第11話「テラ・ファイアーバード」
「この際だ、このゲームに慣れて来たころだろうし、システムの説明を改めてしよう、〈パリィ〉はやってるか? 魔法は使ってるか? 支援・回復系の魔法は? アイテムの〈だんご〉食べてるか? BGMは噛みしめて聞いてるか? 武器は強化しているか?」
「まってまって! 一気には覚えられない! 順番に説明して!」
こうして姫のEMOシステム説明が始まった……。
まず説明が入ったのがEMOの曲からだった、天上院姫いわく、彼女にとってBGMへの思い入れがかなり強く。力を入れているらしい、モットーは『100回聞いても飽きない曲』だそうだ。
実際、姫は気に入った曲なら100回や300回はリピートして聞いてしまう、現実がある。だから作曲担当に「100回聞いても飽きない曲を作ってくれ!」と言う無茶振りを注文した。
作曲家にとってはかなりのハードルだが、やりがいはあったようで中々良いラインナップになっている、ただ自己主張の激しい曲と、そうでない曲との差が必要と言う事は姫もわかっている。
姫は、このシーンで「こういう曲」と具体的に指示し、自分の納得できない曲は決して世に出さない〈頑固さ〉と、徹底したワンツーマンで楽曲を作った。
従って全体的に姫が好きそうな曲で作品全体がガッチガチに構成されているのは言うまでもない。作品のタイトルがエレメンタルマスターオンラインなだけあって、エレメンタル、つまり精霊、霊的な存在。草木、動物、人、無生物などひとつひとつに宿っている、とされる超自然的な存在を題材にした神秘的な曲が多くそれらで統一されている。
あくまで全体的に見るとそう言う曲調が多いというだけで、全部が全部そうという曲調では無いのも、ここに補足しておく。ちなみに姫は曲が始まって冒頭の1秒~3秒で「あ、この曲良い曲」「あ、この曲悪い曲」と速攻で決めてしまうかなり飽きっぽい性格で、作曲家にとって導入でのインパクトが求められ、かなり冷や汗ものである。
「折角作曲家が作ってくれたのだから最後まで聞いてから評価をする」という大人じみた事はしない、開幕1秒~3秒のワンフレーズだけを聞き全てを判断し評価する。最初に出来上がったのが始まりの街ルミネのBGM「冒険者の憩いの街」だった。
曲調は田舎を思わせる作風でゆったりとした落ち着きのある曲、全ての始まりの地であり、今後何度も街に帰ってきて聞く事になる曲、心を落ち着かせるのどかな曲だ。それでいて冒険者達がこれから冒険をするぞというワクワク感もしっかり出している。ちゃっかりとゲームのテーマ曲がブレンドされているのもワンポイントあってとても良い。
姫がこの曲にOKを出したのは意外で、もっとアップテンポでハイテンションでノンストップな曲を好む姫はこの曲はボツになると作曲家は踏んでいた。だが初めから強い曲調を出すといざ「強い曲を出した時に霞んでしまう!」 という主張が通った結果だ。結果バトルがメインのゲームの王道ともいえる最初の街はのどかでゆったりな聞き心地のいい曲となったわけだ。
精霊イフリート戦BGM「炎天の舞」。
灼熱の業火の中で戦う、メインクエストで冒険者達が一番最初に戦うボスらしいボス戦だ。
ここでは姫の希望通り0秒から印象的なサビの曲調で攻めている、イフリートの代表的な技、全体攻撃の「フレア」を象徴とする開幕で、大インパクトがプレイヤーを襲う。出オチではあるが、その出オチを出オチでは終わらせず連続してフレーズを叩き込む、暑苦しいほどに熱く、心踊る曲調。
更にフラメンコのように情熱的に踊っているかのようなノリの良いテンポを持ち出しつつ何故か熱い炎の中なのに、爽やかさも醸し出している。
一度イフリートと戦っている咲だが。通常ノーマルでのバトルの時とメインクエスト時で曲調は変わっている、主により重く神々しくなっている。精霊の王を思わせる熱く、重く、爽やかで、踊るように、威厳のある。全部姫が指定したわけだが無茶ブリも、ここまで来ると清々しいと後に作曲家は語った。
次に説明しなければならないのは魔法だ。
魔法は普通の四大属性や、氷雷光闇。に付け足しで動物の名前を付けるのが、EMOでは一般的だ。
例を挙げると、通常の火スキル。
初級魔法「ファイアーバード」があるとすると。
中級魔法が「レ・ファイアーバード」
上級魔法が「ザ・ファイアーバード」
最上級魔法が「テラ・ファイアーバード」となっている。
地は〈アースモグラ〉、
水は〈アクアフィッシュ〉、
風は〈ウインドスワロー〉、
氷は〈アイスペンギン〉、
雷は〈ライトニングドラゴン〉、
闇は〈ダークキャット〉、
光は〈ライトドッグ〉。
これらに中級は〈レ・〉、上級は〈ザ・〉、最上級が〈テラ・〉、と付ける。
演唱呪文の詳細は今回は省略する。
咲は魔法剣士なのでこれらの魔法を使う事が出来る、だがレベル的に全ての魔法を使う事は困難だろう。大抵の場合自分の性格に合った属性に特化して使うのが一般的だ、全ての魔法を使うには長い時間と鍛錬が必要になる、そうなったらもう剣士ではなく魔術師を名乗った方が良いだろう。
ピーンポーンパーンポーン――……。
そうこうしている内に定期メンテナンスが入った。
内容は秘奥義についてだ。ここ一ヵ月秘奥義を乱発できたのは良かったのだが、問題はそのせいで通常の特技を全く使わなくなったことが問題だった。よって通常の特技を頻繁に使ってもらうための新たなシステムが必要となった、結論から言うと秘奥義は〈一日一回限定〉となり、設定できる秘奥義も〈三つ〉ではなく〈一つ〉となった。
一日一回とは秘奥義を発動後、現実世界で24時間経過しないと新たに秘奥義を使用出来ないと言う事だ。この事により職業の特技の出番が増やす事が目的だ、逆に秘奥義は「ここぞ」と言う時にしか使えない一発でチート級の威力に大改造された。
秘奥義は、練習ルームで秘奥義を発動する際には何度でも使用可能となる。教会からでた私達はレストランで作戦会議をすることとなった。こんなに人数が居ると合コンのようではあるけれど、そんな空気でもなかった。
そんな中ギルド四重奏のリーダー〈ソウヤ〉が話を切り出した。
「皆、公式サイトを見た通りバージョンアップが入った。ソレにより、秘奥義の仕様が変わった。それと今覚えてる特技を全部言えとは言わない。量が多すぎるからな……しかし秘奥義は皆種類が違う、それぞれ自己紹介と秘奥義の特徴を話してくれないか?」
……………………。その後。
レストランである程度話終わり皆で『えいえいおー!』とかけ声と共に幕を下ろした。
最悪の事態を避けるための話は出来たということで一同食事を終え早速イフリート戦へ向けての支度をするのであった。
◆
場面変わって。咲は設定だけ聞いていた産物〈エボリューション〉を実際に使ってみる事にした、使う場所は〈トレーニングルーム〉、周りがドット状でまるでここがデジタル世界だと判るような風景だった(もともとデジタル世界だけど)。
付き添い人は天上院姫。眼前にはサンドバック用のキャラクター〈サンドバックくん〉がゆらゆらと揺れている。
「じゃあまずは普通の技を使ってみんしゃい」
咲はまず適当に特技を選択し発動する姿勢に入る。
「斬空剣!!」
途端に直線状に飛ぶ斬撃を放つ、斬撃はそのまま直線状にサンドバックくんに当たる。すると〈10ダメージ〉と、攻撃の威力を示す数字が表示された。サンドバックくんのHPバーが10だけ減り、回復してHPは満タンになる。
「このサンドバックくんはいくら攻撃しても体力は減らないから遠慮なく戦うといいぞ」
「そう……じゃあ遠慮なく……!」
今度は接近してから通常攻撃を3発当て、そのあとに斬空剣を放つ。
「そうそう、その調子じゃ。だいぶ様になって来たな」
「さて……!じゃあ問題のエボリューションをやってみましょうか……! 〈エボリューション〉!!」
そう言うと咲の体の周りから暖かいオーラが立ち上り全身に力がみなぎる。これで咲の使う全ての技は一段階進化した。
「斬空剣!」
言って、構えて、発射したそれは紛れもなく飛ぶ斬撃で、しかも今回は2個飛んでいった。
サンドバックくんにヒットしたそれは10! 10! と、ダメージ数を叩き出し、また即時サンドバックは回復した。
「へえ……これが〈エボリューション〉か……」
感覚を確かめていたらさっさとクールタイムである15秒が過ぎてしまった。
「ほら15秒たったぞさっさと2になってしまえ」
「ああ……うん!」




