第119話「3bワシ地区」
ゲームスタート。
開始と同時に、プレイヤーたちがサキの視界には入ってないところで。思い思いのプレイをしてゆくのが【心地いい】、あぁ動いてるんだなという感傷とも違う。逆に癒されるといった感情に引き動かされる。
そんな個人的な感情に浸っている場合ではなく。何か色々動いてるけどとりあえず自分たちも動こう、と感じ始めたサキであった。
「さて、それじゃあ蒼葉っち! 目の前のモンスターを狩っていきましょうか!」
「おーなのだー!」
「お~……」
するとサキと蒼葉の横には湘南桃花がやる気なさそうに立っていた。サキも蒼葉も不思議がる。
「ん、あれ? 桃花さんって今回出ないって。参加しないって言ってなかったっけ?」
「いや、まあ。言ったんだけどね、オーバーリミッツが『出て』にっこり、カッコ体中ポンポンポンポン叩きながら、て感じで……」
サキも蒼葉も不思議と何となく解ってしまったので≪不憫……≫とそっとしておくにした。
「うん、そういうわけだからあんたたち『放課後クラブ』のパーティーに入って最後尾でなんか喋りながら進むわ~……」
どこから持ってきたのか、桃花の装備は【釘バット】一つの私服だった。ファンタジー性の欠片も無かった。
天上院咲はそういうことならと、編隊を組むことを勧める。
「あぁ、うん解った。じゃあ先頭は私。真ん中は蒼葉っち、最後尾は桃花さんね」
「おーなのだー!」
「お~……」
改めて詳しいルール説明。
エリアクエスト【オセロ型領土抗争】
9地区に9体のボスモンスターが配置されている。オセロをモチーフにした白と黒のチームにギルドは分けられ。より速く撃破出来たほうが、そこの領土を主張できる。
〈白チーム〉は1bオオカミ地区からスタート。
〈黒チーム〉は3bワシ地区からスタート。
そこかしこに居るのは鶏型の雑魚モンスターを蹴散らしながら、ボスモンスターを倒して【領土主張】をする。
兎に角スピード勝負で、一度モンスターを倒し【領土主張】で白黒はっきり決まったら、ひっくり返らない。ひっくり返ったらそれはそれで楽しいかもしれないが、今回はなしとなっている。
今回の領土抗争はアイテムを装備しているボスモンスターを倒すと、レアアイテムがもらえる。
CからBランクなので装備に【封印】状態とされている武器アイテムとなっているが、イベントが終わった後に封印開放の条件を満たせばかなり強力なラインナップとなっている。
ちなみに今回、PVP戦闘はありになっている。
事前に地区の名前、フィールド環境、モンスターの大まかな形、入手できるアイテムは表示されている。
◆
1aサソリ地区は平地、恐竜型のモンスター、装備『全王の概念聖書【封】』。
1bオオカミ地区は沼地、ゴースト型のモンスター、装備『桜の王剣アンドゥリル【封】』。
1cテンビン地区は空き地、電気ネズミ型のモンスター、装備『ネオライト・フェザーソード【封】』。
2aオウシ地区は城壁、ゴーレム型のモンスター、装備『力王の籠手マーベル【封】』。
2bシシ地区は5重の塔、フェニックス型のモンスター、装備『世界樹の種【封】』。
2cヘビツカイ地区は格闘闘技場、巨人型のモンスター、装備『オールド・ミラーシールド【封】』。
3aカメレオン地区は森、ゴリラ型のモンスター、装備『ジーラダガー・オーデリィー【封】』。
3bワシ地区は空き地、機械型のモンスター、装備『リセットジェットブーツ【封】』。
3cカジキ地区は孤島、モグラ型のモンスター、装備『炎の王盾ネブカドネザル【封】』。
◆
〈黒チーム〉がそれぞれ思い思いの掛け声を言い放ち、走り去ってゆく。
「まずは〈白チーム〉の妨害じゃー!」
「まって1aサソリ地区のレア武器欲しい! あっちに行こう!」
「おいおい! まずは今居る3bワシ地区を黒領土にして万全を期してからなぁ!」
それぞれの思惑が交錯する中、『放課後クラブ』のサキは行動に移る。
「で、どこ行こうか?」
「僕は何処でもいいよ~」
「はっきり言ってどこでもいい、と言いたいところだが……」
湘南桃花が意味深な言葉を呟いた、サキと蒼葉はそれに反応する。
「言いたいところだが……?」
「だが……?」
「2bシシ地区の『世界樹の種【封】』だけは手に入れたい。私の私情が入っちゃうけど、是が非でも2bシシ地区を絶対に〈黒チーム〉の領土にする!」
そこには譲れない明確な意地があった。
どちらかというと、2bシシ地区を白領土にするわけにはいかない、という個人的な私情があるのだが。『世界樹の種【封】』を手に入れたいというのも本心なので、あながち嘘ではない。
目的は決まった。というわけで、先頭サキ、真ん中蒼葉、最後尾桃花は。2bシシ地区ヘ向けて、地面を力の限り、思いっきり蹴って走り出した。
「レディー!」
「ゴー!」
「なのだー!」




