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君は忘れない  作者: 哉城 弌花
第五章「僕をなくした君に、僕は再び恋をする」
22/25

5-4

この章は一話一話が極端に短くなっておりますので、毎日投稿させていただきます。ご了承ください。

「俺と付き合ってください」


 母の実家がある街の公立中学に進級した私は、秋菊紫苑として、匙がいない憂鬱な毎日を過ごしていた。


「ごめんなさい」


 匙以外の男と付き合うなんて有り得ない。私は数度、男子生徒から告白されたけれどすべて断った。そして、私はクラスの誰ともかかわらずに、図書室に入り浸っていた。


 他の人間と関わると、匙との思い出に上書きされると思って近づかなかった。私は匙の幻影にただてだ全力で縋り付いた。


 図書室にいれば匙と会える気がして……。


 そんなある日、私に転機が訪れた。


 もちろん悪い方で、だ。


 私はいつものように男をフッただけなのに、その男がクラスの一番人気の人物だったらしく、私を嫉んだ女たちに嫌がらせをされるようになった。


 はじめは上履きがなくなっていたり、教科書がなくなったりしたくらいで、彼女らの気が済んだら帰って来ていた。だから私は、あまり深く考えず時間がどうにかしてくれるだろうと放置した。


 驚いたり、泣いたり、怯えたり……そんなことしてたら彼女たちが面白がるだけだと、頑なに無関心を貫いた。


 それが仇となったと気が付いたのは、嫌がらせがエスカレートするのを止められなくなった頃だった。つまり、すべてが手遅れ。ってことだ。

  



 上履きがないのは日常茶飯事、けれどその上履きは水にさらされていた。丁寧に排水溝を雑巾で詰まらせて、水がたまるようにまでしてある。完全に水を吸い込んだ上履きは通常の倍以上重くなっていた。だから私は水が滴る上履きを裏庭まで持っていき日干しする。そのあと職員室の前にある、来客用スリッパを履いて教室へ向かう。


 階段を上がると、私がフッた男の現彼女が待ち構えており「ちょっと来い」とトイレまで引っ張られていく。「ドナドナ」と周囲は嘲笑て、誰も助けようとはしなかった。


「お前今日いくら持ってんの?」


 下手な化粧で不細工な顔に拍車をかけたような現彼女は、数人で私を囲んでカツアゲしてくる。彼女ら一人一人は自分で何もできないような小動物だが、群れると無類の強さを発揮する。


「持って来てない」


 今更、どんなリアクションを取ろうと彼女らは止まらないので、今まで通り無感情に答える。「は、嘘つくな!鞄よこせよ」必殺、突然の怒りを発動した彼女らは鞄を無理やり奪おうとするが、当然私は抵抗する。しかし、数と暴力には勝てない。


 みぞおちをお思い切り殴られて、座り込んだ私から鞄を取りあげ……ないで、「よこせ、よこせ」と何発も蹴りを入れる。結局の所、私をサンドバックにしたいだけなのだ。「はぁあ、疲れた」とようやく蹴りを辞めると鞄を取って財布を探す。


「やっぱ持ってんじゃん……千円だけって、しょっぱ。まあありがたくもらってやんよ」


 ここで終わればラッキーだ。


 彼女らは満足げに、金だけ略奪すると「ご褒美あげる」と、汚いバケツに水を並々注ぎ、さらにモップを付けて上下する。これで特製の汚水が完成だ。そして、それを私の頭から「せーの!」で被せる。


 一通りの流れを済ませて彼女らがトイレを去った後、私は水浸しの制服をどうにかしようと、ジャージを探す。


 今日は鞄の中に入れていたため一緒に汚水まみれになっていた。


 どうしようもないのでそのまま私は、ジャージを借りに保健室へと向かう。廊下では終始、注目を浴びていたがそんな視線、慣れたものだ。


「水も滴るいい女ってか」


 冷やかしの雨は私の上だけに振り続ける。その中心はあの男だ。カップル揃ってたちが悪い。


 爆発すればいいのに。


 保健室でジャージに着替えると次は決まって、外の水道へと向かう。人気のない水道で制服とジャージを洗って、また保健室に戻る。


 なぜかドライヤーがあるのでそれを借りて、乾きやすいジャージから乾かす。

 



 授業も終わると私は逃げるように図書室へと向かう。直接いくと図書室まであの女は来そうなので一度、玄関から出て後ろを回って、ようやく到着する。


 図書室は私にとって、匙との思い出が詰まった聖地なのであの女たちを近付けたくない。


 けれど現実は無常だ。


「あれぇ。こんなところにいたんだ、紫苑ちゃぁん」


 もう最悪だ。


 さすがの私も殺意が芽生えるほどの怒りを覚えた。けれどあの群れに私はかなわない。


 本が濡れないよう、密封パックに入れてから席を立って扉へ向かう。


「あれぇ?無視とかマジないんですけどぉ」


 彼女らの横を通り過ぎようとしたとき、私から一番近い位置にいた女が、思い切り私を殴って、倒す。「悪い子にはお仕置きしなくちゃ」勝手なルールで私を裁く、彼女らは私の両手両足を持って順に腹を蹴りつける。顔は残るからお腹にする。いじめっ子の定番だ。


 そして彼女らは慣れている。吐血しない程度に、一番痛いところ一点を蹴り続ける。


 この日はたまたま近くを通った教師たちに助けられたが、この教師も教師で酷い。学校で起きた問題を上手に隠蔽して自分たちを必死に守る。ダンゴムシだ。


 けれど私は死にたいとは思わなかった。


 いつか匙と出会えて結婚をするビジョンを思い浮かべると、一日のストレスがすっと引いて行ったからだ。


 デートで図書館に行き、結婚式も図書館で挙げる。


 私はそれを考えるだけで幸せになれた。そしてそのたびに匙に会いたいと強く思うようになった。


 中学三年になり、受験が間近に迫ると、匙の中学まで赴くようになった。彼が行く高校を探るために、彼と同じ高校に通うために、何度も何度も行った。


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