第121話「2bシシ地区2」
現実世界2034年8月2日の午後18時5分。神道社、『エレメンタルマスター』制御室。数々のモニターが設置されている部屋に、15人ぐらいの研究員たちが各々の業務をこなしていた。
それぞれの部屋はまだまだあるが、この1室に最高幹部達が集められていた。
「社長、いえ。天上院姫様、AからSランク【オセロ型領土抗争】ですが、2bシシ地区をギルド『壁を破壊するもの(デストロイヤー)』が占領しました、これについてご意見を……」
「や、それについてはコメントは控えさせてもらう」
「な、何故ですか? きっと我々運営サイドの方々も社長の意見を知りたがって……」
「今回は咲の動向に目を離したくない、まぁ休憩時間とかなら目を通せるかもしれないが。とにかくそっちの動向はノータッチだ」
「で、ですが。それでは社外に対する面目が……」
「……仕方ない。戦乱都市アスカのゲームマスター『かまちー』に任せよう」
「よ、よろしいのですか?」
「その場のノリってゆうか流れってもんがあるだろ? それを崩したくない、やっちゃってくれ」
「はは、了解しました。ご意志のままに……」
「……咲、思いっきり楽しんでくれよ、のじゃ」
姫はその考えに一呼吸おいてから、それはそれとしてとしてと続けて。自分の右手を観る。
「求めるものは目の前にある……か……」
と、己の失敗の経験を次に生かすことを考えていた。
◆
ポ〇モン風に言うとギルド『放課後クラブ』には基本的に苦手なものがあった、それはゴースト、あく、いわ、エスパータイプである。
ひこうタイプはこの『妖精の世界』では日常茶飯事なので特に気にすることはないが。サキにとってゴーストとエスパーが体外的に自分の認識から離れるタイプなので、対応に困るといったものだった。
何で、そんな説明をするかというと。復讐鬼の放った魔砲が超能力、いわゆるサイコキネシスのエスパー砲だったからだ。サキの短剣『ジーラダガー・オーデリィー【深い闇】』は物理的攻撃にはドチャンコ強い耐性を持っていたが、実体のない特殊系攻撃には無力だったのだ。というわけで、先頭のサキはタンク的な役割を果たせず、短剣をすり抜け不可視の弾丸がモロに当たる。なんとか体制を立て直して後ろに吹き飛ばないようにはした。
というか〈白チーム〉がフェニックスの方を集中攻撃してるので、〈白チーム〉に領土を奪われそうになっている。サキは「頑張れよ〈黒チーム〉」とか思ったが今は目の前の敵に集中する。一度こっちだと決まってしまったのだから、リアルタイムに動くサッカーのように後戻りをしている時間はないし暇もない。迷いは良い結果には繋がらない、0.1秒単位で移り変わる戦闘において引き戻るという行為ほど無駄な時間はない。
強敵だと判断した復讐鬼を早めに倒す、そのことだけに集中し専念する。それだけに手を尽くさなければ本気で2bシシ地区が〈白チーム〉に渡ったら洒落じゃすまなくなる。
遠距離VS近距離、兎に角相手の懐まで行かないと倒しきれない。エスパータイプの連続射撃を成すすべなくモロに食らいながら前進、HPがもう10分の1ほど無くなってからサキは「交代!」と蒼葉に先頭を譲り、最後尾にサキが来た。
ちなみに、HPが全損して戦闘不能になった場合、〈黒チーム〉は3bワシ地区から再スタートとなっている。
復讐鬼のサイコ砲撃が炸裂するが、カン!と蒼葉の軽量版オールド・ミラーシールドの盾が攻撃を反射させる。
サイコ砲が復讐鬼にクリーンヒット、更に鈍足効果が付加される。ミラーシールドが便利すぎる件について。
そして追撃、連係で桃花の釘バットがポカポカポカポカ追い打ちをかけて、復讐鬼のHPはゼロになり、ポリゴン片が四散する。復讐鬼は〈白チーム〉1bオオカミ地区から再スタート。振り出しに戻って行った。
「よし、んじゃボスモンスター退治と行きましょうか」
「その前にサキちゃんはダンゴで回復しなきゃ!」
「その間、僕が守るよ~!」
サキ、蒼葉、桃花は次の戦闘の準備をする。まだ9体ボスモンスターは生きているのだ。こんなところで油を売っている時間はない。
混戦がより激しさを増してゆくのを肌で感じるサキ達であった。




