第97話「ジーラダガー」
ヒメが作った、ラスボス直行の転移門はそのまま放置された。発見するのは難しいが、通るのは不可能ではないぐらいの場所にあるように設定され、開通された。ボス自体は前記したように、【深い闇】で相当変な事になるのは注意しておきたい所である。
「…………なんもねえ」
サキから感情的な感想が流れる。どうやら最前線組が道なき獣道を、超速で突っ走ってあらかたのモンスターは仕留めてしまったようだ。おかげでモンスターらしいモンスターという名の壁は何一つなく無事に【英霊の達の住む杖の村『フェイト』】に戻ることには成功した。
「さて、では村についたことだし。鍛冶屋に行こう」
「うん~」
村の真ん中あたりの大通りにある適当な名前も知らない鍛冶屋に入るパーティ。
『天災ゴッド・ジーラの鱗【深い闇】』を鍛冶職人に見せた。
「ふむ、この素材は。加工は無理じゃな」
「というと?」
「ダイヤモンドはダイヤモンドでなければ加工は出来ぬ、それを研ぐ素材が無ければ。じゃがこれは鉄よりも固い物質じゃ」
「おっと、て事はこれを使うには【投擲】?」
話が別方向にそれた、まるで石器時代の弓や槍をロープで縛って獲物を仕留めるような発想だった。お爺ちゃんは話を元に戻す。
「もうひとつ厄介なのがある」
「というと?」
「これは大吉と大凶が解っいる状態で、自ら大凶を選ぶような愚行だ」
「そうね、でもこれしか手に入らなかった。有る物で何とかするしかない」
「ふむ。……、おお閃いた!」
「?」
「大凶は大凶のままじゃが、流れは変えることは出来る。自然か、偶然か、必然か……だ。お主は大凶の中をどの流れで挑む?」
「ちょ……ちょっと待って、考えさせて……! アレでしょ? 核融合炉を1人で管理するような危険さなんでしょ? ……え~っと……」
大いに焦る天上院咲、頭では解っているが。ノリと勢いに常識とリアリティを連れ戻そうと必死になっていた。
「ふぉふぉふぉ、ゆっくりしていきなされ。お主には、まだ時間がある」
1時間ほど考えに考え込んで出た言葉はその3つのどれでもなかった。
「秩序を重んじる整然と、心がゆったりとできる悠然。かなあ」
蒼葉とヒメはどっちも「悠然がいい」という答えだった。だがサキはまだ知らぬ道、「整然がいい」と言った。理由は有事の時の事を考えたくないというのもあるが、冒険中なのにお門違いも甚だしく。二人を説得するにはそれ相応の理由が必要だった。
で、サキの提出する理由としては「まだ観ぬ道を観たくないかい?」という危険を恐れぬロマンの塊が彼女の説得であった。疑念を払拭できる材料としては足りなかったが。「大丈夫、ちゃんと歩幅合わせるから」と言うのが、彼女の正直な説得だった。
というわけで、鍛冶屋のお爺ちゃんに。せっついてカンカンカン! と作ってもらった武器はこちら。
ジーラダガー・オーデリィー【深い闇】
『天災ゴッド・ジーラの鱗【深い闇】』を加工せず、自然な形でそのまま整然した一品。
自身や相手に混沌効果付加、攻撃力はバカ高いがダガーなのでリーチは短め。鞘と柄に秩序を重んじる高度な整然効果が付加されている。
これにより、運が大凶の武器を中吉にまで抑え込んでいる。つまり刀身自体に触ると大凶と混沌効果をまともに食らってしまう厄介な一品。
そのマイナス点を打ち消すだけの特殊な攻撃力は備わっている。
加工をしたりマイナス効果を打ち消すには、それなりに高価な素材が必要で。現在はそのような素材は発見できていない。
整然は、英語でOrderly。ちゃんと発音できてるかは解らないが。サキはオーデリィーと発音して、この場を乗り切った。
サキは武器の心配をしていたが、それをよそに楽しそうな蒼葉とヒメだった。
気分を逸らそうと、落ち着いて。深呼吸をし、ネットの4コマ漫画をみて気持ちを和らげようと試みるサキの姿があった。




