第98話「体験版クエスト」
クエスト『団体戦・神話級伝説を討ち砕け』
目の前に立ちはだかるは古の英霊、神話級の名に恥じぬ名勝負を神に捧げよ。
◆団体戦◆
サキVSアーサー王・セイバー
蒼葉VSトール・ソー
エンペラーVSオーディン・オティヌス
ヒメVSギルガメッシュ
サキVSアーサー王・セイバー
立派とは言えない、ほどよく枯れた闘技場。相手はNPCらしく、デジタル機器みたいにあまり何も話さない。精々ハア! とかヤア! とかソリャア! しか言わない相手だった。
今、サキはアーサー王・セイバーと戦っている。団体戦とはいえその辺に居るザコモンスターとほとんど変わらない強さだった。ザコモンスターより強く、メインボスよりも弱く、中くらいの強さ。
サキは片手短剣、ジーラダガー・オーデリィー【深い闇】を使って何だかんだやってアーサー王・セイバーを倒す。
ほとんど戦闘描写が無かった、あったにはあったのだが。セイザーを短いリーチで一撃、攻撃を与えた瞬間。混沌効果によってNPCは「ぬぬぬぬぬぬ!」とか言ってロケット花火になって散ってしまったからだ。
「バグったのかな? わけが解らないよ」
普通に戦闘を行ってくれないじゃじゃ馬のような短剣だった、試し切りにもならずに終わってしまった。
勝者:サキ
蒼葉VSトール・ソー
装備はサキのお古だとしても、彼。ショタ君の実力はそれなりであった。どれぐらいの戦闘力かというと。サキ<蒼葉<エンペラー<ヒメ。ぐらいの戦闘能力だった。
ヒメとエンペラーはこのゲームをやり込んでいて、攻略組ガチ勢と大して変わらないほどの力量を発揮するのだが。サキと蒼葉はエンジョイ勢の域を出ない。それでも1ヵ月サキは別のゲームをやっていたので、その溝を埋めるのには時間がかかりそうなぐらいには戦闘力は高かった。
で、戦闘の方はどうだったかというと。
「真剣に回せ、真剣に回せ……! 最高潮の斬り! 最低限の突き! 時計回りに1回転! 軽やか舞踊で2回転! 重ねて束ねて3回転!」
と、相手NPCそっちのけで技の練習に明け暮れていた。ネオライト・フェザーソードが弧を滑らかに絵描く。
「いいぞー! だいぶ上手くなってきたぞ!」
「えへへ~わかる?」
「わかるわかる~!」
とグッジョブなポーズで声援をするヒメ、どうやら理に叶っていたようだ。そうこうしている内に敵対相手トール・ソーを倒しクリア。蒼葉はピョンピョン跳ねながら嬉しそうな表情を浮かべていた。
「やったー!」
ふと、疑問に思ったので。サキはヒメに小耳に挟む程度に問いかける。
「なんかあんまり歯ごたえ無いけど、相手PCってもしかして弱い設定?」
「まあ、あんまり強いとこの前の防衛戦級の強さになっちゃうからな。観光の歴史体験ツアーで体験出来た程度に思っておけ」
「体験ツアーねえ……、まあ確かに。こんな田舎村で本物と出会ったらヤバイけど……名前的に」
本物相手だった場合、1対1ではなく4対1とか軽く相手はやってしまうだろう、そんな難易度だった。
勝者:蒼葉
エンペラーVSオーディン・オティヌス
「やっと久久に俺の見せ場か、有能なところみせてやるぜ!」
と、重々しくやって来たエンペラーは≪双銃使い≫ではなく。≪重戦士≫になっていた。大きな盾と、重厚な鎧。いかにも防御と体力だけは高いですよ、と言わんばかりの装備は良いのだが、剣が無かった。
「お前らに合わせようと思ったので、折角なので防御極振りにした」
「おい! でもワンオンワンだぞ! 攻撃できないのにどうやって相手にダメージを与えるんじゃ!」
ヒメの当たり前のツッコミが乗って帰って来た。
「ない事はない、その為の大型版ミラーシールドだ」
サキは驚かない、というか呆れる。ヒメはむしろ流行りそうな予感がして、ワクワクドキドキと胸がトキメキ興奮する。
「うちのチーム、ミラーシールド好きね」
「こりゃPVP戦ではミラーシールド対策が流行るぞ~!」
そうこうしている内に、オーディン・オティヌスが槍を構えて放ったのを。思いっきり身構えて投げた。エンペラーはそれを貯めに貯め、反射させて相手にぶつけて決着した。
勝者:エンペラー
3勝したので自動的に『放課後クラブ』の勝利に終わり。ヒメVSギルガメッシュは日の目を見ることなく、このクエストでまあまあのゴールドと経験値とアイテムを手に入れて終わったのであった。
「なんじゃ、戦わずして終わったか。つまらん」
「次なにやるのー? 散策? それとも明日遊ぶ?」
「村に入ったらまず聞き込みだろうに」
「ラスボス倒して、クエスト終わらせてから、村人に話を聞く……順序が……」
今日も晴れ晴れしたいい放課後だった。




