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三、刈谷仁と米沢広司

 一方、凛が飛行船から落ちた後、船内では戦いが続いていた。

 落ちて行く凛をシチューが助けるのを見た米沢は、仁を振り払い凛達に向って光線銃を撃った。

 米沢の後ろから仁が飛びかかり首を締め上げる。ぎりぎりと米沢を締め上げる仁。米沢が肘を仁の体に打ち込む。思わず手を離す仁。前かがみになった仁の頭めがけて、銃を振り下ろす米沢。

 米沢の足にタックルする仁。もつれあう二人。

 ピカ! ガラガラガシャーン!

 雷が飛行船に落ちた。がくんとゴンドラが傾く。腰を抜かして座り込む宮司。

 仁は西九条通兼に大声で言った。


「じいさん、逃げろ!」


 西九条通兼は我に返ると、階段を駆け下りた。倉庫に飛び込む。パラシュートを身につけ、倉庫脇の扉をあけ飛び降りた。

 西九条通兼は落ちて行きながら、開いたパラシュートの端から見上げた。

 飛行船はイデ火山の方へ遠ざかって行く。


 宮司が逃げた後、仁は窮地に陥っていた。


「貴様! 取引材料だと!」


 頭から血を流しながら、米沢は刈谷仁に銃を突きつけて言った。仁は床に仰向けに倒れている。


「何を知ってる!」


 操舵室の壁には大きな穴があいている。風と雨がビュービューと吹き込んで来る。


「あのクリスタルさ」


 仁はゆっくりと上体を起した。


「クリスタルピースは、奈津子が置いていったぞ」


「あれ、データパッケージだろ。あれの複製をつくったんだ」


 仁は床をジリジリと後ろへ下がりながら言った。


「複製だと!」


「そうだ、複製だ」


「嘘だ、作れるわけない」


「材料があれば作れるんだ。……クリスタルピースのお守り。本当のお守りの方だ。あれと同じ物をシチューが持っていたのさ。彼は占いロボットだ。さまざまなラッキーアイテムを持ち歩いている。その中にクリスタルのお守りがあったんだ」


「嘘だ。あれは特殊な機械じゃないと読み書き出来ない筈だ」


「その通り。僕達は奈津子さんが間違って佐原常務の部屋から持ち出したクリスタルを調べた。そしたら、内部に何かきざまれているのがわかった。僕のロボットカーは優秀でね、簡単な分析システムを積んでいるんだ。それで調べたのさ。何か刻まれているとわかったが、読み出せない。

 しかし、佐原常務があんたを派遣してまで取り返したがるんだ。重要な情報だろうと思ったわけ。それで、お守りのクリスタルに同じ刻みを入れたのさ。読み出せないがまったく同じ刻みを作る事は出来るからね。

 で、あんた達には本物を返して、奈津子さんをナニワに逃がした。僕は知り合いの研究所に行って複製したクリスタルを調べてもらった。というわけで、佐原常務が何をしていたか分かったって訳さ」


「くそー! それはどこにある! おまえが持っているデータだ」


「くくくく、ヒノヤマ神社の僕の部屋。机の上に置いてあったのに。あんた、まるで気が付かなかったんだな」


「きさま!」


 米沢は銃のトリガーに力を入れた。

 シュッ!

 包丁を投げる仁。弾き飛ばされる光線銃。弾みでトリガーがひかれた。

 ババババ!

 火を吹く光線銃!

 包丁は米沢の脇腹に刺さる。倒れる米沢。

 弾は操舵室の天井を打ち抜き、飛行船の空気袋にあたる。走る火花。しゅうしゅうと空気が抜ける。落ちる飛行船。燃え上がるゴンドラ。

 刈谷は落ちた光線銃を蹴飛ばした。穴から落ちる光線銃。イデ山の山腹が迫る。

 刈谷は操舵室に備え付けのパラシュートを取り身につけた。穴から飛び降りようとして、はっとした。足首を血だらけの米沢が掴んでいる。包丁は抜け落ちていた。


「離せ!」


 刈谷は米沢を蹴り飛ばそうとして、逆に倒された。


「離さねぇ。貴様を道連れにしてやる」


「くそ! じゃあ、助けてやる。助けてやるから手を離せ!」


「いや、離さねえ。パラシュートをよこせ!」


「嘘じゃない、必ず助ける。約束する。だから離せ!」


 刈谷は腕を伸ばして、棚から落ちたパラシュートを取り米沢に差し出した。


「早くしろ!」


 米沢は血走った目で刈谷を見た。刈谷の足首を離しパラシュートを受け取る米沢。が、米沢は思うように体が動かない。刈谷は動けない米沢の体にパラシュートをしょわせた。


「窓から飛び出たら、一、二で、この紐を引け。パラシュートが開く」


 刈谷に助けられ、米沢は穴から飛び出した。刈谷も飛び出す。二人のパラシュートが次々に開いて行く。

 二人が飛び出した後、飛行船はイデ山の中腹へ落ちて行った。

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