第110話「アベンジャーの生い立ち」
『エレメンタルマスターオンライン』のゲームの中に一つの悪質なギルドがあった。
Bランクギルド第3位『日没の黄蝶教団』
悪役として死んだ伝説のプレイヤー『ヒョウモンチョウ』を酔狂し信仰する集団。ヒョウモンチョウは毒のある黄色い蝶を現している。
悪役として生まれた『ヒョウモンチョウ』、だけど彼女は彼女の役割を全うして死んだ。嫌われ者でも、憎まれっ子でも、やられ役でも、主役を張れると証明して彼女は死んだ。
でも『彼』は違う、どちらかというとねじ曲がった心で教本を観ることしか出来なかった模倣犯。そして、どこまでも愚直に名声を得たい。とあるカリスマの帝王デ〇オを崇拝してるプ〇チ神父みたいな感じだった。
プレイヤー名は『復讐鬼』、二つ名は『最凶のペテン師』。現実世界名は『外道勇たすき』男子、中学2年生。東京生まれの裕福な引きこもりの一人暮らしの少年。彼は今日も今日とて祈りを捧げる。
「あぁ、ヒョウモンチョウ様。いつか私も貴女みたいな立派な死を……」
『ヒョウモンチョウの教本』には人を感涙させるだけのパワーが存在していた。作り手の思いも知らずに、それが血の滲むような努力の結晶だとも知らずに。ただの普通の本として……それが広まっていった。彼女は死して伝説となっていたのである。
彼女の思いとは裏腹に、悪の美学がそこに書き連ねていたのだ。否、言い方が違う。彼女が起こした伝説を根本的に、間違った方向で受け止め方をしてしまったのが『復讐鬼』だ。
『ヒョウモンチョウ』には生まれながらに『本物』と『偽物』が存在していた。自分が『偽物』側として生を受けてしまった。だからこそその教本には偽物でも本物に抗って見せるという根本的な生の宿命があったのだ。
だが、彼にはそれがない。『復讐鬼』はただただ模倣犯だったのだ。
「私は彼女みたいには成れない、でもいつか彼女みたいな立派な【悪事を働いて】名声ある死を……! そして俺を見下した奴らにざまぁみろって復讐するんだぁ~……!」
よだれを垂らしながら彼は、その呪いがかった言葉をブツブツと呟く。
最初からこの少年は、否。『日没の黄蝶教団』は教本の読み方を間違っているのだ。【紅蓮の裏側を継ぎし者】としての生を、彼は歩き始めてしまっていた。
そして彼は、『戦乱都市アスカ』へ歩を進めていた。彼がこの街で始める事は一つ。
「さて、では布教を始めなくては……」
◆
同時に、Cランクギルド第2位『放課後クラブ』の天上院咲はこの街へ歩を進める。
「さぁて、今日も最終決戦のつもりでいくよッ!」
『正直者』と『詐欺師』の全面衝突が、ここに幕を開けた。




