第114話「不可逆の牙」
攻略組はあの職業を【どう攻略しようか】でやっきになっていたが、そこはエンジョイ勢サキ。負けたのもどこ吹く風で別のことに対して楽しんでいた。
「いや~負けちゃった負けちゃった~。初見じゃ無理だね~、流石最前線、ただじゃ終わらなかった。あ、あっちにコロボックルいるよ! 行ってみよう!」
てとてとついてゆく蒼葉はサキの行動を疑問に思う。
「……負けて悔しくないの? こう、スポコンみたいにこの野郎ー! てなって大逆転するみたいな」
「……ん~私はお姉ちゃんが作ったこの世界を【楽しみたい】から。負けも楽しんでるよ? あの人を倒すのもきっと誰かが先にするでしょ」
そう彼女は目的が違うのだ。誰一番にゲームをクリアしたいとか。誰1番に攻略したいとか。マラソンでも料理人でもなく旅人なのだ、旅人は好きな時間に休憩していいし。最初から走り続けてオールクライマックスな展開……、ということもないのだ。
旅の途中のアップダウンも両方【楽しむ】、遊びの達人。そんな感じだ。だから道草脱線が当たり前で、クエストをたまたまクリアできればラッキーぐらいに思ったほうが良いよ、と。蒼葉に説得する。
「そもそも本気でゲームクリアを目指してるギルドが9歳児を入れるとは思えないしね」
「え~僕~? てかスズお姉ちゃんは10歳で、僕は9歳なのに扱い違い過ぎない?」
「何を言っている。10歳と言えばスーパーマ〇ラ人じゃないか、9歳と10歳とでは大きな差が……」
「はいはい、で。コロボックルだっけ?」
「そうそう、そうなのよ。なんかうちのギルドの畑、完全放置じゃん? だからコロボックルにお願い出来ないかな~? て」
「ほうほう、次はコロボックルを仲間に引き込もうと……なんかうちのギルド平均身長低くならない?」
「そこまでは考えてなかった、本能とは言わない。好き勝手に動いてたらこうなったとしかね」
そんなこんなでコロボックルの家のドアをノックした。
「ダメです」
「そんな~」
赤いコロボックルにダメ出しされたサキ。コロボックルは続ける。
「というか、冒険者で【牧場主】の職業のプレイヤーを探せばいいのです」
「ふむ、……それもそうか。あれ? なんか前にもオファーをしたような、してないような……ん~忘れた」
仮に、サキが昔出会っていたとしても。今は〈不可逆〉の世界なので、この世界には居ないことにはならない。今もその牧場主志望のプレイヤーはどこかに居るのだ。ここテストに出ます。
「あぁー! 思い出した! 遊牧生! て子! 一時期、第3の街『京』で出会って生産職をしてもらって……」
「ん? でもサキさんが再ログインしたのって。第2の街ピュリアからだよね? 京には行ってないはずだよ。豪華客船ミルヴォワールがサキ姉ちゃんにとっては第3の場所のはずで」
「あれぇえ? じゃあこの記憶は何? 困ったときのお姉ちゃーん!」
と天上院姫こと、このゲームのトップに通話を持ち込む。
『……それって理屈コネなきゃダメ?』
「たぶんダメ」
『あー解った。じゃあ理屈をこねよう。多分それは、サキがこの〈心理と文法の世界〉、別名〈不可逆の世界〉で体験した『夢』だ。因果を未来に持って行く事は出来ない』
「……第2世代機『シンクロギア』で観た『未来の夢』てこと?」
『多分そう、あるいは【現実だった】ことだ。光速の世界で遊牧生と咲は出会っていた。だけどその光速の世界は消えて、新たな未来をほぼ0秒で処理した』
「……第二の街ピュリアでのエピソード終了後に。第3の場所『京』へ行った未来を0秒で処理して、その時起こった【因果を持っていけずに】光は消えた。だがその光のログは残っていたので再び今、〈不可逆の世界〉で再構築された?」
『そう、そうして。その光のログは残っていたので再び今、〈不可逆の世界〉で再構築された。また0秒で第3の場所『豪華客船』の記憶を経由、3.5の村『フェイト』を経由、第4の街『アスカ』で再構築処理できた。これは光が消えたログが残ってたから出来たことだな』
お話についていけず、置いてきぼりの9歳児の蒼葉である。
「蒼葉ちゃん意味わかる?」
「解るわけないじゃん」
「うん、解んなくていいと思う。戯言だと思ってていいから……。てことは遊牧生君とは会ってたの?」
『結論だけ言うと会ってるな。ゲーム中だったし。ちなみに『それって現実世界で応用できますか?』とか言うなよ、専門外だ』
「え、てことは。第2世代機『シンクロギア』で処理できなかった過去ログを第4世代機『ミラーフォース00(ダブルオー)』に持ってこれるってこと?」
『まぁ……。そうなる。そうだな、その後の出会う出会わないは、サキと遊牧生の同意次第だ。お前一人じゃ出会えない』
「ふむ……」
『はっきり言ってやる。もしこの世界がデスゲームだったとしたら、死んだデータのログがあれば。第4世代『ミラーフォース00(ダブルオー)』では、デジタル世界で復活できる。現実世界の肉体の消滅は復元不能だ』
「……ん~……」
『ま、今まで私が管理出来なかった。せめてもの罪滅ぼしだな』
「うん、わかった。それ以上は聞かない」
『そうしてもらえると助かる、じゃ。良いエンジョイライフをなのじゃ!』
こうして、天上院姫との通話は切れた。




