第124話「2bシシ地区5」
共感されるような内容ではなかった、みじめで独りよがりでわがままで。それでも彼女は彼女の自我を引き出そうと必死だった。でもただ、これだけは言える。
熱血が右の拳に力を加え、短剣を握りつぶそうと震えが伝わってくる。
「今最高にムカついてるわ、お姉ちゃんぶったおした時みたいにキてるわコレ……!」
フェニックスの獣人はうんうんとうなずくばかりで、まるで何も知らなかった純粋無垢な旧友を観るような目で語り掛けた。
『うんうんそれよそれ、今のあなた最高に輝いてるわよ』
別にサキは誰かのために戦ってるわけじゃない。沢山のものを与えられて、それでも我がままを通すような嫌な性格でも彼女にはない。では何故こんな変わり映えしない怒りが込み上げてくるのか?
フェニックスは白々しく煽りながら確信をつく。
『私にできることはある?』
「ない!」
まるで大吉と大凶が目の前にあるのが解ってるのに、自ら大凶を選ぶような。そんな歪んだ愚直。
「全部私がやる! 全部私が歩く! 全部私が叫ぶ! 他の誰にも譲らない! 他の誰にも真似できない、私だけの物語を! 私自身が紡ぐんだ!」
綺麗に取り繕ってる言葉を聞いて、フェニックスが放つ言葉はぬるくなかった。
『減点、50点』
「おんどりゃあぁあああああああああああああああああああああああああああー!!!!」
型も作法もかなぐり捨てた、ただの猛獣が短剣を振り回して突進してきた。
〈雷速鼠動〉
剣と剣が衝撃波を生む、戦闘が、剣劇が始まった。上下左右前後ろに斬首が迸る。
『それは〈私たちの未来〉よりも大事なものなの?』
「そうよ! 知ってる他人より! 知らない私のほうが大事なのよ!」
『皆が望んでる〈信じられてる未来〉よりも大事なものなの?』
「それ私じゃないじゃん! 私違うじゃん! どこに私があるって言うのよ!」
『私私私、いいね~。それがあんただわ。加点、60点』
ドゴン! 怒号と爆音が響き渡り距離をとる。
悪魔の笑みを浮かべる獣人のフェニックスは、彼女の覚醒。本心をようやく聞けた気がして満足気だった。存在を操る陽炎が、彼女の存在という命をジリジリと燃やし続ける。
そして、次の一撃。間もなく、その時が来た。彼女の一撃はその最後の全力の一撃を持って尽き果てた。勝負の決着は一瞬だった。
▼フェニックスは退治されました。
▼2bシシ地区は〈黒チーム〉の領土になりました。
▼サキはログアウトしました。
現実世界2034年8月2日の午後18時10分。
天上院咲は自分の存在を燃やし尽くして。
無限にあると思っていた命などかなぐり捨てて。
無くなることなど気にもとめずに。
彼女の存在は、命は、絶命していた。
第4世代機『ミラーフォース00(ダブルオー)』が緊急処置を行った。スマートギアが唸りを上げる。
ドクン、心臓マッサージ。
「カハ……!!!!」
彼女の意識は蘇生され、現実に頭が追い付く。息を吹き返す。
そして彼女の本心が、擦り切れた心が。自然と彼女にその言葉を呟かせる。
「クソッ…………!」




