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この章は一話一話が極端に短くなっておりますので、毎日投稿させていただきます。ご了承ください。
両親が離婚した。
母親に引き取られることになった私は、母親の実家で暮らすことになり彼と離れ離れになることになった。
転校しなければならなくなったのだ。
明日、匙に伝えなければ、そう思って放課後図書室へ向かうがいざ彼を見ると中々言い出せない。
――明日は、きっと……。
――今日も言えなかった、明日は絶対言う……。
――言えない……明日こそは!
「いえない」
来る日も来る日も言わなければと思うが、喉で詰まって出てこなかった。
そして、転校当日になった。
担任教師が「紫苑さんが転向します」と言った時の匙の顔は切なく、悲しかった。確かめるように私を見つめるの瞳に、心がズキズキと痛くなった。
HRが終っても匙は動かない。私も、教室では離さないと云う暗黙の了解を破ることができなかった。だから持っていたメモ帳に『公園で待っています』そう書いてそっと、彼の机の隅へ置いた。
公園に着いてからも、匙が来てくれるかすごく不安で、押しつぶされそうになっていた。当日まで言えなかった私を恨んで、来てくれないんじゃないか。
そこまで出かかった涙をこらえてただただ待つ。
――来た!
私は嬉しさのあまり、零れ落ちそうになる滴をぐっと堪え、彼の非難を覚悟した。けれど彼は「聞いていない!」それだけしか言わず佇んでいた。
もっと卑劣で軽蔑を含んだ怒号を浴びせられることを想像していた私は、安心してしまう。そして気が付いた。
匙に恋をしていたことに。
匙と結婚したいって、純粋にそう思った。
だから私は彼に歩み寄ってそっと頬に触れ、別れを惜しんだ。
そして最後にいつも伝えたかった「ありがとう」と共に思い切って今の気持ちを伝えた。
「結婚してください」って。
私は彼の涙に誓った。
――たとえ地球が反対に回りだそうと、私は君を忘れたりはしない。
私がこの街を出たのは、これから数時間後だった。