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少女は異世界ゲームで名を揚げる。~ギルド『放課後クラブ』はエンジョイプレイを満喫するようです~  作者: ゆめみじ18
第6章「ミラーフォースコンバートオーズ」西暦2034年9月1日

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第140話「裏クエスト」


 デジタル空間、チュートリアル部屋、秘密会議室。そこには3人のAランクギルドチームのリーダーが集められていた。

 第2位『九賢者魔団』ガンダルフ。第3位『地図化到達し隊』ノートン。第4位『人間ゲーム同盟』スカイ。


 『九賢者魔団』

 堅実な実力に加え。圧倒的な魔法量、魔術量を兼ねそろえているが。プロの世界では中堅。今まで冒険したプレイ時間はこの三ギルドではナンバーワンである。だが、冒険量・知名度・技術力では測れないのがプロの世界。天上院姫は気に入ったから召集しただけで、その真の実力をまだ彼女は知らない。

 『地図化到達し隊』

 プロの世界では新米のルーキー。だが、未開の地を探索サーチするロマン砲に優れているので、【天上院姫の推薦】で今回召集された。データ的には『最果ての軍勢』にも劣らないスペックのはずだが……? 世界地図は完成しても、ダンジョンは今でも未開の地なのでまだまだ需要はある。

 『人間ゲーム同盟』

 プロの世界でも完全にSランクギルドなのだが。団員が全体的に体調不良になりやすく、仕方なくこのランクに甘んじている。このギルドはダブルリーダーの体をとっているのでリーダーが二人の男女で構成されている。が、今回は男性のみ召集されている。このリーダー二人は職業『人間』でここまでの地位についている。かなりの戦術家とみて間違いないだろう。


 いずれもが強者ツワモノれっきとしたプロだ。

「≪Aランクギルド・裏クエスト『次期女王補佐決定戦』≫? まどろっこしいな、何かワケがあるのか?」

 神道社社長、EMOエレメンタルマスターオンラインGMゲームマスター、天上院姫/農林水サンは、3ギルドのリーダーを沼に導くように深ぁ~く頷く。

「ワケしかないからこういう言い回しになってしまうんじゃがな……」

「で、俺たち3ギルドのリーダーが呼ばれた理由は?」

「例えばそう、ファンタジー風に言うと、私が『天上院姫女王』でその隣に。専属の『緋色の執事』がいる。ここまででは何の問題はない、末永く仕えていてもらって構わないわけだ」

 『九賢者魔団』ガンダルフが同意するように、相づちをうつ。

「まぁそうじゃな」

「だが問題は、この女王政権が2年や4年で終わればいいものを。なんと10年も経っとるんじゃ! あくまでも例えじゃぞ!」

 3リーダーは一言だけ発する。

「「「解ってる」」」

 その言葉に関心と、敬意を評し。サンは続ける。

「そこで、我が最愛の妹! 天上院咲が大活躍し! このゲーム会社の女王! 即ち『神道社』社長や副社長の座に君臨したら? 彼女にも【専属の執事】がいる!」

 察しの良いリーダー三人は、ここまで話しただけでピンと来たようだ。

「言ってる意味は」

「だいぶ解ってきたな」

「……うん」

 サンは誇張でもなんでもなくテンションを上げ、声高らかに宣言する。

「そう! 今回のクエストはタダのクエストではない! 私が認めた3ギルド、『緋色の執事』が≪創造神代行体≫を立てたように。今回のゲームではその権限が与えられる! それが意味するものは何か? そう! EMOエレメンタルマスターオンラインだけではない! CW(クリスタルウォ―ズ)でも! はたまた≪三大機関≫にも! 天上院咲の側近としてその【発言権】を得る!」

 Aランク3ギルドがザワつく。その言葉が意味するものは、決して軽いものではなかったからだ。レア武器とか、ボーナスアイテムとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。

「つまりこの≪次期女王補佐決定戦≫てのは」

「≪最高権力者の補佐になれる≫というわけじゃな」

「な! 何で僕たちが選ばれたんですか!?」

 農林水サンは間を置かず、『地図化到達し隊』ノートンにきっぱりと言う。

「【私が決めた】それだけだ、わしの顔に泥をぬるなよ?」

「な……!」

「面白くなってきた、これは今やってるゲームだけの話じゃねえ」

「現実も、仮想も。その影で補佐する発言権を得るも同義じゃ……!」

 補足するように、農林水サンが付け足す。

「しかもわしと咲は、【知らないを知っている】と【知らない】組じゃ。お前らは【知っている】、今ある世の中を導ける実質の王位決定戦じゃ!!」

 堂々と手のひらを広げて、話のクライマックスだと主張するサン。

「それにしても、何でAランクの俺らなんかに……Sランク達はどうなってるんです?」

「……言いたくはないが。あいつらはなんかもう、≪三大機関≫の補佐役で、わしと咲の補佐役とは呼べないからなあ~。もっと規模がでかいんだ」

「そうか、今回のは。漫画家で言うと、漫画家補佐、作品補佐、キャラクター補佐の。キャラクター補佐に該当するわけか……」

「ま、それ以上は言うまい。とにかく、最初に言った≪次期女王補佐決定戦≫と言う意味が、解ってくれたかと思う」

 社長、農林水サンは言いたいことは言い終わったので。彼ら彼女らに関わる重要案件をゆっくりと、指を、1本立てて言う。

「1ギルドのみじゃ……。それ以上は面倒を見切れん」

 第4位『人間ゲーム同盟』スカイは、人間として、ルールの抜け道を探すように言う。

「咲/ヤエザキってプレイヤーを補佐するってのは解ったが。貢献度ってのは現実・仮想世界。両方で発生するものなのか?」

「仮想世界のみだ、厳密にはクエストで行われる。結界内の中での出来となる」


 彼ら≪Aランクギルド・裏クエスト『次期女王補佐決定戦』≫の内容はこうだ。

・1つ、現実世界での判定は無効、仮想世界内で戦うこと。

・2つ、クエスト、発生結界内のフィールドは『放課後クラブ』『九賢者魔団』『地図化到達し隊』『人間ゲーム同盟』の舞台・データが全て含まれ結合、地続きになっている。

・3つ、非公開情報は無効、EMOエレメンタルマスターオンラインの公開データのみで戦う事。

・4つ、最後には社長、天上院姫がノリと勢いと自由で試合終了と勝者の合図をする。

・5つ、面白いやつが正義だが、ゴールドや課金額は反映されない。


「ただの人間であるスカイが欲しそうな情報は、こんなところだろうな」

「……感謝する」

「皆々考えることはあるだろうが……では、Aランクギルドの諸君。武運を祈る。あ、『放課後クラブ』はいつも通り? クエストやってるだけだから、そこらへんヨロ~☆」

 こうして、神道社・社長。天上院姫による≪Aランクギルド・裏クエスト『次期女王補佐決定戦』≫が始まったのであった。



「今回はプレイヤーとのPVP戦はしないの? エクストラステージだと、盛り上がるよきっと」

「つーても、四重奏カルテット達観者スペクタルズの両ギルドは前に、どっかの動画で見たし」

「普通のモンスター戦にしようぜ、そのほうがやりやすい」

「今一番盛り上がってる場所に行くのは?」

「それだと、技の連合国キャットのクレナイ国かもしれないが。混乱に混乱が重なりそうだから、やめとくべき」

「巨人と戦いたい!」

「巨人、巨人ねえ~」

≪ステージを選択してください≫

「力の帝国バード、シンクウ国、闘技場~荒地~」

≪クエストを選択してください≫

≪Bランククエスト【全長50Mの麒麟型巨像ゴーレムに挑め!】を選択しました≫

 選択画面が色々と出る。

「前に戦ったゴ〇ラて何メートルだっけ?

「ラスボスは100M」

「あーじゃあ半分か~」

「それでも十分にでかいんだけどな」

「あの時はね、バグ。バグじゃなけりゃあギャグ補正。本来ノーカンよ」

「ノーカンでメイン武器取ってるんじゃ世話ないなぁおい……」

 そしてそのクエスト場所に転移する『放課後クラブ』、意気揚々と5人で狩りできるから楽なもんだね~と、思っていた、ら……?

 そんなこちらの思惑などつゆ知らず、というか待ってましたとばかりに。クエストを受注してバトルフィールドに行くと。

 なんとその先には。自分たち、Bランクより上位のギルド……。


 Aランクギルド、第2位『九賢者魔団』。第3位『地図化到達し隊』。第4位『人間ゲーム同盟』が競い合っていた。

 Bランクギルド、第3位『放課後クラブ』だけ浮いていた。

 ≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■■■■×20/20


 遊牧生がおずおずと震える。

「わ、Aランクギルドってもうプロの領域でしょ? 活躍できるかなぁ。てか何で居るの??」

 農林水サンは「ほほう」と補足する。

「相手にとって不足なし。何にしても、あいつらが相手ってことは……」

 ナナナ・カルメルが疑問文を浮かべて、農林水サンのほうをみやる。

「ネットの情報は当てにならない、てことさ」

 ヤエザキはその言葉の意味を図りかねぬ。

「つまりどういうことほみゅう?」

 エンペラーはゲームの実力者として告げる。

「情報戦、データだけの力量じゃ勝てないってことさ。確かな本物の技術を持ってる」

「うへぇえ~、それはまた何とも戦いづらい……」

「ま、今回は討伐クエストだから協力だけどな。よかったなPVP戦じゃなくて」

 一通り人の話を聞き終わったヤエザキは、Aランクギルドに追いつこうと全速力で走り始める。

「最終決戦のつもりで行くよ!」

 ヤエザキに追いつこうと、考えなしに走って続く残り4人。

「速い!?」

「オイ、待てよヤエザキ!? チーム戦だぞ!?」

「ヒャッハー! 戦争だ-!!」

「置いてかないで-!」

 悩んでたって始まらない、それがヤエザキの選択だった。フィールドに結界が貼られる、これから後に続くプレイヤーは結界の外から観戦するしか出来ない。

 四つ巴、≪誰が一番貢献度を稼げるかクエスト≫のギルドチーム戦が始まった。

「お姉ちゃん! ルールは!?」

「制限時間無制限! ノリと勢いと自由!!」

「おっしゃ-! いくぜいくぜいくぜ-!!」

 無茶苦茶だった、楽しんだモン勝ちだった。

 と、その時、一人の少年が高位の呪文を終え、一気に畳みかける!

「てりゃああああああ!!」

 ドゴン! と『地図化到達し隊』リーダー、ノートン。これ以上の火力は出ないとばかりの、初手から豪快無比の殺撃魔法がうなりをあげた。

「グオオオオオオオ!!」

 ≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■■□□×18/20

 この攻撃にはたまらず、麒麟型巨像ゴーレムも重い巨体を崩して倒れる。捨て身の攻撃なのだから、もうこれでゲームクリアでも良いんじゃないかと言うほどの大破壊力だった。

 農林水サンはぼそりと小さく呟く。

「最初で最後の攻撃にはならないでくれよ☆」


「こっちは心のエレメンタルの試し撃ちで来てるのに!、何でAランクが居るかなあ~……」

 エンペラーは身構えながら、ヤエザキの愚痴を護衛するように返す。

「まぁその分こっちのチームには、ヘイト来なくて良いんじゃね? 存分に『心のエレメンタル』を試し打ちしよう」

 ナナナ・カルメルがAランクギルドの猛追を観ながらヤエザキの体を急かす。

「さっさと使っちゃおうよ~、このままじゃ使う前に終わっちゃうよ~!」

 微量だが、ガリガリと音を立てて。敵巨像のHPが削れてゆく。

 ≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■□□□×18/20

「ネットの人達が信用できない、信用できない、信用できない……」

 そんな負の思考がグルグルと渦を巻き回転しているさ中……。

 そこらへんに居た、ヤエザキの身長より半分の小型ザコ麒麟ゴーレムを倒して道を進んだら……。

 まるでそれを振り払うかのように「頑張れ!」と言われているかのように……。

 ピコリン……!

 ヤエザキがスキルを覚えた。

 ≪奏者スキル、『コンダクター(指揮者)』を覚えました!≫

「は!? 何でこんな時に覚えるの!? 今は心のエレメンタルを……」

「良かったな、感動の瞬間だぞ。泣けよ」

「泣くか! よくわなんないのに! てか魔法剣士なのに〈奏者〉のスキル覚えたの!?」

 ヤエザキにとっては、不自然なくらいに脈絡がなさ過ぎた。エンペラーは何か解ってるかのように、ヤエザキを茶化す。

「システム外スキルじゃない。ちゃんとゲーム内のシステムだ、思いっきり使え」

「は!?」

「『コンダクター』の技名〈大合唱〉は今の今まで四重奏のプレイヤー名『リスク』以外操れたことはないぞ!」

「え!?」

 これにはGMゲームマスター農林水サンも、驚愕の表情でヤエザキを観る。

「なに!? このタイミングでか!?」

「使い方は……もうわかるはずだ」

 エンペラーが脈絡もなく理解させる。ヤエザキも〈膨大なデータが味方してくれて〉……解った。

「……! 解る……使い方が……解るッ……!!」

 ヤエザキの短剣『ジーラダガーオーディリー【深い闇】』が【大合唱】に属性変換される。短剣をタクト替わりに、結界の外の膨大な観客のアカウント・アバターを言霊群団として。操る。

「ふー……。アバターの皆! 右! 左! 後ろ! そ、そのまま~……総員! 突撃!!」

 絆として繋がっていた。心がリンクしていた、ネットアカウントが、全て。≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫に、点となり線となり面となり立体となって言霊がぶつかる。

「グオオオオオオオ!!」

 農林水サンはまたしても、驚愕の声色で発する。農林水サンのシステム外スキル『念波・ポリゴンサーチ』により、そのアバター。一つ一つのデジタルデータが可視化され、観測して【敵のダメージが入る前】に。そのダメージ合計量が解った。明らかに今やっているゲームバランスを崩すほどの数値。オーバーダメージだった。

「やっべー! この攻撃、総合攻撃力第2位のオーバーリミッツを超えてるぞ!? おい運営! 威力を思いっきり落とせ!!」

 それを聞いた運営スタッフは、慌てて。桁2つ威力を落とした。

「グオオオオオオオ!!」

 ズドン! と音を立てて大群がぶつかる音とともに。巨像が宙を浮き吹き飛ぶ。これには他Aランクギルドもびっくりである。

 ≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP■■□□×9/20

 一瞬、戸惑ったヤエザキだが。気を引き締めて、そのノリと勢いのまま。『心のエレメンタル』を叫ぶ。

「心のエレメンタル! 名は! 最終決戦!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ピコンッ!

【『最終決戦』PW1000/MAX1000】

「バカバカバカバカ!! 運営! 威力下げろ! どんな威力でも80%減だ!!」

 運営もこれには対応に追われ、速攻で設定を操作する。そして、宙をグルグル飛ぶ大群のアカウントが嵐となり。ボスモンスターに向かって突撃すると……。

 ズドン!!!!

 ≪麒麟型巨像ゴーレム・アルケミスト≫ HP□□□□×0/20

 ピ----------------------!!!!

 ≪ひと狩り終了! 再戦したい時は受付に申し込んでね☆≫

 

 ヤエザキも農林水サンもAランクギルドのメンバーも。やり場のない驚愕が、場を包んだ。ドクン……! 瞬間――、この世界のゲームのコア〈世界樹の種〉が。まるで一個の細胞が活性化して鳥肌が立つように。緑色から赤色の変わり、一個の立方体ポリゴンが波紋を一気に広げてゆく……。その効果はEMOエレメンタルマスターオンラインのみならず、〈世界樹の種〉に連結している枝葉根に満遍なく行き届き。そのあと自然と緑色に置き戻った。

「使える……、できる……、できた!!」

 デジタル世界、……仮想世界で大合唱が響き、その振動で大反響が巻き起こった。【その効果】に一人ではしゃいでいる、ヤエザキの声だけが木霊し、波紋しつづけ、自然と消えて治まった。


 ピピピピ……。0101……。

 モブ運営社員が画面の外側から数字の羅列、データを観ながら言う。

「あ-、これはアカウント数が無限になってますねぇ……」

「つまり……。設定ミス?」

「ミスってますねぇ。いや、操作性のほうは完璧なんですけど……」

 運営と社長との歪なヒソヒソ声で話しているそんな中。

「けほ! けほ! けほ!」

「ど、どうした咲!」

≪エラー、エラー、警告。神経の入力と出力に異常を感知しました。直ちにログアウトして、安静にしてください≫

「そ、そうか。すまないAランクギルド! この話はまたな-!」

 そう言われたら仕方がないので。すぐさまログアウトすることにした天上院姉妹だった。ギルド『放課後クラブ』もそのログアウトに続く。置き去りにされたAランクギルドのリーダー達はただただ思う。

「……、どう思うよお二人さん」

「これで、引き下がったら。折角選ばれたのに社長の面汚しじゃ」

「僕たちが、汲み取って昇華させるんだ……!」

 巨大ボスの頂点に立っていた、Aランクギルドリーダー3人組は。雑念を振り払うように、ジャンプし。地に足をつけて、「ここは任せろ」と言わんばかりにその場に君臨し続けた。彼ら彼女らは、再びの時を座して待つ……。



 現実世界、西暦2034年9月2日、午後。天上院家。

「おい、大丈夫か!?」

「ごめんお姉ちゃん、きっと軽症だから。落ち着いたら一緒に病院行こう」

「あ……あぁ、そうだな。落ち着いたら行こう、何かの間違いかもしれん……」

「どこの調子が悪いんだ?」

「えっと……左耳」

「みみ……?」 


 その日のうちに、耳鼻科の病院に行って検査してもらった天上院咲。すると先生の診断はこうだ。

「耳かきのし過ぎですね、他の異常はありません。2週間もすれば治るでしょう。これならお薬もいりませんね」

「は、はい。……耳かきのし過ぎ……」


 天上院姫は笑っていいのか焦っていいのか解らない表情で、困惑しながら驚く。

「耳かきのし過ぎ!? なんだ心配して損した―! いや待て、耳かきのし過ぎでフルダイブするとどうなる?」

「MFC000(ミラーフォースコンバートオーズ)が≪エラー≫を吐き出す、て! 待って! 私2週間ダイブ出来ないの!? 今こんなに良いところだったのに!?」

「健康あってこそのゲームだ、……ここは2週間フルダイブ禁止令を言い渡す……!」

「そんな-!? お姉ちゃん! なんかフルダイブ以外でゲーム無いの!? EMOエレメンタルマスターオンラインのミニゲーム的な……! 神経を使わない感じの。私の耳かきで2週間飛ぶとかマジ洒落になんない!!」

「そうだな、全体のアップデートで2週間飛ぶのならまだしも……。お前の耳かきで2週間飛ぶのは……なんか素直にアホだ……」

「お願いお姉ちゃん! ゲーム! 私にゲームをさせて―!!」

 目にクマを付けて、姫の胸ぐらを掴んで必死に言い寄ってくる咲。なんか素直にドラ〇もんの、の〇太っぽい咲。

「良い感じにラリって来たなお前……。……解った、テスターってことで据置型ゲーム機を渡そう」

 どうやら今回の結果を含めても、据置型ゲーム機のほうが安心安全面では一歩上らしいことが解った。


 現実世界、西暦2034年9月3日、午後。天上院家。据置型ゲーム機でテレビの前で睨めっこする天上院咲。

「痛い、痛くない、痛い、痛くない……。痛くないゲームなんてヌルすぎるぜ……」

 まったり出来る時間ができたというのに、天上院咲はEMOの面白そうなモードを見つけて。それを選択した。『初心者でも戦える! 超お手軽モード!』が歌い文句だった。

 ピコリン!

≪ミニゲーム:決闘! ボスラッシュ! 18人組手!!≫

 ~ウェーブ1~

 1人目:真理を求める修行僧 湘南桃花

 2人目:時に抗う大賢者 クレープ

 3人目:源泉無名たる紋章夢想の王 マダンテ

 4人目:鏡水操る宿命の遺伝子 ユウニコ

 5人目:未覚の村アシロ代表 バハムート

 6人目:精神の村トプジエ代表 バレッサ

 ~ウェーブ2~

 7人目:最果ての軍勢副リーダー 不動文

 8人目:最果ての軍勢リーダー:不動武

 9人目:表裏一体 真帆転戦鳥

 10人目:散歩大好き 星明幸

 11人目:強化の村カリメア代表 バイタル

 12人目:賢術の村スリギィ代表 ラフティーヌ

 ~ウェーブ3~

 13人目:陰陽の村クゴウュチ代表 チェン

 14人目:伝説の不死鳥 レジェンドマン

 15人目:蒼桜の神門塔の番人 神楽スズ

 16人目:極限纏う電脳の花騎士 天上院咲

 17人目:全天に轟く伝説の妖精 リクション=S=リスク

 18人目:偉大なる者 オーバーリミッツ:レベル9

 なんとこのモード、CランクからSランクまで。全てのランクをカバーされている。そして自分一人とNPC6人、1対6のバトルでスタートするのだ。

「2週間これで遊べってことなのだろうか……?」

 カチカチカチとテレビの前でコントローラーを叩く天上院咲、……思いのほか無意識につまらなそうにボタンを叩く……。

 ~中略~

 感情のない技を習得しただけの、ただのNPCだったので。滞りもなく終わった。

「ん~ダメだ、本物じゃなければつまらん。Bランク判定の敵でも滅茶苦茶弱く感じる……。あ、そうだ。今のうちに奏者のスキルを確認しとこう」


 スキル『コンダクター(指揮者)』

 職業『奏者』が覚える事ができるレアスキル、他者のアバター体分を言霊として呼び出し。操作できる。その辺に居る精霊を言霊として呼び出して戦うのだが。フレンドや仲良くなったNPCなどを、言霊として呼び出したほうが強い。「庭の蟻」のようにワラワラ増えてワラワラ死ぬ。やっていることはピ〇ミン。精霊は無限沸きで威力は弱いが。【自分プレイヤーとすれ違った数】がアバターに判定されているので、咲は3600人分のアバターを言霊として疑似召喚出来る。装備している武器に【大合唱】効果が付加される。

 結構誰もが欲しがりそうなレアスキルなので、入手条件も確認しておく咲。

 入手条件

・プレイ時間が24時間を超えている。

・他プレイヤーとすれ違い通信をした数が3000人を超えている。

・上位『奏者』のプレイ動画を観る。

・群体型のエネミーを倒す。かっこ軍勢エネミーではない。

・知らないプレイヤーから無償でプレイアバターのデータを5人分借りて、ボスを倒す。


「結構どれもこれも条件きついわね、特に。『知らないプレイヤーから無償でプレイアバターのデータを5人分借りて、ボスを倒す。』てのがメインキーみたいだけど。どこで会ったんだろう? 心当たりがない……てかこれ、あれよね? 『ある程度人気者になり、自身が知らないプレイヤーが無償でアバターを貸してくれる』て意味よねこれ? 自身が知らないってのがミソよね~、誰かが私のゲームプレイを観てたんだ。だからそれを応援という形でその力が5人分増えた」

 天上院咲が考えを更に巡らせる。

「誰かが「頑張れ!」て言ってくれたのが心の中から聞こえたから、きっとそうだろう。あとアレだ、胸が5回ピクピクなってからのトリニティ。でなきゃ無理だこんなの……。



「……、……」

 天上院姫は運営室で今まで二人しか発動したことのない、【大合唱】のデータを細かく見定める。

 ここでのデータは運営陣にまでなら誰でも公開閲覧可能。普段の記入方法とは違う、あくまで目安である。むしろ運営陣なら今後の展開に影響するので、目を通しておくようにという体だ。一応社外秘だが、影響力が影響力だけに、プレイヤーにも口伝されていても仕方がない、という認識である。

「みなのもの、どう思う? このデータを見て……」

 天上院姫が、他の研究者や運営に冷静に問いかける。

「どちらも圧倒的な影響力という意味では、代わり映えしませんな」

「相乗効果や螺旋力も他のプレイヤーの群を抜いています」

「初めて見ましたが……いやはやこれほどとは……」

「片や意識なし、片や意識あり。しかも成長する余地がある……何とも末恐ろしい」

「この二人が出会って合唱したら……、いやでも起こりうる未来だ」

「サーバーは大丈夫なのか?」

「それよりも姫様の精神的疲労が!」

「姫様の肉体的疲労も鑑みたらどうだ!」

「今回は威力を社長が抑えましたが、加減なしだとどうなることやら……」

「ボスキャラはこの力に耐えられるのか……?」

「ボスキャラよりサーバーの心配をしろよ!」

「最果ての軍勢と、どっちが強い?」

「強い弱いの問題じゃないだろ!!」

「仮想世界だけの問題でもありませんぞ!」

「プレイヤーリスクの影響力から言っても、ただ事ではないですぞ……」

「均衡が! バランスが!! そうだ調律を!!」

「面白いゲームを……!」

 段々と話題に熱が入ってゆく。天上院姫は、締めくくるように。運営達に伝える。

「……引き続き、管理を頼む」


 リスクとヤエザキの【大合唱】ステータスまとめ。

 ギルド名:四重奏

 プレイヤー名:リスク

 大合唱名:『バタフライ・ソナダー』

 破壊力:S

 スピード:B

 射程距離:A

 持続力:C

 精密機動性:E

 成長性:B

 

 ギルド名:放課後クラブ

 プレイヤー名:ヤエザキ

 大合唱名:『アルティメット・プリンセス』

 破壊力:B

 スピード:A

 射程距離:C

 持続力:B

 精密機動性:S

 成長性:A



 …………。

 そんなこととはつゆ知らず。天上院咲は己がゲームをするのを今か今かと楽しみにしている。

「次こそは皆で心のエレメンタルの試し打ちをしなければ……」

 その言葉を最後に、今回はゲームを終了し、ゲーム機の電源を切った。


 …………。

 その1週間後、耳の調子は良くなり。「完治した」と姉の天上院姫に言ったら、OKサインが出た。これで咲は、バージョンアップ後の心のエレメンタルが実装されてから。久しぶりに、まともにログインできるようになった。


 現実世界、西暦2034年9月9日、午後。

 エレメンタルマスターオンライン、バージョン1.6.2。

 少女は異世界ゲームを起動する……。

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名を上げる。ボカロBGM:最終決戦~ファイナルバトル~
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