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惑星タトゥは独立するって言ってるの!  作者: 青樹加奈
第一章 ロボットと美少女
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三、旅立ち 前編

「今日は大変だったね。実は……、君に折り入って話があるんだ。明日の朝、もう一度、会ってくれないか?」


「いいけど、話ってなに?」


「明日、話すよ。今日は大変だったろう。ゆっくり休むといい」


「ううん、待って。これぐらい平気だから。気になるから話して」


「だったら、車に乗ってくれる? 誰かに聞かれたら困る話なんだ」


 凛はロボットカー・メリーナの助手席に乗った。


「……僕は、話した通りフリーライターでね。今、佐原ダイヤを調べてるんだ。特に一月前に起きた事故、あれが、どうもひっかっかってね」


「事故って、落石事故? うちの父さん達が巻き込まれたあの事故?」


 凛の父親はダイヤモンドの研磨技師、母親は宝飾デザイナーとして佐原ダイヤに務めていた。二人はハカタ市内にある佐原ダイヤの本社ビルを職場としていたが、仕事でダイヤモンド鉱山に出張、その帰り、落ちてきた岩を避けようとして、崖下に転落、死んでいた。


「父さんって、君、相沢主任の娘さん?」


「うん、……父さんは慎重な人だったの。あんな山道を走るような人じゃない」


「その話、聞かせてくれない」


「……、あのね、ダイヤモンド鉱山からハカタに出ようと思ったら、普通は国道を走るの。だけど、もう一本、まだ舗装されてない山道があって、父さん達はそっちの道に行って事故にあったの。どうしてそんな道を通ったんだろうって会社の人に訊いたら、会社の人は早く帰りたかったんじゃないかって。近道なんだってその道……。でも、運転に慎重なお父さんが、母さんが乗っているのに、舗装されてない道、走るかなって……。いくら早く帰りたいからって、雨もふってたのに。会社の人は雨が振ってたから尚更、早く帰りたかったんだろうって言うの。ロボットカーだから、悪路でも安心してたんじゃないかって……」


「……その事故だけど、どうもおかしいんだよね」


「え? どういう事?」


「僕は今度の事故、いろいろ調べたんだけど、君の両親が鉱山に出張した理由が曖昧なんだよ。君のお父さん達は佐原常務に呼び出されたらしいんだけど、別に鉱山まで行かなくてもメールで済むような内容なんだ。君の言うように、慎重な人間が、雨の中、悪路を選ぶとは思えない。君の両親は、何か会社の不正を掴んで殺されたんじゃないかな。いや、憶測だけど」


「ええー! ひどい!」


 凛は急に涙が込み上げて来た。荒くれ者に追いかけられ、家を焼かれ、散々な一日の最後に両親が殺されたかもしれないと聞かされ、さすがの凛も耐えられなかった。嗚咽を上げる凛に刈谷仁はハンカチを差し出した。凛はしばらくハンカチで目を抑えて泣いていたが、気持ちが落ち着くと言った。


「ごめんなさい、もう大丈夫」


「君、今日はもう休んだ方がいい。こんな話してすまなかった」


「ううん、いいの。それで」


「……君の両親が殺されたとして、じゃあ何の不正を掴んだのか、それを調べてたんだ。……ここに来る途中話したけど、今夜、僕は君に会いに占いの館に行ったんだ。あの男、君を襲った男は米沢広司っていうんだ。彼が言っていた奈津子っていう女性はね、田沼奈津子さんと言って、佐原ダイヤモンドの備品課に務めてる子なんだ。僕は、奈津子さんとハカタのスナックで知り合ったんだ。スナックのママに佐原ダイヤモンドに務めている女の子がいないかって聞いたら、田沼奈津子さんを紹介されてさ。田沼さんは、備品の在庫管理をしているんだ。一番の下っ端でね。仕入れデータと実際に入ってきた物をチェックするんだ。飲みながら話してたら、彼女、彼氏が暴力的で別れようか悩んでるって話し始めてさ。暴力的だけど、なんだか、羽振りがいいからつい付き合ってるっていうんだ。鉱山労働者は給料がいい。だが、奈津子さんの感覚では、給料以上の買い物をしているっていうんだ。それで僕は、奈津子さんの彼氏、米沢広司について調べてみた。

 確かにおかしいんだが、金の出所がわからない。米沢は、会社でも彼女の部署に時々やってくるっていうんだ。最初はそれで知り合ったらしい。だけど、鉱山労働者が何故、備品倉庫に来る? その上、米沢の上には佐原常務がいる。何かあるんじゃないかと思ってさ。奈津子さんにもっと詳しく調べてもらいたかったんだ。その前に、姿を消したんだけど、消える前に君にあってる。君に何か言ってなかったかと思ってね」


「えーっとね、シチューが何か記録してると思う。ちょっと待って、シチューを呼ぶから」


 凛は通信端末モビに向って言った。


「シチュー、刈谷さんの車まで来てくれる?」


「はい、お嬢様」


 月明かりの中、シチューは焼け跡の片付けをやめるとロボットカー・メリーナの側に行った。


「シチュー、この間、田沼奈津子さんって占ったでしょ。その時のデータまだ残ってる?」


「はい、ございます」


 メリーナの後のドアが開いた。シチューが後部座席に乗る。


「再生してくれる?」


「残念ながら、それは出来ません」


「どうして?」


「お客様はお嬢様を信用して秘密を打ち明けていらっしゃいます。お客様の秘密を簡単に人に言う訳には参りません。刈谷様がいらっしゃる以上、データはお見せ出来ません」


「もう、杓子定規ね!」


「ロボットですから」


「まったく! 刈谷さん、そういうわけだから外で待っててくれる?」


「僕は『仁』でいいよ、じゃあ、待ってるから」


 刈谷仁はくすくすと笑いながら、ロボットカー・メリーナから降りた。


「では、モビの方に再生致します」


 凛の腕にまかれた通信端末モビの上に3D映像が浮かび上がった。奈津子が話している。



『西? 西ねえ、、。あー! 州都だわ。ナニワにいけばいいんだ。私ナニワの出身なの。あそこに工高の時、付き合ってた元彼がいるのよね。そもそも、ナニワ勤務だってきいて佐原ダイヤに就職したのに、こんな辺鄙な所に飛ばされちゃってさ。私やっぱり、ナニワがいいわ!』

『とにかく、暴力男とは絶対別れなさい』

『そうよね、絶対別れるべきよね、あんな暴力男。ありがとう、これで決心がついたわ』



 奈津子が出て行く音がして、ビデオは終わった。

 凛は外にいる刈谷仁に声をかけた。刈谷仁が再びロボットカーに乗りこむ。


「奈津子さん、ナニワに行くって言ってたわよ。ナニワ出身なんですって」


「そうか、ありがとう。僕は奈津子さんを追ってナニワに戻るよ。彼女に聞いたらなにかわかるかもしれない」


「ね、お願い! 一緒に連れてって! あたし、父さんと母さんの仇をうちたい!」


「でも、奈津子さんに会っても何もわからないかもしれないよ」


「でも……、でも、もしかしたら何かわかるかもしれないでしょう。どちらにしろ、あたし、ここにはいられない。家が燃えて、住む所がなくなって。長谷川のおばさんはしばらく面倒を見てくれるかもしれないけど、おばさんも一人暮らしで生活は楽じゃない。これ以上、迷惑はかけられない。あたし、あんたが奈津子さん探すの手伝うから」


 刈谷仁はしばらく考えた。


「そうだな、米沢広司がまた君を襲わないとも限らないし。早く逃げた方がいいかもしれない。わかった。じゃあ、こうしよう。僕が君を雇うよ、ボディガードとして」


「ホント!」


「ああ、本当だ。危険な旅になるかもしれないからね、機械人形パペッティア使いの君とシチューが一緒なら心強そうだし」


 シチューが悲しそうに言った。


「お嬢様、私は由緒ある占いロボットでございます。機械人形になるのはイヤでございます」


「我が儘言わないの。仕方がないでしょ。働かないと生きていけないんだから。それで、報酬なんだけどね、いくら出す?」


「そうだな、五百万クレジットでどうだ?」


「ええ! そんなに! それだけあったら、十八の成人式まで生活出来るし、お釣りがくるわ。成人したら、まっとうな職業につけばいいし」


「占い師はまっとうな職業でございます」


 シチューが哀れっぽい声をだした。


「あたしが言ってるのは、成人しないと雇ってくれないお役所とか大企業っていう意味よ。でも、五百万クレジットって、あんた、金持ちなんだね」


「まあ、危険手当込みだからな。じゃあ、明日朝、迎えに来るから」


 こうして、相沢凛とシチューは、刈谷仁と共に旅に出る事になった。刈谷仁は凛と話がつくと帰って行った。


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