第94話「蒼葉くんとクエストを観る」
再び最前線攻略組のたまり場、英霊の達の住む杖の村『フェイト』にサキと蒼葉は待ち合わせをしていた。
「後続が続々と村の中に入って来るね~」
「最初は殺風景な枯れた村って感じだったけど、賑やかになると経済効果とかもあるのかしら?」
「デジタル通貨でもお金だから廻るには廻るんじゃない? 解んないけど」
蒼葉はサキからもらった装備【鷹の目】が面白いのか、結構な確率で目を瞑ってまわりの様子を上空から見て遊んでいる。
「あんまり観てると全く動けなくなるわよ」
「え~? わかった~」
実はサキは名残惜しかったので名一杯【鷹の目】を使い終わった後だったので、長時間鷹の目で時間が飛んで行ったことは経験済みなのだった……。なので忠告でもある。
サキは掲示板を観る。観ると最前線と中盤と後続がごっちゃごちゃになって、話題にはことかかなかったが。
なんというか、嵐の最先端を走っていて。ゴールしたと思ったら嵐の目が来て、雨ザーザーになって服をびしょ濡れにやられるというか。そんな感じだ。
「とうぶん雨宿りでもするか、初めてだし」
「え~? 何か言った~?」
「何でもない、この村でうろちょろしようって話よ。そろそろソレやめなさい【鷹の目】は1日30分よ」
「え~短いよ~」
とりあえず嵐が落ち着くまで、この村でうろちょろしようとサキはなんとなく心に決めた。
「お、なんかあるよサキ姉ちゃん」
「誰が姉ちゃんよ。……ん? あーこの村のクエストかー」
クエスト『団体戦・神話級伝説を討ち砕け』
目の前に立ちはだかるは古の英霊、神話級の名に恥じぬ名勝負を神に捧げよ。
対戦相手:ギルガメッシュ、トール・ソー、オーディン・オティヌス、アーサー王・セイバー。
「名前を聞くだけでどんな技を使ってくるか浮かんできそうな相手だね」
蒼葉はサキの手を繋ぎながら微笑ましく言う。
「何ともまー強そうな相手だけど、私そもそも武器も持ってないんだけど……」
「じゃあ先の目標は武器を手に入れて、それから挑むって感じだね」
「そうなるわね、どんな戦闘構成にするかは。攻略組の動向を見てから決めましょ、まずは準備」
「じゃあ武器屋に行くの?」
「いや……、ゴールド全部落っことしちゃったから。一文無しなので、村の外のモンスターを狩ってお金を稼ぐ」
武器もゴールドもないので、完全に初心者プレイヤーの最初の行動をなぞるように進む攻略組プレイヤー達であった。
「なにその縛りプレイ……」
「だから蒼葉くんが狩って、それで出たアイテムを私がいただく」
「えぇ~……」
力のないのほほんな空気が場を支配した、村は冒険者達の活気で満ちている。




