番外編6「夏休みの自由研究」
2034年7月3日、現実世界で天上院咲を襲うものは大体一つ、勉強である。
学校が終わる15時から17時の2時間はゲーム、17時から19時までご飯とお風呂とその他いろいろ、19時から23時の4時間はゲームである。土日祝日はもっぱらこの前回の反省もあってか、勉強に費やして何とか平均点は叩き出しているのが現状である。
だが今は夏休み、そういう時間的規制はないものの。規則正しい生活をする事には燃えている、主に勉強という意味で。夏休みの宿題は当然、山のようにあり。楽しくゲームをするには宿題を消化する必要があった。
その中で彼女が『自由研究』に選んだ題材は『未来に役立つVRMMOとは』みたいな内容である。
2033年、12歳、小学六年生だった頃の咲は。新聞紙に載ってあった1ヵ月分の【天気図】を切り取って。『自由研究』の「こういう天気の動きをしました」と学校に提出して乗り切った記憶がある。
で。2034年、13歳、中学一年生の咲は『未来に役立つVRMMOとは』で自由研究を乗り切るつもりで。要は、ゲームをしながら夏休みの宿題を乗り切る算段だ。
「というわけで、神道社にお邪魔したんだけど」
「マジか、……うん。サキの頼みならいいよ~」
「軽いなおい、ダメかと思ったよ社長」
姉の仕事風景を観れるまたとないチャンスだった。
◆
神道社社長室前の扉には音声認証のロックがかかっていた。天上院姫は絵柄的にカッコイイからという理由で、ボタン認証でも指紋認証でもなく音声認証にしたという。
兎に角、あまり人に真似できないものにしたかったのだが。顔認証や瞳認証にはしたくなかったというのは姫の本人談。
「0018無何有鏡8100」
『ピピピ! 音声認証、声色確認。ロック解除』
ガチャリ! と社長室の扉が開く。
「さぁようこそ、一応私の部屋へ~」
先頭に姫、くるりと踊りを観ながら後ろからついて行く咲。一応姉相手だからいつもの調子で良いんだよな~でも社長室か~。と、いつもとちょっと調子が狂う歩調で社長室に入るのだった。
「お姉ちゃん、その音声認証って意味あるの?」
「意味は……あるがない」
「素のボケはやめろ!」
ボケにツッコミを入れて、軽く姉をあしらった。重く分厚い扉はガチャリと閉じられ、二人だけの空間となった。研究員達が何やら慌ただしく、忙しそうに仕事に専念し、働いていたがその騒音が遮断される。
「さて、ではVRMMOの何から聞きたい?」
「……、じゃあシンクロギアについて聞きたいかな」
姫は身振り手振りを使って、大好きな妹に向かって表現し始めた。




