第139話「心のエレメンタル」
◆定義確認◆【心のエレメンタル】
漢字を一文字から四文字のいずれかに設定。
一文字のほうは、技術が難しい代わりに威力が高く。四文字のほうは、技術が楽な代わりに威力が低い。
プレイヤーが想う漢字の効果範囲の中で数値を決め戦う。ただし、どれだけ数値を上げられるかは『心の気力』しだい。
心のエレメンタルはプレイ中1つしか設定できず、複数設置は不可能である。ストックして控えておくことは出来る。
ヤエザキはウィンドウ画面を確認してから、姉である農林水サンの方を向き直る。テストプレイということでこの空間には誰もいない、ついでに背景もない。格闘モードとかでよくある練習モードだ。
「これ何を設定しても良いのよね? 例えば私だし心のエレメンタルを『最終決戦』にしても」
農林水サンもこれにはお気楽に同意する。
「おぉ、いいぞ。私も初めてだし。心のエレメンタルは『流』に設定して戦ってみようと思う」
「まぁ、やってみなきゃわからないことってあるもんねえ」
ということでお互い戦闘態勢になり構える。
「心のエレメンタル! 名は……『最終決戦』! うおおおおおおおお!!」
「心のエレメンタル! 名は……『流』! うおおおおおお!!
お互いに感情を高ぶらせてステータスの上限を上げる。電子的な効果音が上昇し終わった後。ヤエザキには50%、農林水サンには70%の数値が浮かび上がる。
これから紆余曲折、戦闘で試行錯誤をしようとしたその時。
◆
ピコン……! とその時。農林水サンの方で別ウィンドウが開かれる。
「おん? なんじゃ?」
咲には聞こえないが。どうやら社長、天上院姫絡みの話題のようだった。
「なんかあったの?」
「あぁ、どうやら他のゲーム会社も動き出したようじゃ」
アメリカの会社とか、日本1位の会社とか。咲にとっては他のゲーム会社が動き出す理由や意図が掴めない。
「それって、心のエレメンタル絡みで動き出したってこと? そんなに重要なシステムだったの?」
咲のシステム外スキル、半運命感知を持ってしても察することも、感知することもできなかった。
姫のシステム外スキル、運命感知なら。感知程度で、あとは研究員からの外部情報と合わせて理解することとなった。
「簡単に言うと『心のエレメンタル』のシステムには相当長い歴史があるんだよ、あ。具体的な年数とかは言わんぞ」
「つまりどう言うことほみゅう?」
変な語尾をスルーして真面目な解説は続く。
「他のゲーム会社の運営からしてみたら。『やばい! ついにか!』とか『アレをやる気か!?』とか『あの夢が遂に具体的に……!』とか思ってるんじゃないかな? 憶測だが」
他会社の思惑を推測するのが限界で、考察ばかりが続く。
「何でそんなに業界がザワつくの?」
「具体的に言うとこれまた長くなるから、簡潔に言うと。良くも悪くも実績があるんだよ。……と思う」
『心のエレメンタル』で実績を上げてることは何となく解るのだが、『世界樹の種』同様、【天上院姫・未監修】な上に、自然放置だったので。具体的にどのような成果を上げていたのかは、天上院姫は知らないのだ。
なにしろ種の枝葉はほぼ無限に枝分かれしてゆき、人間として全部に目を通すことなど土台不可能な話なのだ。
というわけで、『心のエレメンタル』の定義安定化が。結構重要な要因になっている……。と天上院姫は曖昧に思っている。
「じゃあ私たちが今やってることって結構重要なの?」
「コレを重要視してるやつってのは多分、思い入れがあるんだろうな。金の生る木だ! とは思ってないだろう。どっちかというと『天上院姫様のために……!』みたいな情熱かと」
「全貌は知らないけど、愛されてるんだね」
よくわかってない咲だったが、その朗報には思わず咲もにっこり顔である。
ピコン……! とその時。農林水サンの方で別ウィンドウが開かれる。
「おん? 今度はなんだ?」
≪ギルド『最果ての軍勢』のトップ、いわゆるナンバーワンが実質の引退を発表し。後継者争いが始まっています≫
「おい……、ギルド内抗争だろ? そんなのいちいち聞いてたら新システム発表とか遅れるぞ。いやまあ、仮にもこのゲーム世界のトップの抗争なら報告する余地もあろうものだが……」
≪現実世界での抗争、警察による逮捕、ショック死、学校でのゲームネタバレ禁止令が出ています≫
「…………まじか。」
横で聞いていた天上院咲は、「あ、運営してる……」と意外そうな目で社長の極秘(?)情報をのぞき見していた。
≪集団心理による課金停止、我が社のブランドへの悪影響なども見受けられます。幸か不幸か、裁判所へ訴えるものはいない模様です≫
「まあ、少なくとも我が社はデスゲームやってないしな。他社での事件は聞いてるから、注意勧告はしてるし……」
あくまでEMOは、デスゲームなし。ログアウト可能。ついでに言うとシステム面でも細心の注意を払っているので。少なくともCWよりかは良いゲーと呼ばれている。治安の良さもこれに起因する。変にやり過ぎてない分、刺激が弱いと言うプレイヤーもいるが……。
咲は姫に対して聞こえる距離で「ゲームやる気あるんだねぇ」と「お前は今まで何を見てきたんだ?」と、呟く。
ゲーム自体の認知度が上がって人気が鯉のぼりに上がって行くのはいいが、対処の仕方がもはや自然放置ではないので。このEMOに対しての指針がいるかな? と天上院姫は感じる。
「ん~一度【全体会議】やっとくか、咲。お前も来い、もうセミプロなんだし」
「お、おう……」
やや、緊張した責任感ある面持ちで。全体会議に向かう天上院咲であった。
◆定義確認◆ 【全体会議】
天上院姫は顔が広く、【世界樹の種】の創造主という立ち位置から。信仰者も多い。その影響力は国境を超える。というか知らないうちに超えてた。
そのあまりに広範囲に信者が居るため、映画、漫画、アニメ、ゲーム、小説業界の範囲に収まり切れなかった。よって、大きな枠組みとして3つの機関に分けられる。
一つ目は、天上院姫の本職である。映画、漫画、アニメ、ゲーム、小説などの≪エンターテイメント機関≫
二つ目は、あまり深入りしたくないと姫は思っているが、どうしても影響力があるので。全世界の国との連携強化を目的とする≪政府機関≫
三つめは、作品や行政とは無縁の。一般市民が協力してくれる≪マーケティング機関≫
なお、全体会議には一般プレイヤーは当てはまらない。基本は非公開なのである。
神道社内、作戦会議室。今回は緊急会議だったので、各代表の招集は難しく。三機関との会話は電話会談という形をとることにした。
会議室には天上院姉妹しか居ない形となる。
「まあ、とりあえず話し合ってみようか。各機関のリーダーはあとで決めるとしてじゃ」
エンタメ【こちらとしては、面白さを優先したいわけですよ。規制強化とか困ります】
政府【姫様は選べる、我らは知っている。しかし、知っているものと。知らないものでの扱いの導きがあれば。……是非ともお聞きしたい】
マーケ【率直にお聞きしたい! 我々、一般人代表はどう動けばいいのですか! これは利益不利益を問わない質問です!】
咲は場違い感が半端ないが、全く知らない人代表として。姫姉ちゃんをフォローできるかで困っていたが……。
咲「うわ、皆。質問がガチだ……」
姫「まぁ、今まで自然放置だったしなあ……。とりあえず、今までフォローありがとう。あ、世界樹の種の件ね」
政府【それで、導きのほうは……】
姫「ん~……。とりあえずうちの家族に騒ぎは持ち込まないでくれ。知ってる人たちはフォローを、と言いたいところだけど。先取りされると良い気分がしないから、バックアップって形で良いかな?」
政府【一歩先を見すえて行動してほしくないと……】
姫「ん~。やってもいいんだけど、隠れて……じゃないか。こっそりさりげなくやって。自然に」
エンタメ【面白さの方向性は……】
姫「ギリギリは良いけど、ギリギリアウトはするなよ? こればっかりは人によるからなあ~……。ダメだと思ったら撤退して、行けると思ったらイケイケで」
マーケ【一般人は……】
姫「できる範囲でいいよ。例えば一般人属性を持ってる咲とか、桃花とか戦鳥のような奴らの行動を注視して。求めてるものをくみ取る、て感じで」
政府【優先順位としては、神道社よりも家族のほうが重い。でいいんですよね?】
当たり前だ、という感情を姫は抑えながら短く告げる。
姫「うん。……咲からは逆に質問あるか? 滅多にないぞ~この三機関に何か言う機会は」
咲「あ-じゃあお姉ちゃんに質問。ゲーム内に『反転世界』てあるじゃん? あれの扱いどうしようかって話」
姫「ん~、やりたい人だけやればいいんじゃないか? 思想が違う人は居るだろうし無理強いはしない、ただ国境や昼夜で分けるのはどうかとは思う」
咲「ありがと。……じゃあエンタメさん、底辺の職人さん達の給料を上げてください。やる気がある人へ、ちゃんとお給料が入るようお願いします」
エンタメ【……善処する】
咲「政府さんには……。善悪は人によって違うと思うから……度を越して無理はしないでください」
政府【わかった……、一般人代表として耳に入れておこう】
咲「マーケティングさん達は、普通に自分達のお仕事があると思うから。元気に健康に過ごしてください。徹夜自慢とかはダメです、あとは解ってくれると思います」
マーケ【過労死はするなってことで受け取っておきます】
政府【次に、『階層』についてはどうしましょうか?】
姫「それって、あれか? 視覚できない第三階層とかのアレ?」
政府【『見える化』をしてはいますが、限度があります。今じゃ地上の1~3次元、空の1~3次元、宇宙の1~3次元と、嫌な方向にうなぎ上りです】
姫「そ、それは困るなあ……」
エンタメ【姫様は宇宙を舞台のゲームも考案中であったので、宇宙が舞台にもなりますぞ】
政府【長年の成果から、宇宙軍というのも『用意しました』しな】
姫【あ、あ~そうか……それは困るな、困るなぁ~……想像するなってのも無理な話だし】
マーケ【定義やルールを作る必要があります】
姫「ひ-!」
咲「さ、流石。全体会議、言うことやることが。なんかもう真剣……」
姫「リアリティ上げるのも考え物だなあぁ……。……階層操作のリモコン作るか」
咲「そうポンポン出来るものなの?」
姫「課題として持ち越しだな。『心のエレメンタルの件』『ギルド内抗争の件』『階層操作リモコンの件』あと『ジャンル別のランキング』と……これはリアルよりだからいらないか……?」
普段メモをとらない天上院姫も流石にメモをとって書き始めた。マジで運営をしている。
政府【優先順位としてはどうなります?】
姫「ん~、『階層操作リモコンの件』が1位。『心のエレメンタルの件』の件が2位だな。『心』のほうはいつでも出来るが、『リモコン』のほうは速く作ったほうがいい……」
個人の野望より全体の行動指針のほうが重要という判断だった。
天上院姫は一呼吸間を置いてから、解散の音頭をとる。
「よし、いったん話はついたな。短いと思うかもしれないが、今回はここまでだ! 解散!!」
パチっと電話通話は切れた。
姫は「はぁ……」と真面目な脱力を入れた。
「お疲れ、お姉ちゃん」
「あぁ、一緒にいてくれて助かったよ。独りじゃプレッシャーあっただろうなあ」
「偉そうにしてたのに?」
「……うん」
とん、と妹咲の方に力を任せる姫の姿があった。
ヤエザキはウィンドウ画面を確認してから、姉である農林水サンの方を向き直る。テストプレイということでこの空間には誰もいない、ついでに背景もない。格闘モードとかでよくある練習モードだ。
「と、言うわけで。『階層操作リモコン』の定義を作るぞ」
「あぁ、私も協力しなきゃいけないのね……」
「一人だと寂しい」
◆定義確認◆『階層操作リモコン』
運営の中でも責任のある上司にしか使用権限がない、デジタル空間内で使用可能なアイテム。型は12インチタブレット。項目は、『ジャンル』『次元』『場所』で分かれており、選択して変える事ができる。
タイムリミットは30分に設定されており、30分を過ぎると自動的に。ジャンル【完成】、次元【2次元】、場所【今いる場所】のデフォルト設定に戻される。
『階層』という言葉は『視覚できない概念階層』が元ネタなので、名前だけそのまま残った。
プレイヤーにとっては『オートモード』が『マニュアルモード』に切り替わるような代物なので、初心者にはお勧めできない。
・ジャンル……項目として選択できる。
【完成】理が、出来上がった世界。
【言語】捻出して出来上がった世界。
【思考】考えて出来上がった世界。
【地上】地球の上、地面の世界。
【空】飛行機などから観測した世界。
【宇宙】衛星などから観測した世界。
【その他】未だ定まっていないジャンル。
・次元……上下の線で構成されている。下が0次元、上が5次元。
【0次元】点の世界。
【1次元】線の世界。
【2次元】面の世界。
【3次元】立体の世界。
【4次元】時間の世界。可逆・不可逆の設定が可能。
【5次元】多次元宇宙マルチバース。
・場所……エレメンタルワールドの地図と座標が表示されている、全土を選択可能。
使用例:ジャンル【言語】、次元【4次元・不可逆】、場所【始まりの街】などに設定。4次元空間で30分を経過するとデフォルト設定に戻る。
天上院姫は一通り作り終わった後、「ふ~」とため息をついた姉を天上院咲は見守る。
「こんなもんか~」
「お疲れ様」
「いや~一人じゃないって辛いわ~」
「リア充自慢か」
半ば笑いながら、言葉を交わす二人。これで当分、変な方向での心配は必要なさそうだと安堵する。
咲は疑問に思いながら姫に問う。
「このリモコンて使う人いるの?」
「まあ、運営の中でも更に数人に絞りたいところではあるなあ。でも、現実世界で使われるのも困るからEMO内のみのレアアイテムとして……」
「プレイヤーにも使わせたら? 『マニュアルモード』ではあるけど、うまく使える人は使えると思う」
「ふむ? レア度だと気持ちBランクだな、レア度は実装すると後で大変だって身に染みてるから。ゲーム内では表示しないけど」
「気分的な基準はどんな感じ? アイテムレア度」
「『世界樹の種』レア度SSS、『力王の籠手こてマーベル』レア度SS、『ジーラダガーオーディリー【覚醒】』レア度S、『階層操作リモコン』レア度B」
「レア度Aでも良くない? 旧第3階層まで行けるんだし」
「性能はSSレベルかもしれないけど、あまりにも扱いにくい。このゲームをやりこんでる人にとっては、最果ての軍勢に対抗できる唯一のアイテムかもしれないが。それでも使いこなせるプレイヤーはかなり限られるだろう」
「ぶっちゃけプロプレイヤーでも難しい?」
「うん、それぐらい扱いにくい。ま、わしが他の運営に手を貸せるのはこれくらいじゃな。本来ゴミ箱フォルダにポイでもおかしくないわコレ」
「この結構重要そうなアイテム、どうやって手に入るの? 人によっては喉から手が出るほど飛びつきそうだけど……イベント報酬? G?」
「イベントだと決めるのめんどくさい。皆が平等に稼げるGにしとこう、……料金設定とかまともに精査してないからなあ。現実世界の課金だと5000円ほど!」
「それはガチャ? ガチャだと確率何%? 海外の通貨だといくら? 外人さんには日本円でもピンと来ないよ?」
「他の運営に任せる!」
発案を、他の人に投げた……。
咲は気持ちを切り替えようと、脱線した話を戻そうと姫を励ます。
「ふう、じゃあやっと私たちの本題『心のエレメンタル』のシステム作りに入ろうか」
「おう!」
◆
『心のエレメンタル』の定義を再調整する、咲と姫。かなり慎重に精査して話あっている。
「心のエレメンタルはさ、設定することに意味があって。あとは結構自由でいい気もするけどなあ」
「そうだなあ、ただの『水』だって。設定する人によっては『水』に命を救われた人だっているかもしれないし」
「定義化が難しいね、式を作ってみたら?」
「ふむ」
「プレイヤーレベルぷらす、心のエネルギーかける、漢字の文字数イコール、強さ……とか?」
「文字が多けりゃ良いってもんじゃないから、もっと単純でいいと思うな」
「漫画だったら『心の想いが強さに変わる』とかでいいかもしれないが……足し算じゃなあ~……」
「なん……だと……心のエネルギー1000!? とかになるの?」
「戦闘力の数値にするのはマズイ気がする」
「じゃあパーセント」
「じゃあ例えばで数値化してみよう」
例:レベル15ぷらすステータス50%、心のエレメンタル『最終決戦』4文字だから割る4。……。
「漢字は数値化できないよ、人によるもん」
「そこな、『最終決戦』と『風林火山』じゃ意味が違うし、この『心の力は戦闘力100です』とかじゃあ無理がある」
「えっと。プレイヤーの。ゲーム内ステータス、気合の入り方、漢字の意味、イコール戦闘力?」
「やっぱ戦闘力で数値化は危険だよ、危ないもん」
「ワ〇ピースなんて懸賞金だけで、ちゃんと続いてるじゃん。イケるって」
「ステータスを気合の入り方で上下するんだったら。MAX設定してその中で戦うってのは?」
「……基準がねえ、じゃあ例えば『心』てデフォルト設定している場合はMAX100と設定しよう」
「パワーをPWとして……。心のエレメンタル、【『心』PW50/MAX100】とか」
「お、やっと落としどころが見えてきた気がする」
「じゃあ、ピピピってスカウターが鳴って。【『最終決戦』PW120/MAX100】とか出来るわけだ」
「限界を超えて無理をしてるって解るな。でも1文字でMAX100なのに4文字でMAX100なのは変だ」
「じゃあデフォルト設定を4桁にしよう、4桁以上はシステム上出来ないって設定してさ」
「【『心心心心』PW500/MAX1000】とか?」
「うん、いいんじゃないかな? じゃあ最初に設定したデータと今回のデータを組み込もう」
というわけで『最終決戦』『流』を数値化してみることにした。
ピピピピッ!
咲【『最終決戦』PW1000/MAX2000】
姫【『流』PW500/MAX4000】
「こんな感じか?」
「あーこれアレだ、何個か例を出さないと基準値が解んないや。ほら、ブル〇アイズだとMAX2500だと。凄いパワーだってわかるけど、これじゃぁわからない」
「人によるんじゃないか? 私の『流』だとMAX4000だとしても咲の『流』だとMAX2000かもしれない。思い入れが違うからな」
「あ~そっか……」
「HPは別表示なんだよね?」
「そうだな、いつもだとHP半分とか、HP4分の1とか。すごいざっくりしてる。ほとんどパーセントだ」メタ
「大体1撃から4撃ぐらいで終わっちゃうもんね」
基準値がいる、そう思った。
「じゃあこうかな?」
◆基準値◆
咲【『心』PW1000/MAX4000】
咲【『心心』PW1000/MAX3000】
咲【『心心心』PW1000/MAX2000】
咲【『心心心心』PW1000/MAX1000】
「パワー、PWの数値は変わんないのね」
「今の感情が変わってないから、こうなる」
姫は「ふむ……」と、うなずきながら、考えを巡らせる。
「確かにこれなら『最終決戦』と入れても、MAX1000だからうま味が薄れる。でも漢字が多いいから、数字では測れないテクニカルな部分ではうま味は出る」
「どう?」
咲は姫に確認のサインを投げる。
「うん! MAXの基準値に対しては文句なしだ!」
OKが出た。
「設定してて思ったんだけどさ。どうしてその『心のエレメンタル』にしたか、理由づけって大きいと思うんだけど」
「いや、このオンラインゲーム。12人とか30人とか100人とかのオープンゲームになることも少なくない、いちいち設定してたら時間がいくらあっても足りない。理由付けはいらない、設定を置くことに意味がある」
「じゃあこの基準値と、さっきの設定を照らし合わせると……」
ピピピピ……。
◆心のエレメンタル◆
咲【『最終決戦』PW800/MAX1000】
姫【『流』PW500/MAX4000】
天上院姫は満足そうに告げる。
「うん、今は感情が動いてない平常時だし。戦闘をやったら感情が上下するからこんな感じでいいと思う」
「や-っと決まった-! これで、皆の心のエレメンタルの相談ができるね」
「ああ、こっからが本番だ!」
というわけで、無事にバージョンバージョン1.6.2に変更は。滞りなく終わった。
◆ギルド『放課後クラブ』内個別専用チャットルーム≪飛空艇・空母エヴァンジェリン≫船内◆
「さ-やってまいりました! 『心のエレメンタル』皆で決めよう雑談会-!」
「メインイベント来た-! ここまで来るのに長かった-!」
ヤエザキと農林水サンはキャッキャと騒ぐ、やっと皆でゲームのことを話せると和気あいあいだ。
女子2人に、エンペラー、ナナナ・カルメル、遊牧生の男子組3人が合流した。サンが気合を入れて始める。
農林水サン【んじゃ、早速雑談するぞ-!】
ヤエザキ【やっぱり私だと心のエレメンタル、『最終決戦』にしたいけど……MAX1000か―。威力弱いな~】
エンペラー【バランス型のヤエザキなら漢字2文字にしたい感じか?】
ヤエザキ【そうそうそれそれさすが、でも私と言えば最終決戦じゃん?】
カルメル【もういいよサキ姉ちゃんは、最終決戦で。時間は有限なんだから、他の人に時間割こうよ】
ヤエザキ【そう言う? まあいいけど、んじゃ私は『最終決戦』にけって-い!】
農林水サン【次は私か……夢と魔法の世界とか好きだから、魔法。……て言いたいところだけど。ゲームの技名であるしな、システムと被る】
エンペラー【じゃあ、『夢想』あたりで手を打ったらどうだ?】
農林水サン【おぉ! いいねそれ! ピッタリだ! じゃあそれに決定!!】
遊牧生【は、早いですね!?】
農林水サン【私たち姉妹は大体決まってたから良いんだよ、どうせ後で変えられるし。一生ものってわけでもない。問題は、お前ら男性陣だ】
エンペラー【次は俺か……、てかまだ職業も定まってねえ。お前ら二人とも中距離戦士だから。ナイトかモンクを考えてたんだよな】
ヤエザキ【結構前に言ってたよね、私達姉妹の盾になりたいって】
エンペラー【ナイトじゃお前たち、動き結構速いから守り切れない。消去法で行ってモンクだな】
カルメル【守る気満々だね~活躍したいのかな?】
エンペラー【ん……。てことで、前衛だからパワーは出力高いほうがいい。1文字だ】
遊牧生【パッと出てくる言葉は『守』とか『盾』とか『護』だね】
カルメル【あ~じゃあ自衛隊って意味で『衛』にしたら! ピッタリだよ】
エンペラー【お、いいなそれ】
ヤエザキ【結構難しい漢字知ってるのね……じゃ決定ね】
カルメル【まだ皆で実践やったことないから、後衛で魔法でも撃ってようかな。てことで、魔法的意味合いが大きい4文字で!】
農林水サン【辞書で調べたら、情意投合ってのが出たぞ。意味は~。お互いの気持ちがぴったりと合うこと。「情意」は感情と意志。また、心。「投合」はぴったり合うこと】
カルメル【じゃあとりあえずそれ! 決定!】
遊牧生【速い!?】
ヤエザキ【知らない言葉だから、思い入れがないのよ……】
遊牧生【戦闘なら僕は、足手まといだから。皆を回復させたいです!】
農林水サン【回復自体はシステムがよくログ残すから、類義語を探す感じかな~?】
ヤエザキ【辞書を引いたら廻天が出てきたよ? 意味は、世の中の形勢を一変させること。衰えた勢いを盛り返すこと】
遊牧生【と、とりあえずそれで。2文字だし。バランス良いし……、まずは地ならししないと解らないからさぁ】
エンペラー【お、じゃあとりあえず全員決まったか。形だけは】
農林水サン【おっしゃ-! 次はこれで皆でモンスターをひと狩り行こうぜ!】
ヤエザキ【久しぶりにPT全員での戦闘だね!】
こうして、ギルド『放課後クラブ』の5人組は。装備を整え、準備をして。初めてのパーティー戦へと足を運ぶのであった。
他の見知らぬプレイヤーやPTも、手探りでこのEMOを遊んでゆく。バージョン1.6.2が、本格的に動き出した。
ヤエザキ【よ-し! 最終決戦のつもりで行くよ!】
『心のエレメンタル』皆の設定。
ヤエザキ:【『最終決戦』PW800/MAX1000】
農林水サン:【『夢想』PW600/MAX3000】
エンペラー:【『衛』PW1000/MAX4000】
カルメル:【『情意投合』PW300/MAX1000】
遊牧生:【『廻天』PW500/MAX3000】




