさあ、最強のスキル〈大合唱〉は武器の持つスキルらしいぞ】
【なんだその情報、完全に初耳だぞ?】
【なんでも開発中なんだって、普段は視覚できない概念の存在らしくって。第1段階でスキル〈大合唱〉を習得。第2段階でこの世界に漂う見えない指揮棒を認知出来る。第3段階で指揮棒を手にできて、その操作が可能なんだって】
【本当に風の噂だな。全ゲーマーの中で、〈スキル入手〉が現在2人。〈指揮棒認知〉が0人。〈指揮棒入手〉が0人ってことだろ?】
【インフ〇ニティガントレ〇トとどっちが凄いんだ?】
【ただの指揮棒じゃどの指揮棒か区別がつかない、俺らで名前作っちまおうぜ!】
【〈真世界の指揮棒〉で良いんじゃね?w】
【カッコいい! それしか無いって感じでいいね!】
【公式から発表があったぞ! えっと……】
【ホラ! ここで噂したから変なことになったじゃないか!w】
【俺らガチ勢はこっち狙えってことだな!】
【運営からのデータを貼るぞ、同時にバージョンアップだ】
【これがこのゲームのエンドコンテンツか! 腕が鳴るぜ!!】
【で、武器の性能は……?】
【何も書いてない……ペロ! これは詳細不明の味!!】
【せめて威力だけでも教えてええええええええええ!!】
現実世界、西暦2034年9月9日、午後。
エレメンタルマスターオンライン、バージョン1.6.3。
≪テーマ武器:大天使の指揮棒≫
・第1段階
スキル〈大合唱〉………知らないプレイヤーから、無償でプレイアバターのデータを5人分借りて。ボスを倒す。
・第2段階
『唯一の指揮棒』………〈大合唱〉を習得状態。悪魔型の概念ボスを倒す。他の詳細は不明。
『絆の指揮棒』…………〈大合唱〉を習得状態。天使型の概念ボスを倒す。100人以上のプレイヤーと交流する。
『神天の指揮棒』………〈大合唱〉を習得状態。神型の概念ボスを倒す。他の詳細は不明。
・第3段階
『真世界の指揮棒』……『唯一の指揮棒』『絆の指揮棒』『神天の指揮棒』を合成素材にして生成する。
◆
仮想世界、西暦2034年9月9日、午後。EMO
力の帝国バード、シンクウ国、闘技場~荒地~。
ヤエザキは思った。どうやらこのクエストを受けているのは自分達だけではないらしいと。今更な説明かもしれないが、この地をグルっと囲むように。方位、東西南北。上空地底。最前線から最後尾まで、至る所でチームを組んだギルドが散見できた、1週間後という時間も相まって。大分体が温まってきたころだろう。
ウォーミングアップとしては、少し体を温め過ぎな気がしないでもないが。ヤエザキはゲームグラウンドという名の己のフィールドへ。一歩足を踏み出す。
……、……。
天上院咲/ヤエザキの目の前に現れる、と思っていた敵は。不自然なくらい何も起きなかった、否。まるで始まる前に終わったような、そんな静けさである。
「? 、……? 静かだね」
天上院姫/農林水サンにとっては、まるで『足並み揃えられなければ速攻、天☆罰』ぐらいのびっくりするぐらい、何も起きない静けさだった。そんなことを思いながら、再びAランクギルドと出会う【時が追いついた】。
「よう、待たせたな。三ギルド!」
「……何で1週間後なのに、まだ居るの?」
そんな疑問など総スルーして、待っていた3ギルド。
近衛遊歩/エンペラー、神楽蒼葉/ナナナ・カルメル、流川成長/遊牧生の男性3人チームも、驚愕とも違う。拍子抜けに近い感情にさいなまれる。それぐらい【劇的なことが不自然なくらい起こらなかった】のである。
「まあ、ここまで来るのは楽だったけどな」
「どういう理屈なんだろう……?」
「ひええ、安全に来れて良かったぁ~」
これに対して、『九賢者魔団』ガンダルフ。『地図化到達し隊』ノートン。『人間ゲーム同盟』スカイ。は自身のギルドリーダーとして声をかける。
「おぉ、来たか。【間に合って良かった】一応、片づけは終わったぞ」
「待ってましたよ。えぇ、ボスを倒さずに待ってました」
「整理整頓。そこら辺のザコ敵は一掃しといたぜ」
これでこの場には、5人×4チームの合計20人が集まった。農林水サンがヤエザキに「クエストの準備はいいか?」とアイコンを表示させる。
「うん、じゃあ始めちゃって」
「うし、じゃあひと狩り始めようかの!」
ただいまより≪Bランククエスト【全長50Mの麒麟型巨像ゴーレムに挑め!】≫を開始いたします。
勇ましく駆け足な、重量感のあるボス戦BGMが聞こえてくる……。
「グオオオオオオ!」
巨像がゆっくりと上体を起こし、その場に出現した……。農林水サンは自分勝手にヤエザキに決め込む。裏の理由としては、ちゃんとデータ収集したいからだ。
「んじゃ、私は傍観を決め込ませてもらう。こんだけいるんだ、頑張れ。私は戦わない」
「お、ぉう。わかった」
ヤエザキもこの不穏な動きは、過去に何度かあったので。特に問い詰めなかった。
「ヤエザキ、解ってると思うが。お前は今レベル15ぐらいだからな? エンドコンテンツのスキルを取っただけのエンジョイプレイヤーだ」
「わかってるって、最終決戦のつもりでいくよ!」
「いや……お前絶対わかってないだろそれ……」
エンペラーが場を和ませようと、緊張の糸をほぐす。
「先手は俺から行かせてもらう。プレイヤーと一緒にゲームを作っていくのが、オンラインゲームの醍醐味だろ。な、GMさん」
「む……それは盲点だった」
天上院姉妹を衛るように、『放課後クラブ』の最前列に立つエンペラー。それに続くように前回活躍できなかった、男性組3人は前へ走り始めて戦闘が本格に開始される合図となる。
「と! んじゃ『鷹の目』使わせてもらうよ! ゴー!」
ナナナ・カルメルがアイテム『鷹の目』を上空に展開させる、念のための保険だ。やはりこういう団体戦の時は、非常に重宝する。ゾンビの大群戦も人数が凄かったが、あれほどの人数では無いにしろ。やはり視野は広いほうが良い。先に展開させて、時間の隙をついて上空から見定めるつもりだろう。
「僕も手伝います〈索敵〉!」
遊牧生が持っていたアイテムで〈索敵〉をして、敵の情報を分析する姿勢に入った。
女性二人が後衛、男性三人が前衛の形が出来上がった。
≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■■■■×20/20 バリア×20
元となる形は麒麟、マグマを皮膚に鎧として身を包み。重々しい岩型ゴーレムの聖獣。頂点からマグマを吹き出し、敵を寄せ付けない。攻撃は首を横なぎに振るか、走ってマグマをまき散らす。知性は獣同然で言葉を解すことはない。重々しくも神々しい鳴き声が特徴。
「え!? 何バリアって!? 更にバリアを〈索敵〉!」
〈バリア〉……展開すると、瀕死になりそうな技を受けてもHPを1マスだけ残して耐えることがある。
「きあいのハチ〇キだあれ!! しかも持ち物20個持ってる!?」
「アレってこの前ヤエザキが放った最強チート攻撃でも、必ず1マス残るってことじゃねーか!?」
「誰か盗賊スキル持ってねーか! 邪魔すぎるアレ!!」
20人誰も持ってないよ、と顔を横に振った。ので、エンペラーは走る。敵の巨体の攻撃をかわしながら。即席でステータス画面を開き。腕と手と指を高速で動かす。
「えぇい! 無いなら作るぞ!! マニュアルモードオン! 拡張プラグイン!」
≪拡張プラグインモードに入りました、ご命令をどうぞ≫
「〈世界樹シスターブレス〉にアクセス! 〈連結体〉に接続! CWにある俺のアカウントの一部データを〈変換〉! ゲームシステム〈呪文コード〉をコピーしてこっちで〈技能コード〉に変換!」
≪拡張プラグイン命令により。EMOにある、スキル欄に〈呪文コード〉を加記入しました≫
≪〈呪文コード〉を〈技能コード〉に変換しました≫
「マニュアルモード続行! 『強奪』と『継承』を合成! スキル『お持ち帰り(テイクアウト)』を生成!!」
≪〈技能コード〉により、『強奪』と『継承』を合成≫
≪エンペラー様のスキル欄に『持帰り(テイクアウト)』が生成・追加されました≫
「よし! スキル! 『持帰り(テイクアウト)』発動!!」
巨像に謎の光が入り、何かを奪った。エンペラーはバリアを5枚手に入れる。代わりに、エンペラーの所持金。Gが消費された。
≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■■■■×20/20 バリア×15
「よし! 成功だ!! そのまま『継承』を『放課後クラブ』全員に分配! これらをオートモードに設定!」
≪敵エネミーに『お持ち帰り(テイクアウト)』発動後、G消費。バリア5枚入手後、『継承』を使い『放課後クラブ』にバリアを1枚ずつ分配……、をオートモードに設定しました≫
『放課後クラブ』5人全員分に1枚のバリアが展開された。
エンペラーの動作を、天上院姫/農林水サンは心の中で考察、音読する。
(ギリギリセーフだな……。やってることはどのみち、理屈こねて奪ってるだけだが……。他ゲームで既に持ってる自分のデータをこっちに持ってきて、さらにシステムを変えずにプログラム変換……。これが他社のゲーム・他人のアカウントのデータだったら完全にアウトだ……。CWとEMOは神道社のゲームだし……)
エンペラーの熟練度を指し示す丁度いい機会となった。ヤエザキではデータはあってもこんな真似は出来ない。
次に動いたのは『九賢者魔団』のガンダルフだった。周期を観て堅実に攻撃回数を打ち込むプレイスタイル、焦らずボスモンスターに攻撃を打ち込む所作は流石としか言いようがない。ついでにナナナ・カルメルが展開した、『鷹の目』の事まで気にしている徹底ぶりだ。
(ふむ、速くも遅くもないプレイスタイル。ヤエザキの吐息を観てからの阿吽の呼吸も見事……。足並みの揃えやすさで言えば。やはり『九賢者魔団』に軍配が上がるか……、とはいえ。他の2ギルドがそのまま黙って1つの椅子を譲るとは考えにくいが……。ま、そこまで考える必要はわしには無いか)
「ただじゃ終わらない。だろうな」
エンペラーが臨戦態勢から、さらに自身を奮い立たせる。
「さっさと使うか……」
「「「心のエレメンタル! 名は……!」」」
ギルド『放課後クラブ』の男性陣が、各々に心のエレメンタルを発動する。
「『衛』!!」
「『情意投合』!!」
「『廻天』!!」
ピピピピ! と 青白い枠線にステータス画面が浮かび上がる。
【『衛』PW3000/MAX4000】
【『情意投合』PW600/MAX1000】
【『廻天』PW1200/MAX3000】
心の志がブレない限り、強く在れる。この力で、特に技もなく肉弾戦で3人とも巨像の足元を繰り返し殴り続けること、3分。
≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■■□□×10/20 バリア×8
「あいつらの目標は達成された、やるぞ」
「おお! もう遠慮はせんぞ!」
「キメてやる! 僕だって、役に立つんだ!」
「「「心のエレメンタル! 名は……!」」」
ギルド『九賢者魔団』『地図化到達し隊』『人間ゲーム同盟』が、各々に心のエレメンタルを発動する。
「『賢聖』!!」
「『未踏』!!」
「『遊戯』!!」
ドン!!!! ――! ……!! ……。
その発動と同時に辺りは真っ白になり、何も見えなかった。どんな技や能力を使ったのかもわからず。ボスモンスターは倒れた。
≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HPSランクギルド□□□□×00/20 バリア×00
〈クエストクリア! ≪【全長50Mの麒麟型巨像ゴーレムに挑め!】≫ は終了しました。結界は解除されました。〉
「おい、お前の姉。あっちでAランクギルドと何か話してるぞ」
「お姉ちゃん、やっぱ何か企んでたんだ……。まぁ隠してるんだったら聞かないでおこう」
ヤエザキの聞こえないところで、農林水サンは。≪Aランク裏クエスト≫の結果発表を行うことにした。
「スカイ、お前は遊びすぎ。ノートン、お前は力みすぎ。ガンダルフ、お前は気にしすぎ」
3リーダーとも、あらぬ方向に評価が飛んで行ってることに気づき。若干、釈然としていない。
「ちょ、そこは判定の対象外だろ!」
「頑張りすぎってそれは無いんじゃ!」
「クエストを真面目にやってこれか!」
農林水サンは一拍間を置く。
「てーわけで~……ドドドドドド!!」
「「「ごくり……」」」
運命の分かれ道が、ここで決まる。
「デン! ≪ヤエザキ親衛隊002≫は! ガンダルフじゃ!! あ、ちなみに親衛隊001わワシな!」
ガンダルフ、かっこ女性は一瞬固まった後。我に帰り。そして再確認するように農林水サンに言う。
「そ、それって……アレか……? あれが出来るのか?」
「あぁ! ≪創造神代行代≫ 正式採用じゃ! 喜べ、この世でただ一人。その権限をワシから贈る!!」
「いやっったあぁあああああああああああああああああ!!!!」
農林水サンは笑みを浮かべて、激励を送る。
「今後とも精進な! これからよろしく頼む!」
「終わった? お姉ちゃん」
「あぁ終わった。……聞かないのか?」
「どうせ社長関係か、運営絡みでしょ。あたしは今まで通り、エンジョイプレイを満喫する」
「……そっか。なら咲の好きにすればいい、私はどこまでもついてゆく!」
そう言って、Aランクギルドとの長くて短い関係は。ここに一端の幕を閉じた。
◆
現実世界、西暦2034年9月10日、午前。
朝、天上院姫は学校に登校して。姉妹で談笑していた。
「さて、心のエレメンタルの件はいったん終わったし。次はどこに行こっか~」
「第4世代機:MFC000(ミラーフォースコンバートオーズ)の調子はどうなの?」
今まで散見されている機能としては、緊急時の心臓マッサージ。神経の入力出力のエラー感知。他ゲームからの変換即時決行。などが代表例で、いずれもゲームプレイの安全面では上手くいっている。
「紆余曲折あったけど、順調かな。やっと地に足ついて自分で旅してる気がするよ。寝てるけど。どうする? 何なら別のゲームでもやってみるか? CWの時みたく」
「ん~……や! 折角、オープンワールドで全てが繋がってるんだったら。ちょっと一人で冒険してみるよ」
「や! 一人はダメだ! 私が……」
「そんなシガラミ私には無いよ。大丈夫! ログインしたら速攻で友達出来る自信あるよ私は!」
「お、おう。まぁ、初手でラスボスや運営や社長が居ると。冒険味が薄れるしなぁ……」
「世界やステータスはリセットしないけど、私の物語はリセットさせてもらうよ! でなきゃ新しい出会いが無いもん! だから運営室かどっかで見ててよ」
「む~。そこまで考えが座ってるなら。見守ってるよ……無茶はするなよ」
「うん、わかった。無茶をしたらすぐログアウトする」
仮想世界、西暦2034年9月10日、午後。
エレメンタルマスターオンライン、バージョン1.6.3。
天上院咲/ヤエザキ ログイン。
笑いの同盟国ラビット、カネトチエ国、アシアー大陸、電脳の街ライデン。別名、始まりの街。
「ようこそチュートリアル場所へ、そう構えなくていいよ。て、リラックスしてるか」
転移門から出てきたヤエザキ。見ると、そこには木製の椅子に座っている湘南桃花が佇んでいた。
周りの空間には上下に透明な水しかなく、自分が鏡写しになっていた。水平線まで広がる空間には星々が散りばめられ。まるで星平線だった。
「あ、桃花さん。こんちわ、えっと。豪華客船と戦乱都市以来でしたっけ……」
「悪いね、間接的に巻き込んじゃって。て、あんたにとっては自覚は無いか」
「?」
「ふむ、……なら。先人の知恵を借りましょう」
そう言うと、桃花は指パッチンをして時空間を進める。あたりが一瞬真っ白になった。見ると、湘南桃花の後ろから。三面鏡が幻想的に出現した。
≪キミは何を求める?≫
【心:技:体】
≪キミは何を学びたい?≫
【絶対:支配:狭間】
ヤエザキは困惑する、この3択の中で1つしか選べないらしい……。
「これは後で選びなおせるの?」
「変えられない。チャンスは1度だけよ。大丈夫、私も通った道だし」
散々悩んだ挙句、結局ほぼ直感で決めた。
「むう……、じゃあ……【体と支配】で……」
「オーケー。把握した、キミの選択を尊重する。……では、行ってらっしゃい」
ヤエザキは、結局、湘南桃花が何をしたかったのか。わからないまま、チュートリアルは終了し。いつも通りの転移門前公園に飛ばされた……。
ヤエザキは、仮想世界。転移門前で神心喪失した状態から魂が戻り、復活を果たした。地面に横になっていた体を自力で起こし、己の意思で立ち上がった。
「むうゥ……何だったのよ今の……」
立ち上がった先には、いつもの人混みでごった返している。活気に溢れた街並みだけがあった。ヤエザキはとりあえずステータスを確認する。
◆天上院咲/【改名】ヤエザキ
レベル15
心のエレメンタル:『最終決戦』
称号:≪最吉最善の幸運者≫≪モンスターを調べる者≫≪最終決戦おひとよし≫≪まっしろなみちにひかりさすもの≫≪セミプロ≫
装備1:短剣『ジーラダガーオーディリー【深い闇】』
装備2:長杖『トリックメーカー【改+3】』
装備3:眼鏡『万華鏡転生レンズ【改+3】』
装備4:靴『真新しいスニーカー【改+3】』
スキル:防音クリアボディ、ハイジャンプ、雷速鼠動、超反応、古今無双。
システム外スキル:念波。半運命感知。
シーズン履歴
第1シーズン「プレイ時間が350時間を超える。39000匹のうっぴ-を倒して、喋るうっぴ-を最初に見つけた」
第2シーズン「姉である運営をフルボッコにする。クリスタルウォ―ズという別のゲームで200時間かけて【念波】というシステム外スキルを習得した」
第3シーズン「空をジャンプで飛び、最3階層まで強引に突破して。最強のSランクギルド『最果ての軍勢』に出会った」
第4シーズン「ゲーム本編のラスボスであるゴ〇ラの鱗を剥ぎ取って、短剣を手に入れた」
第5シーズン「ゲーム内で死ぬ気で戦って一度心肺停止まで行ったが、第4世代機『MF00(ミラーフォースダブルオー)』によって心肺蘇生し。復活した」
第6シーズン「ギルド『九賢者魔団』のガンダルフが≪ヤエザキ親衛隊002≫として。ヤエザキの傘下に入る」
(おいちょっと待て、何だヤエザキ親衛隊って! お姉ちゃん何かやったのか!? てか第6シーズンこれで確定なの!?)
あともう少しで、第6シーズンは終わるらしい。期間としては1週間程度だったけど、中々に濃い内容だった気がすると。ちなみに、何の因果かこの親衛隊さんも女性……。
「ん~、最近女性プレイヤーとばっかり遊んでる気がするから。男性プレイヤーに声かけてみたいなぁ」
などと独り言を呟いていたら、「あのぉ~」と声をかけられた。見た感じ、初期装備の初心者プレイヤーだった。初心者は白と赤が特徴的な服装なのでわかりやすい。
「ん、何?」
「俺このゲーム初めてなんだ、よかったら遊び方教えてくれないか? 君ベテランっぽそうだし」
秘十席群というプレイヤーに似てる初心者がヤエザキに話しかけてきた。ヤエザキは特にやることもないのでそのお願いを受けることにする。
「ん、いいよ。ちょうど暇だし。あなた名前は?」
「キリトです!」
「……あんた有名なゲームキャラを名前にすれば良いってもんじゃない気がするわよ……キリト君……」
過去にもスズ、という名前のプレイヤーもいたので。どっこいどっこいだが。ブロード属性なのか??? なんにしても、恋愛ゲームの攻略対象にならないように気をつけよう。と、精神的ガードを固めるヤエザキだった。
見た感じ、ナンパというわけではなく。本当に初心者らしい。ヤエザキとキリトは初心者の街をちょっと出て、スライム型のモンスターのいる。フィールドへ足を運んだ。
フィールド『草原』で一通りの訓練を終えた、キリトは。初期動作をある程度マスターした。
「第1第2動作と、あと秘奥義と心のエレメンタルがあって~特技は~……」
「てい! やあ! とお!」
スライムがポリゴン片となって、ゆる~く爆発四散してゆく……。
「おぉ~上手い上手い! 私の時とは大違い」
「そんなに違うもんなんすか?」
初心者用の冒険の剣を鞘に納めて、キリトは話しかける。
「あの時はバージョンが古かったから、私も。私の姉も手探りだったし、今は先駆者もだいぶ居てかなり動きやすくなったと思う」
「かなりっすか」
「そう、神経出力の流れって言うか? 命令記号が頭の中でスムーズになった感じ、いつも最前線組に居たから。余計にそう感じるわね」
「ヤエザキさんって最前線プレイヤーだったんすか!? うわ~すげーっす! 憧れるっす!」
「憧れるも何も。ただエンジョイプレイを満喫してただけだよ? わたし」
「はぁ~ 今から最前線プレイヤーに追いつけるかなあ~……」
Aランクギルドの人たちの凄さ、レベルを知ってるから。いや無理だろう、という感情を抑えて。可能性は無限大だよ。と説く。
「できるよ、私でも。エンジョイプレイヤーでも、この地位なんだ。何とかなるっしょ」
感心するキリトに対して、次は生産職や。飛空艇の事も教えようとして。それからそれから~。とか考えている内に。
「あ、そろそろ落ちますね。僕は基本ゲームは1時間なんで」
「短か!? ……まあ普通の一般人はそうか……うん。おつかれーまたー」
自分がかなりの、プレイ時間を費やしていると感じてしまうヤエザキ。もしかしたら自分もかなりガチプレイヤーの仲間入りになっているのではないだろうか? という危惧すら生まれてくる始末であった。
「底辺からいつの間にかAランクギルドが、なんか知らない内に傘下に入ってるような感じだもんなあ~、大体お姉ちゃんのせいだけど……」
ピーンポーンパーンポーン♪
≪ただいまより。エレメンタルマスターオンライン、メンテナンスに入ります、1時間後に開催となりますので。皆様是非お試し下さい≫
「お、メンテか。いよいよもって。ゲームをやってる感じがするな~。こういうのって没入感って言うんだっけ? 次はどんな冒険が待ってるんだろう、楽しみ!」
メンテ終わったら何をしよう。あれもやりたいこれもやりたい。と、ある意味現実逃避にも見えるそれは。それでも確かにヤエザキを成長させている。
そういうわけだったので、ヤエザキはいったんログアウトして。1時間後に始まるクエストを、まだかまだかと待っているのであった。




