プロローグの終わりと旅の始まり
ぼんやりと見える二つの人影がなにか言っている。
「ん、此処は…無事帰れたのか。」
此処は俺が最初に転移しヘラ達から説明を受けた何もない空間だ。
「嘘…勝っちゃったの?」
信じられないとばかりにヘラが呆れている。それもそうだろう、何回も言うが人間が隷属それも最強種の魔王なんて信じられない話だ。しかし事実、歴史上魔王級を隷属させているのは人間のみだった。
「信じとったぞ、たが本当に良く帰ってきてくれた。」
ルシファーとの戦いで死にかけた俺を救ってくれたゼウスが威厳のある声で言う。
「さっきはありがとな。また助けられたな。」
これでゼウスに2つも借りが出来てしまった。
……そういえば、ルシファーはどうなったんだ?身体の感覚もいつもと変わらないし…
そんな疑問を見透かしたかのようなタイミングでヘラが説明する。
「それはまだ正式に隷属関係が成り立っていないからよ。それじゃあ隷属も無事成功したことだし、使い方を少し説明しましょうか。」
そう言ってヘラが立ち上がる。
「まず、貴方の魔王を具現化させてみて」
具現化ということは俺の中にルシファーがいてそれを外に出せということだろうか。
「わかった。だがどーやるんだ?」
「人によってやり方は異なるけど基本的に力を望んだり呼んだら出てくるわ。」
やっぱり中にいるみたいだな。よし、やってみるか、
「魔王いるか?いるなら出てきてくれ。」
すると、すぐさま声が返ってきた。
(おぉ、空かすぐ行く。だが、体は大丈夫か?これが最終試験となるぞ。)
おぉ、体の中から声が響響いてきた。慣れるまで変な感じがしそうだな。……最終試験?
そう思った瞬間体から膨大な力が溢れ出し、視界が歪んだ。
「なん…だ?ぐぁぁあああ」
体が燃えるように熱い、闇の炎だ。闇の業火が空を乗っ取ろうと溢れ出しているのだ。
成る程、これが最終試験ってやつか…つまりこれに耐えられたら本当の隷属関係が完成するというわけか。
ルシファーの闇が空の体を駆け巡り奪おうと暴れる。
「ぐっあぁぁあああぁぁ」
大きくなった闇の炎は軽く300度は越えているだろう。
だが、闇の炎に焼かれてなお空は笑っていた。
「はぁはぁ…こんなものか?」
強がっているのではない、実際空はルシファーの闇の一部をすでに取り込んでおり耐性がかなり付いていたのだ。それに神奈を失った絶望に比べたらこの程度耐えられないわけがなかった。
闇の炎がそれに答えるようにさらに何倍にも膨大し空を呑み込む。
「…俺に全てを誓った身だろ?だったらとっとと具現化しろー!!!」
(ふっ、それでこそ私が認めた空だ。)
その言葉とともに闇の炎が収拾し空から離れ形を作る。
そこにいたのはルシファーだった。その顔はやはり美しかった。この世のものとは思えない絶対的な容姿がルシファーの回りを囲んでる黒い炎によってさらに引き立てられていた。
「ッ、やっぱり綺麗だな。」
反射的に呟いてしまった。空は全然平気な様子をしてたが実は闇の炎によってズタボロになっていた。それもそうだろう、いくら耐性がついていたとはいえ闇の炎は地獄の業火…いゃ、ルシファー場合少し違うがリアルワールドの炎とは比べ物にならない。リアルワールドの炎は体を燃やすことはできるが心を燃やすことはできないのだ。
しかし、ルシファーの容姿はそんなことが気にもならない程常識を逸していた。
「き、綺麗だと!?あ、ありがとう(カァ)」
意外にも顔を赤くさせてうつむくルシファーはその見た目とのギャップでとても可愛らしかった。
「じー、」
ヘラが頰を膨らまし目を細めこっちを見てやがてふてくされたようにプイッとそっぽを向いた。
「あのー、ヘラ?どうした?続きをやりたいんだけど」
なんで怒っているのかは空には想像もつかないが取り敢えず魔王の力の使い方を知りたかった。
「…じゃあヘラお姉ちゃんって呼んで抱き締めて?」
ヘラお姉ちゃん!?全くの予想外の言葉に空は動揺してしまった。
…この歳になってお姉ちゃんなんて恥ずかしい名称を使うなんてしかも神様相手に、だがヘラの機嫌を直すにはやるしかないようだ。
「へ、ヘラお姉ちゃん!(がばっ)」
ヘラにはルシファーとはまた違った大人の雰囲気が漂っておりその風貌は全女神の中でも1位2位を争う美しさだ。もちろん二つのたわわに実った果実はかなり大きく何よりもその形は服の上からでも分かるぐらい美しい。それが今俺に触れているもんだから緊張してしまう。
「ふふ、よく出来ました。」
どうやら満足してくれたようだ。こっちとしては一刻も早くこの危険な果実から身を引きたい、でないとなにか大変なことが起こる気がしてならない。しかしヘラは離すどころか余計くっつきルシファーに向かって妖艶な笑みを浮かべた。
「こ、こら!早く離れんか!」
いいぞ、ルシファー早く助けてくれ、これは天国じゃない地獄だ。きっと。ほら窒息死しそうだ。
「ふふふ、なにを焦っているの?ルシファーちゃん?」
ヘラが明らかに挑発を込めた目で見ている。
あーやばい、これは先がよめたぞ。
だがよめたからといってどうにかできるとは限らない。そしてそれは案の定現実になってしまった。
「ぐぬぬ、ならば私もこうだ!」
なかなか空から離れようとしないヘラを見て何を思ったのかルシファーまでが抱きついてきた。やっぱりな…でもこれは冗談抜きでやばいな…
(お、おい!やめろ、死ぬマジで死ぬ、)
そんな空の叫びも二人の大きな胸に挟まれ声にならず二人には届かない。
「ほらほらー、「や、やめろ、空は私ので、あれ、私が空ので…とにかく!空から離れろ!」」
あーやばい、意識が…もうだめ。
「「もー!貴方は、空は、どっちがいーの?」」
「………」
「黙って見てれば調子に乗りすぎじゃヘラよ。それにルシファー、元気そうで何よりじゃ。だが空は2人さんのせいで気を失っておるぞ。」
これまでずっと見ていたゼウスが呆れた顔で口を開いた。
「あらら、つい」
「しまった!空大丈夫か?」
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「…俺は気絶していたのか?」
そうだ、ヘラの悪ふざけと挑発に乗せられたルシファーに挟まれ息ができなくて倒れたのだ。全く。
「気がついたようね、先刻は悪かったわね。」
「良かった、心配したぞ。そのすまない」
ヘラはともかくルシファーは反省してる様だな。まぁこんな美人の二人まぁ、人じゃないがに挟まれて気絶で済むなら安いもんだと自分で強制納得させる。
「それより早く力を手に入れて神奈の元へ行きたいのだが。」
「分かったわ、っていっても後はルシファーをまた貴方の中に戻せば良いだけよ。」
よし、これで神奈を助けることができる。
「待て空、今の私の力では到底魔王にはかなわないのだ。すまない」
「そんな!俺とルシファーなら「無理です。いくら貴方でも今行ったら瞬殺です。」
ヘラは非情にも淡々と答えた。
「そんな、じゃ、神奈は?時間がないんだ。」
一刻も早く行かなければ神奈が堕ちてしまっていうのに!
「大丈夫じゃ」
何時の間にか消えていたゼウスが何処からともなく現れた。
「奴は神奈を出来るだけ傷付けたくないと思っているはずじゃ。それに絶望の底は堕としにいくとしても最低で2年はかかるじゃろう。まぁ深い絶望を受けてしまったら直ぐに堕ちてしまうかもしれんがのぉ。」
「そうか…ありがとうゼウス。」
これで3度もゼウスに助けられたことになる。ゼウスがどんなことを言おうとそれを断ることは出来なくなってしまった。
「そんな強張らなくて大丈夫じゃ、空、お主には人間の国を救ってほしい。」
「かつては栄光を築いていた人間達も今では序列最下位と成り果て唯一の数の多さも急な出産知識の取得により、数が莫大に増えたゴブリンにもかなわなくなってしまったのじゃ。それに最近は魔王の仕業か魔物も多く発生するようになってしまってのぉ。本当は種族争いに干渉してはならんのじゃが、空なら人間だし問題はないと思うのじゃ。」
「成る程な、勿論断ることは出来ないからやってみるが、なんで人間にそんな味方する?」
神は平等ではなくてはならないはずだ。そんな固定概念に縛られた疑問を意外なそれでいて最も納得のいく形でゼウスは返す。
「ほぉっほぉっほぉっ、それは決まっておる。物語は面白いほうがいいじゃろ?こちとら不死身じゃからな、常に退屈なんじゃよ。まぁあとの詳しいことは向こうに行ってから調べると良い。あまりネタバレしてもつまらんじゃろ?」
ゼウスが豪快な笑い声を上げながら言うが、退屈だなんて、神は想像してたものとは違ったな。ま、良い意味でだがな。
「それもそうだな、じゃー世話になったなゼウス、ヘラ、ルシファー!人間国救って神奈助けに行く旅に出るぞ。」
「もう行っちゃうの?また会えるといいわね。」
ヘラが残念そうなふりをして手を振ってくる。
「久しぶりの下界か、楽しみだな。では、空の中に戻るぞ。」
ルシファーがそう言い闇の炎となって俺の身体に入ってくる。
「お主らがどう物語を紡っていくか、楽しみにしてるぞ。それにもうわしたちは一切干渉出来ないからそこのところ注意しておくのじゃよ。」
不思議な空気に包まれ、だんだと視界がぼやけていき意識が朦朧とする中ルシファーの暖かい確かな力を感じる。そして空白の世界に空いた一つの穴へ飛び降りていく空であった。
やっとプロローグ?が終わり旅へ出発です!これから待ち受ける困難や試練にどう空達が立ち向かっていくのかを次から書いていきたいと思います!それと今までの細部の修正も行っていきますm(_ _)m
次の話ではやっとあのヒロインも登場します!
そのヒロインとは……
次話でのお楽しみですね(≧∇≦)