第113話「カオスクロス」
『最前線コース』とどの所、ルール無用の何でもありだ。荒唐無稽で後先考えず、兎に角、今ある己の力量を存分に発揮できる場所。と言ったほうが良いのかもしれない。
対戦相手『復讐鬼』はなんか毒武器とか使ってきそうな相手かな? と思ったがそんなことはなかった。どちらかというとあくタイプ攻撃で呪いとか宗教的な聖なる光とか。サキは慎重に行動する。
「まぁゆるく、じっくり集中しよう。まだ慌てるような時間じゃない」
「まずは我が神にお祈りをして……」
サキは武器の短剣と長杖という変則的な構えをしながら、間合いをつめる。相手の出方が見えなかった。何かおぞましいことをやってくるような予感はあっても、それは未だ未知数でわからない。でも解ることは相手は格上だということだった。
場数を踏んだおかげで観客席の目が気になる、ということはなかった。むしろじっくり対戦相手との戦闘に集中できそうな予感はしていた。
戦闘が始まって1分が経過した。制限時間の3分の1を使ったことになる。
始まってわかったこと、この人。技のレパートリーが多すぎる。否、言い方がおかしかった。【職業が多すぎる】彼固有の能力なのかもしれない、どういう経緯でそれを手に入れたのかは解らないが。『最前線コース』には常識というものが通用しなかった。
ただの模倣犯ではなかった、実力のある模倣犯だった。
「カオスクロス! ナイト! 忍者!」
『キキキキ騎士忍者ァー!』
瞬間、『騎士忍者』という聞いたこともない職業にジョブチェンジしてきた。重も軽も使いこなす剣劇攻撃がサキのHPを削り続ける。
「カオスクロス! ファイター! 時空操者!」
『ジジジジ時空ファイタァー!』
初見殺しも良いところだった。最初は「仮面ラ〇ダーデ〇ケイドかよ!」とサキは思ったが。それとも違う。どっちかというと仮面ライダービ〇ドだ。職業と職業が混ざって、技と技が混ざっていた。対戦相手の職業をあらかじめ知っていて内容を熟知して行う【読み合い】が出来ない。サキは魔法剣士で固定なので、技はネットのウイキにでも載ってるので読まれ放題である。
何より完全に初見で、未知の職業、未知の相手だったので。相手のペースでサキはHPを半分も削られ今に至る。厳密にはサキの中では未知という言い方になる。
「カオスクロス! 魔法剣士! 召喚士!」
『ショショショ召喚魔法剣士ィー!』
巨大なゼノ・イフリートが剣と盾を持って召喚された。サキは苦し紛れに必殺技を放つ。
「ク……ッ! 〈森羅万象の円舞〉!」
「カァ! 森羅万象のフレアー!」
復讐鬼の技は完全にサキの上位互換の技で打ち消された。
ドンッ! と衝撃波が走る。サキのHPは全損して、ゲームオーバーで地面に倒れた。
「勝負あり! 勝者、復讐鬼!」
観客席から見ていた蒼葉は唖然としてサキの方を見ていた。
上級者も最前線プレイヤーもこの勝負には呆気に取られていた、誰も知らない戦法だったからだ。
サキは後で知ったことだが。職業『カオスクロス』は桃色竜の眷属と蒼色竜の眷属から手に入るレアアイテムを、5個5個手に入れて職業屋に持っていかないと手に入らない希少職業だとかなんとか。




