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君は忘れない  作者: 哉城 弌花
第二章「テーマは、愛」
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2-1

第二章でやっと学校生活が始まります。

最後まで読んでいただき、少しでも面白い、気になると思い、ブクマをしていただければ幸いです。

 アラームの音で目が覚めたのは、もう登校しなければならない時間であった。    


 新学期早々、事故にあった僕は速めに学校へ行って、担任と話をしなければならなかった。


 担任といえば、入院中何度かお会いをしたが若い気の弱そうな女性だった。本当に生徒を指導できるのかと思ってしまうほどに。


 名前は(めぐり)(くず)()


 一言ひとこと、一生懸命発している。そんな感じの人だ。


 まぁ、一生懸命だと伝わってくるだけ教師としては上出来なのだろう。これまでの教師を相対的に評価しても、絶対的に評価しても、いずれにせよ葛葉先生の方が高いだろう。


 僕は急いで制服へと……着替えられない。


 事故の時にびりびりに破け、血もびったりとついて、挙句の果てに手術のためにハサミで切られるという悲惨な目にあったので、無残な姿と化した。だから今は焼却炉を通り過ぎて、どこかの海原に埋葬されているだろう。


 けれどこんなところで立ち止まっている時間は残されていない。


 とりあえず今日は学校指定のジャージで乗り切ろう。そう思ってタンスの中にある、黒字に赤ラインが入り、白で校章を印刷してあるジャージに腕を通す。


「よし、まだ間に合いそうだ。鞄を……って。」


 そうだ、鞄も服と同じ末路を辿っている。では、教科書も……定期も……。


「散々だ……」


 入院中にここまで気付いて、両親に頭を下げていれば何とかなっただろうに。彼らは僕のことなんて、爪先の隅の隅にすら考えてはいないので、僕からお願いすればと悔やまれる。


 今は、適当にリュックに必要最低限詰めて学校で相談しよう。定期もどうしようもないので、切符を購入して…。


 あぁ、もういい!時間がないので、駅まで走って電車に乗る。後のことはそれから考える。どうせ一時間以上あるのだから、どうにかなるだろう。


 朝ごはんも食べず、勢いよく玄関を飛び出した。





 僕は、中学三年間のほとんどを図書室で過ごしていた。


 紫苑が転向してからは友人が一人もできず、というか他人を避けながら生きていた。


 市内四つの小学校から集まる、近所の公立中学に通っていたため小学時代の友人同士が合併してグループになるのが流れだった。


 けれど、僕に声をかけてくれたクラスメイトは数人いた。興味を持って近付いてくる人、一人でいる僕を哀れだと思ってか、気にかけてくれたらしいクラス委員長などなど。


 僕には、一人ぼっちにならなくて済むチャンスは意外と多くあったと今になって思うが、当時の僕はすべてを拒否してしまった。


 紫苑との思い出を上書きされたくないというのが当時の見解ではあったが、実は人と密に関わった結果、唐突に来るかもしれない別れが悲しくなるのが怖かったのだと思う。だから、紫苑との時間に縋り付いて僕自身を守っていた。


 変わらないといけないそう思ったのは受験が目の前の現実として、自覚し始めた頃だった。


 このままだったら小学生の思い出に縛られた、愚かな人間になってしまい青春という物語の中だけにある時間を謳歌できない、絶対に後悔する。と思い、両親に土下座をして中学のクラスメイトが行かないような、家から一時間以上もかかる私立高校の受験を了承してもらった。


 高校デビューをして変わってやる。そして猛勉強の末、合格できた。


 そんな矢先、入学式の帰りに事故にあって、数週間入院したのだから出オチ感は否めないがここからは僕の度量にかかっている。


電車には何とか間に合い、少し早い時間なので座ることができた。


 学校指定のジャージに市販のリュックというのは何とも言えない格好だが、朝練に行く高校生に見られていることを願おう。


 恥ずかしさを紛らわすように僕は携帯の電源をいれて見ると、メールを受信していたことに気付く。鈴からだ。


 勢いよく家を出て、朝ごはんも食べていないので心配しているのだろうか。


 何気なくメールボックスを開くと、さっき届いた未開封メールの下、昨日唐突に送られてきた「記憶を司る者」からのメールが目に入った。


 そうだ、昨日はこれを読んだ後、急な眠気に襲われて眠ってしまったのだ。


 確か、期待しているとか、試練とか…カノジョ…とか、達成されなければ死ぬとか…「愛」とか。


 今見て、また睡魔に襲われるのはごめんなので、メールは開かず記憶を頼りにいろいろ考察してみる。


 僕はこの文面は直感的に真実だと思っている。思う、思わざる負えないように仕組まれていたのかもしれない。けれど、カノジョを僕は探さないといけない。そう感じている。


「‘助けて’」


 ふと、メールを見る前に夢で聞いた少女の声を思い出す。途切れ途切れできちんとはわからないが聞き覚えのある声だった気がする。


 その少女が「カノジョ」なのか、全く手掛かりのない状態で決めるのには早いが、タイミング的にも内容的にも他の人よりは確率が高いだろう。しかしヒントだと言う「記憶の欠片は、心の中に」がよくわからない。


 そもそも「記憶の欠片」とは何か、「記憶を司る者」が誰かを突き止める必要もありそうだ。もし、いたずらであれば、死ぬなんて物騒なことは起こらないのだし一件落着だ。


 迷惑メールであるか念のため確認すべく、メール消去のボタンにカーソルを合わせて、「本当に消去しますか?」の二択の「はい」を押す。ここで消えれば僕の勘が外れたで終わり……になるはずはなく「このメールは消去できません」と出てきた。


 何度か試したが、携帯は頑なに同じ文字を表示し続ける。


 常人ではないのかな、と思い始めた頃、一通のメールが受信される。送り主は「記憶を司る者」だ。そして、僕がどのボタンにも触れていないのにも関わらず、勝手にメールが開かれて、一言。


『それ、どう足掻いても消せないから』


 数秒経って、また勝手に携帯が動き出した。さっきまで僕が繰り返した工程をしていくが、結果は真逆になった。


 消せるのかよ。そう言いかけたが電車の中なので思いとどまる。携帯に向かってツッコミを入れている高校生なんて、やばい奴だと思われかねない。


 僕は携帯を閉じて、小さく息をついた。


 車内アナウンスが学校最寄りの駅を知らせたのはほぼ同時だった。


 どんどん、電車は速度を落としていく。この駅で降りるのは二回目のはずだが初めての降りるような気分だ。


 紫苑の面影を追い続けるのはもう終わりにしよう。今日、図書室行って現実をしっかり受け入れて高校デビューをする。


 そう決意を固めて立ち上がる。



 

 この決意も半分崩壊するのだが、僕は確かにここで心に誓ったんだ。


 運命の昼休みまでは残り六時間ちょっと。


 僕はいつもより少しだけ視線を上げて扉を出た。

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