番外編11「初心者育成」
何だかんだやってたら普通に長旅をしてきてしまった咲。一番の育成は実戦の本番なのは解っているが、それでも一度やってみたかった〈教える〉ということをやってみる。
今回は結構お気楽な訓練だ。咲のお古をもらった蒼葉だが、多分装備を取ったら基礎的戦闘能力は弱い。9歳だし。
ということで咲は全くの我流だが〈指南役〉をやってみることにした。咲と蒼葉が持っている装備は普通の片手剣のみ。
「まずは普通の縦攻撃と横攻撃をやってみて」
「こう?」
すると何の型もない、縦と横を振り回す攻撃を風が薙いだ。素振りにも満たない弱々しい剣だった。
「ふーん……」
まずは蒼葉の実力を把握するところから始める。
「じゃあジャンプしてみて」
「わかった、ほい! ッ……んあぁ!」
こてんと尻もちをついた。
「……、じゃあ何もしないで私を見てて」
咲は悠長に、平然と、だらんと脱力する。
「こう?」
蒼葉は、緊張を解きほぐそうとして。ダランと固まった。
「……。ふむ、フム……初心者と上級者の狭間、セミプロの位置に居るから難しいわね、もっとこう私も〈型の力〉を抜いて……」
一人ブツブツ喋る咲、そして次の指南は。とりあえず柔道も受け身から覚えるところから始まるので、防御方法を教えてみようと思った。
「剣を前に構えて、攻撃を押し殺してみて。カーテンで薙ぐように」
咲のゆっくりとした剣線が蒼葉を撫でるように捉える。
「こう?」
オロオロしく身をグーの字に構える蒼葉。
「それじゃあ自分の剣に当たっちゃうわよ~。じゃあ次、掛け声やってみて」
「……? 何で?」
「いかくよ。セイ! ハア! って」
「いかく……それって意味あるの?」
「あるわよ。気合が入る」
根性論になっていた。
「さっきから本格的な剣術指南になってるけど、ゲームだからオートモードとかあるんじゃないの」
「私はセミオートで戦かってるからなぁ……」
セミオート、テ〇ルズ風に言えば。1ボタンを押せば最長、秘奥義までやってくれるアレである。
「でも通常攻撃は基本ノンオートよ。一撃入って、流れが出来たらセミオートの技が勝手にやってくれるけど。最初のヒットは通常攻撃、つまり現実世界の身体能力が試される実力世界」
「へー知らなかった~」
「私も言いながら今知った」
「ほ~!」
「…………」
ちょっと頬を赤らめながら照れる咲、教え下手である。教えるのも教わるほうも初体験なのだ。
咲は指南を続ける。
「ちょっとこれ出来る?」
最初に後ろに残像の竜尾を構え……。
地脈を縫うように土属性の縦斬り。
水の濁流のような水属性の横斬り。
火を旋空するように取り巻く火属性の右斜め斬り。
風の豪風を巻き上げる風属性の左斜め斬り。
最後に目を白黒させるような二連続の突き。
地水火風闇光の6連撃、〈森羅万象の円舞〉だった。
パチパチパチと「おー!」と歓声を上げる蒼葉。
「お姉ちゃんが観たらまだまだこんなもんじゃないだろう? とか言いそうだけどとりあえず……真似してみて」
「はーい!」
最初に恐る恐る後ろに剣を持ち……。
土を巻き上げるような縦斬り。
水を浴びせるような横斬り。
火をぼわっとさせるような右斜め斬り。
風をシュワワーっとさせるような左斜め斬り。
最後にいっちにっと闇と光色の突きが空を貫いた。
セミオートなので一応〈森羅万象の円舞〉は形になっていた。
「できたー!」
「うん、えらいえらい」
褒められる所はちゃんと褒める。殺伐と一人でやってた時とはえらい違いだなと咲は思った。
なるほど、蒼葉の大体の実力が解ったと咲は思った。パンパンと刹那。咲は終了を宣告する。
「じゃあ今日は終わりね、またやりましょ~。はいアンパン」
「あ~い! やった~!」
もぐもぐと食べる蒼葉の頬袋はリスのようにふっくらしていた。




