第126話「3bワシ地区2」
【オセロ型領土抗争】3bワシ地区。
天上院咲は沈んでいた、気持ち的に。長い旅をしているのだからそりゃあ浮き沈みはあって当然だろう。むしろうわべだけの「た~のっし~」だけで終わることの方が珍しい。
それでも彼女は進む、前に、前に、前に。歩みは止めない。ちょっと休憩しながらで良いから進む。
なので、止まる。
「あたし、間違ったことをしちゃったのかな……」
立ち止まったサキに対して。察するように、悟すように湘南桃花は進む道から止まって。こりゃ心のケアのほうが優先順位度高いな。と判断。蒼葉君も止まって咲の方に歩み寄る。
「行かないの?」
と蒼葉は戸惑う。桃花は年長者なので、学校に通う先生のように。相談に乗る。
「幸い、黒チームの陣地で白チームに負けることはまずない。ここはバトルは他の人たちに任せて今のうちに休憩しましょう。はい! いったんストップ!」
二人が気を使っているのが解るからこそ、余計に罪悪感に押しつぶされそうになるサキ。
「ごめん」
3bワシ地区に居たボスモンスターが、HP半分になり。第二形態となって戦いを挑んでくる。
「第二形態だ! 皆気合入れていくぞー!」
「「「「おおーーーーーーーーーー!!」」」」
そんな中桃花はサキの心のケアを続ける。桃花は修羅場の場数が違った。
「謝っちゃ駄目よ、内容的にはあんたは他の人から見たら取り返しのつかないことを言ったかもしれない。でも後戻りはできない、そうでしょ?」
「うん」
不可逆の世界だからという意味ではない、オンラインゲームだから一度言ったことは取り返しがつかないし無かったことには出来ないのだ。
「むしろ私は、罪悪感を今すぐに取っ払って。それでヘラヘラ笑いながら、仮想世界のゲームの世界で表向き「私楽しんでます~」とか振舞ってる人間のほうがどうかしてると思うけどね」
「……それは、フォローですか?」
「いいえ、本心よ。湘南桃花の素のね。取り繕っても良いけど私にはできない」
蒼葉は難しい話をしている二人を不安がる。
「大丈夫よ蒼葉っち、私が居るから」
そう言って、桃花はサキの話に捕捉を付け足す。
「本心だったんでしょ? 今まで我慢してた気持ちを吐き出して、言っちゃまずいと思っても言っちゃって。後戻りできなくなってそれをズルズルと気にしちゃって」
桃花がこの場ですることは激励ではない、サキの心のケアだ。だから彼女は優しく教える。
「言っておくけど、もっと汚い言葉を使って虚勢はって。何食わぬ顔をしながら美味しいメシ食って生きてる人間のクズって一杯いるからね? そこら辺行くとサキちゃんは常識の範囲をちょっと踏み外してオロオロしてるガキンチョにしか見えないわ」
「それ褒めてない……です」
「下には下が居るってことよ。言ったでしょ、問題も答えも無いって。サキちゃんが吐き出した答えは間違ってたかもしれない、最低につまらなかったかもしれない。でもね、全部100パーセントの正解を出さなきゃいけないなんてのは。教科書に出てくるテストの紙の上だけでいいのよ。聖書じゃないんだから」
「だからそれ、やっぱり褒めてないです」
サキは桃花と視線を合わせられない、顔をそらしながら会話を続行する。何かをため込んでるわけでもなくむしろその逆、虚脱感が彼女を支配する。
「でもけなしてもいない。立派よ、ちゃんと自己主張できたんだから。その意味を知らなくて叫べる人は一杯いる、でもその意味を知ってて叫べる人は。サキちゃんあなたしか見たことがない。取付工事なツギハギの自己表現をして人気者になった人間を私は知ってるわ」
「それって、もしかして……」
「でも褒められることじゃないってことは解るわよね?」
「う、……は、はい」
「うん、反省してるのならよろしい。じゃあそれを次に生かす努力をしなさい。間違っても「今のはなし!」にしちゃいけないのは解るわよね?」
「はい、この失敗を。無かったことにしてはいけない」
「うん。よろしい、じゃあそろそろ行くよ」
「は、はい。ありがとうございます!」
▼機械型のモンスターは退治されました。
▼3bワシ地区は〈黒チーム〉の領土になりました。
▼ゴースト型のモンスターは退治されました。
▼1bオオカミ地区は〈白チーム〉の領土になりました。




