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六、占いロボットシチューの願い

「全員武器をおきなさい!」


 別荘上空に金色に光る飛行艇が現れた。飛行艇には菊の御紋が描かれている。


「全員武器をおきなさい。こちらは光輝宮(こうきのみや)明和あきかず殿下の船です。私は陛下の侍従を務める上田です。全員武器を置きなさい。戦闘をやめるのです」


 飛行艇から上田侍従の声が響く。


「橋本大統領、地球日本政府が話し合いたいと言っています。応じて下さい。三本木大将は、軌道上のドックへの攻撃準備を解除してください」


 別荘付近で発生していた戦いの響きが急速に止んでいった。

 上田侍従を乗せた飛行艇は静かにシャトルの横に降下する。飛行艇が着陸すると、入り口がするすると開き、中から上田侍従が現れた。


「西九条さん、刈谷さん、相沢さん、シチュー君、久しぶり! 三本木大将、初めまして。お上が宜しく頼むとおっしゃっていました」


 頭を下げている三本木大将に上田侍従が言う。

 三本木大将は頭を上げ上田侍従に言った。


「では、地球日本政府から正式に戦闘停止命令が出たのですね」


「そうです。こちらに」


 上田侍従はお付きの者にモニター画面を運ばせた。

 そこには、三富進(みとみすすむ)首相が映っていた。


「橋本大統領、穏やかに話し合いたいんだが、どうかね。そちらにステルス型アンドロイド兵を派遣した事は謝る。内閣の承認を得ずに派遣していた。首謀者の六角君によると、犯人逮捕の為、警察に協力しただけだと言うんだ。文官に劣らぬ二枚舌を使うよ」


「では、彼らを引き上げさせて下さい。銃を突きつけられては話し合いは出来ない」


「三本木君、聞いただろう。すぐに兵を引き上げたまえ。君もすぐに帰ってくるんだ」


 こうして、イデ島の戦いは終結した。



 凛達は上田侍従の飛行艇に乗っていた。

 シチューがどうしてもイデ火山の山頂にある、ヒノヤマ神社の奥の院で舞を舞いたいというので、上田侍従の飛行艇に乗せてもらったのだ。

 山頂に着くと、一行はヒノヤマ神社の奥の院に参拝した。

 それが済むとシチューは、紋付袴を身につけた。

 奥の院に舞殿はない。わずかに石畳があるだけである。

 シチューはその二畳程の石畳の上に立った。

 3Dモニターで光輝宮(こうきのみや)明和(あきかず)殿下も同席している。

 雅な音曲がシチューの体内スピーカーから流れた。優雅に舞うシチュー。火口を前に六本の舞扇が揺れる。しめ縄を切って、舞は終わった。

 シチューは舞終ると、触手を使って体を前に傾け礼をした。

 パンパンパン!

 その場にいた全員が拍手する。

 光輝宮(こうきのみや)明和(あきかず)殿下がモニター越しに言った。


「素晴らしい、実に素晴らしかった。シチュー君、また、ぜひ、キョウトに来てくれたまえ。もっと見ていたいが、次の予定があるのでね、私はこれで失礼するよ」


 光輝宮(こうきのみや)明和(あきかず)殿下はお付きの者に伴われて、モニター画面から姿を消した。モニターも片付けられる。

 舞い終わったシチューは、するすると火口へと向う。切ったしめ縄を火口に投げ入れた。


「シチュー、何やってるの。舞が終わったら帰るわよ」


「お嬢様、お話があります。聞いて下さい」


「何? それ、今、聞かないといけない」


「ぜひ」


「いいわよ。手短かにしなさいね」


「……、スペースシップ『トキ』号は凶星でした」


「は? 何を言い出すの」


「惑星タトゥ初のスペースシップ『トキ』号は凶星だったのです」


 その場にいた全員、シチューが何を言っているのかわからなかった。


「何の話?」


「私は占いロボットです。日ノ本五柱(ひのもとごちゅう)占星師会(せんせいしかい)に所属しています。略して日五占(にちごせん)といいますが、我々の占いは陰陽五行説を中心に、西洋の星占いを組み合わせて占います。人の産まれた年月日時間を元にその人の人生を占い、天空の星々の動きによって人の未来を占います。

 二十世紀、日本は世界に類を見ない管理社会になります。その結果、膨大な量の人の運命が数字化されたのです。占いというのは統計学に基づいています。人がいつ、どこで生まれ、どんな人生を送ったか。学校の成績、結婚、疾病、職業、いつ事故にあったか、人々の一生のデータが大量に三世紀に渡って蓄積されたのです。精度の高いビッグデータでした。それを分析、今までの占いに当てはめた結果、非常によくあたる占いが出来るようになりました。

 しかし、惑星タトゥが日本の領土となりました。果たして、地球日本で蓄積した占い結果がタトゥでも通用するのか、日ノ本五柱(ひのもとごちゅう)占星師会(せんせいしかい)はこの壮大な実験に取組ました。タトゥに植民した人々が全員、必ず日記を付けさせられたのはその為です。人々がどんな人生を送るのか、タトゥに影響を与えるのはどの星々か。我々は詳細に研究しました。今もその研究は続いています。

 タトゥは地球とよく似ていました。タトゥから見上げる星空も、タトゥが属する銀河系が天の川のように空を横切っています。

 人々は惑星間スペースシップを建設するドッグを軌道上に作りました。巨大なドッグです。地上に影を落とす程のドッグなのです。もちろん人々に影響を与えました。

 そんな状況で、惑星間スペースシップ『トキ』号が最悪のタイミングで発射されたのです。『トキ』号は、人々に幸福をもたらす星々の前を横切り、タロットカードを逆さまにするように吉を凶へと変えて行ったのです。現在、タトゥで起きている天変地異、独立のゴタゴタ。これらは総て『トキ』号によってもたらされた凶の運命なのです。

 私はお嬢様が旅に出るとわかった時、旅の吉凶を占いました。その占いの中に『トキ』号によって乱された気を元に戻す方法が暗示されました。

 『五神に舞を奉納すれば気は正されるだろう』というものでした。

 私はあらゆる宗教のデーターベースを持っています。どんな舞を舞ったらいいか研究しました。そして、お嬢様のおかげで、五神に舞を奉納出来ました。これで乱れた気は正されたのです。秩序は回復するでしょう。

 タトゥは完全な自治を獲得するでしょう。そして、地球日本とは緩やかな連合国家を形成するでしょう」


 凛はシチューの説明をぽかんとして聞いていた。


「あんた、何を言ってるの?」


 刈谷仁が口を開いた。


「君はロボット三原則、第ゼロ条に基づいて行動したのか」


「そうです」


「ゼロ条って?」


「第一条の人間が人類に置き換わったものだ。『ロボットは人類に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人類に危害を及ぼしてはならない』」


「そうです。私はスペースシップ『トキ』号が凶星だと知っていました。ですが、私にはどうにも出来ませんでした。しかし、舞を奉納すれば、凶を吉に変えられるとわかったのです。手段がわかり機会も与えられました。後は、舞を舞うだけでした」


「くっくくくく。シチュー、あんたって最高よ。あんたが舞をまったのは全人類の為だったのね。この惑星が幸せになる為に舞ったのね!」


 凛は爆笑した。そして、笑いながら言った。


「いい、占いっていうのは、あくまで確率よ。ホントの事じゃないわ。神様だって、いるかいないかわからないし、いたにしても人がどうこう出来るものじゃないわ。祈りでなんとかなったっていうのは、たくさんの人がこうなりたいっていう思いを抱いて行動した時よ」


 凛はさらに笑いながらいう。


「でも、あんたは、みんなの為に、この惑星にすむ全人類が幸せになってほしくて、行動したのよね。あんたが強情をはって、舞を舞いたいっていったのはみんなの幸せのためだったのね」


 凛はシチューを抱き締めていた。シチューの透明な頭部にキスをする。


「お嬢様!」


「シチュー、あんたが最高のロボットだって事はよくわかったわ。さ、山を降りましょう。人類はあなたが舞を舞ってくれたから、きっと幸せになると思うわ」


 刈谷仁が真面目な顔をしていった。


「君は頭からシチューの話を信じてないが、我々は一つの惑星の上にいる」


 凛は笑いすぎてわずかに浮かんだ涙を人指し指でぬぐった。


「は? 何、それ? 何がいいたいの?」


「君はカオス理論を知っているか?」


「?」


「『中国で蝶がはばたくとアメリカでトルネードが起る』とよく言われるが、俺達は同じ傘の上に乗った水滴なんだ。同じシステム系の上に生きている。シチューの舞が惑星全体にどう影響するかは誰にもわからないんだ。例えば、シチューが投げたしめ縄が火山の噴火を収めるスイッチではないと、何故、いい切れる?」


「確かにそうだけど、凶を吉に変えるとか、気を正すって!」


 まだまだ笑いがおさまらない凛に今度は、西九条通兼宮司が重々しく言った。


「何がおかしい。神は存在するぞ」


「そりゃ、神主さんだもの。神様いなかったら商売あがったりじゃない」


 それまで、黙って聞いていた上田侍従が言った。


「神様がいてもいなくても出来る事はあります。ロボットでさえ、全タトゥ人民の幸せを願って行動したのです。我々もまた、出来る事をしましょう。さ、下界に戻りますよ。飛行艇に乗って下さい」


 凛が飛行艇の窓から外を見ると、白い雲が夕日にあたって鮮やかな茜色に輝いた。

 あたかも神々がシチューの舞を喜び、惑星タトゥに幸福をもたらす(しるし)のように見えた。


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