序曲〜終わりと始まり〜
-現実世界-過去-
「キーンコーンカーンコーン」
もう何十万回と聞いたチャイムが今日も鳴り響く。
「よっしゃ空、帰ったらゲームしようぜ。」
こいつは近藤蓮次。昔っからずっと絡んでる友人だ。
「ごめん、今日神奈と約束があるから。」
そう答えて帰ろうとする。
「くっそー、いいなぁ空は、神奈さんみたいな人が幼馴染みで。」
蓮が演技っぽい言い方で悔しんでいる。
「空くーん、帰ろー」
教室のドアから顔を少し赤らめて恥ずかしそうな笑顔を浮かべて俺を呼んでいるのは俺の幼馴染みであり最も大切な人でもある鬼灯神奈だ。
俺に両親はいない。小さいときに交通事故で死んでいるからだ。俺は運良く助かったがその頃の俺にとっていきなりの両親の死というのは心に穴が空いたような空虚感を与えるのには充分すぎた。次第に俺は何に対しても心を開かなくなっていった。
そんな時に俺のそばにずっと、ずっと居てくれたのがその頃よく遊んでいた幼馴染みの神奈だった。最初こそ神奈の言葉は耳の中を流れていくだけだった。しかし、毎日毎日神奈は俺から離れず声を掛けてくれた。次第に神奈の言葉は俺の心に届き俺は神奈に心を開くようになった。なぜ神奈がそこまで優しくしてくれのか分からなかったし神奈にはそんな意図なんてなかったかもしれない。だが、その頃の俺の心を満たすには充分だった。実際今の俺があるのは殆ど神奈のおかげだろう。
そんな神奈に今日こそ伝えようと思う。ずっと抱いていた最大級の感謝の言葉、それとずっと抱いていた好きだという感情を。
「おう、ちょうど今行こうと思ってた所だ。…神奈、今日は大切な話があるんだ。」
鞄と決意をもって神奈に向かって歩き出す。
「空くん。私も大切な話があるの。」
夕日が差し込む教室で可憐な顔を朱色に染め神奈がいう。
どうやら教室には誰もいないようだ。蓮もなんだかんだ言って空気を読んでくれたみたいだ。
「俺「私」」
声がハモってしまうと緊張した様子の二人は笑い合う。今日もいつもより少し大切な日が流れ何処かで新たな愛が生まれまた何処かで愛が終わる。そんな何気ない日のはずだった。
この瞬間までは、
「グラァァァアアアアア」
突如の大地震とともに地面が割れた。
「!?神奈!捕まれ!」
咄嗟のことに自分を守ることより神奈を守る為に手を伸ばす。しかしまるで神奈を飲み込むように地面が裂けていく。
「空くん!」
有紗が伸ばす手をギリギリで掴んだ。
「くそっ、しっかり掴まってろ!」
地割れが広がっていき空までを飲み込もうとする。
「駄目だよ空くん、空くんまで落ちちゃうよ?」
涙を浮かべてなお笑顔で神奈がいう。
「待て、大丈夫だ、今引き上げるかな!手を離すなよ!」
空はそう叫び神奈をありったけの力で引き上げる。しかし神奈と空は少しずつ闇に引き込まれていく。
くそ!俺は神奈1人もも守ることができないのか!これじゃぁ事故の時と一緒じゃないか!あの時の情景が頭に浮かんでくる。いつも優しかったお袋。仕事が忙しいのにも関わらず暇さえあれば遊んでくれた親父。俺より3つも下の弟。あの日も家族で出かけにいく当たり前で大切な日だった。それなのに一瞬だった。赤信号なのに突っ込んできたトラックに衝突し優しかったお袋や親父は頭から血を流し体に穴が空いていた。あんなに生意気だった弟も、もう目を開くことはなかった。
それから俺は心を閉じ誰とも話さなかったのだ。そんな俺に優しくしてくれた神奈を大切な人をもう失わないと失わせないと誓ったのでは無いか!手が裂けてもいい。俺はどうなってもいいから神奈を!
「うぉぉぉおおおお」
精一杯叫びながら有紗を引き上げる。しかし、現実は甘くなかった。
「空くん。ありがとうほんとうにありがとう。空くんは覚えてないと思うけど私本当は双子の妹がいたの、でも出産にお母さんの体がついていけなくて、私だけ産まれて妹は出てこれなかったの。ずっと私はそのことを覚えていて罪悪感を抱えて生きていたの。そんな時に空くんが「なら妹の分まで生きてやらないとな、妹だってそれを望んでるさ。それに俺がついている。」って言ってくれたの。私本当に嬉しかったの。例えそうでなくてもそう思えば生きていける。だから精一杯生きようと思えた。だから今の私がいるのは空くんのおかげだよ。」
涙が頰に流れたそしえ手の力が緩まる。つまり一緒だったのだ。空も神奈も互いに救いあっていたのだ。
「空くん今までありがとうございました。そしてさようなら、出来ればこれからもたくさん空くんと笑って泣いて生きていきたかったな。」
頰を涙で濡らし空が見た笑顔の中で最も綺麗でそれでいて切ない笑顔でいい。手を離した。
「かんなぁぁぁぁああああああ」
神奈が闇の底へて落ちていく。
また、まただまた俺の前で大切な人を守れなかった。もう良い、早く神奈の元へ行こう。地割れは広がり空までを呑み込み闇へ落ちていく。これで家族や神奈の元へ逝けることができる。世界は無慈悲だ。
不思議な気持ちに身を任し落下していく。その途中で声を聞いた。頭の中から聞こえる不思議な声を。
「絶望の淵に立ちし男よ、まだ死んでわならぬ。全てを知りたくないか。何故お前達が落ちなくてはいけなかったのか、それに神奈というものはまだ生きている可能性が高い。」
なんだこの声は、これは幻聴なのか、だが神奈が生きているかも知れないという言葉で空は覚醒した。
「神奈が生きているだと!?お前は誰だ?」
「その可能性は高いだろうな。お前がどんな絶望でも受け入れるというのなら私が全てを教えてやろう。」
頭の中からまた声が聞こえてきた。どうやら幻聴ではたいみたいだ。
「神奈が戻ってくるのならどんな絶望だって構わない。神でも魔王でも俺に力をよこせ。」
神奈を失う以上の絶望など空にはなかった。
「分かった。でわ、もう一つの世界に招待しよう。かつて世界を救った英雄の子孫を。また世界が救われることを祈って。最後に私の名はゼウス、二つの世界の秩序を守りし全種族のトップに立ちし神じゃ。」
そう言うと頭の中の声は消滅し、代わりに神々しい光が身体を包み込む。
そして俺は意識を失った。