第107話「不可逆の世界」
実際にログインしてみないと解らないことだってある。なんというか没入感? より深い快適な睡眠が実現されてるような気分だった。ソフト的には変わっていないから『妖精の世界』なんだけど。聞こえてくる音はよりクリアに、手をグーパーする感触もより鮮明に感じる。土をなめれば苦い味がするし、その辺に実ってる普通のリンゴなんかも食べると甘い味がする。一番違うのは5感だ。すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚が再現されている。今までは味覚と嗅覚が再現されていなかったが、この2つが今までと明らかに違う。ゲーム機の固定概念を根底から改変している、【夢よりもリアル】だった。
ただこれは物理的な5感の感情だ。第4世代機『ミラーフォース00(ダブルオー)』と言うからには『物理がミラー』『特殊がフォース』だったはずなので、まだある。【第6感】だ。前にもチートとして活躍していた、世界を形成するポリゴン群じたいを操作する。【念波】がこの世界ではいちいち壊したら、自分の手で治さなきゃならないのに自動修復されるようになっていた。つまりこの次世代機ではチートでもなんでもなくなったということだ。
現実世界では超能力と呼ばれる直感、霊感、イメージがこの世界では科学的にデータ化されている。そして、魔術的なものまでデータ化されている、具体的には螺旋、運命、自然である。
今まではプレイヤーであるサキが石を投げれば、石は地面に物理法則にのっとって転がって落ちて役目を終えて消える。のに対して、この石は砂になって消えるまで無くならないどころか塵になっても残り続け量子世界のサイクルの一部として自然と流転する。
これは、『世界樹シスターブレス』に新たに〈心理と文法〉の算法が埋め込まれているからである。三大欲求である食欲・性欲・睡眠欲まで実装可能でオンオフが可能と来ている。ゲームなのにやりすぎだと言わざるおえない。
今まで『世界樹シスターブレス』に新たに打ち込まれた式は今のところ2つ。〈ワールドクエスト『今を生きるために』〉と〈心理と文法〉である。
世界が悲しめば雨がふるし、世界が怒れば火山が噴火する。この世界では〈思議〉は当たり前のように物理的に数値化していたが〈不思議〉も特殊的に数値化しているのが最大の特徴だろう。今までなかったことだ。
例えば、影なき影を女神は追う。など、この世界では〈見事〉として実現可能として処理される。ただあるオセロだって裏表だけじゃなく、無いオセロだって裏表になる。支離滅裂だが、〈なかったことにしてはいけない〉ものだとして処理し続ける。
サキはどっぷり浸かった思考の海から、起きだし一言。
「さて、次はステータス確認でもしましょうかね」
一度木陰に身を置いて休憩しながら、ステータス画面を開く。




