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八、米沢広司、再び 三

 米沢は人目につかないよう凛達を宿舎の裏手から駐車場へ行かせた。凛達を自分のロボットカーに押し込む。宮司に命じて凛と仁の手を縛った。通信端末モビを取り上げる。

 米沢はロボットカーに飛行船の駐機場へ向うよう言った。米沢はゼブラが調べたアマノハシダテ号の見取り図を見ていた。自分が拉致されたのは恐らくアマノハシダテ号ではないかと、米沢は思っていた。

 米沢はアマノハシダテ号の倉庫に入るなり銃のグリップで刈谷仁を殴った。苦痛に顔をゆがめ、床に膝をつく仁。


「おい、刈谷とかいったな、そこに座れ! 俺が拉致られたのはここじゃねえのか? え! 占い師、おまえもだ。おい、じいさん。こいつらを椅子に縛りつけろ」


 西九条通兼はくやしそうに歯ぎしりをしながら、米沢の言う通りにした。

 椅子に縛られた凛と仁の前に米沢はにたにた笑いながら立った。


「へへ、この間のお返しだぜ」


 刈谷の顔や腹を殴りつける。


「僕は……、なぐらなかった。紳士的に扱ったつもりだけど」


「ふん、どうだっていい。さてと、おい、おまえら、一体どういうつもりだ。何を調べている。この占い師、相沢主任の娘だっていうじゃねえか。え、どういう事だ」


「どうもこうもないでしょ。父さんと母さんが死んだから、占い師のバイトしてたんじゃない」


「口ごたえするな!」


 米沢が凛のほほを打った。


「やめんか! 女の子をなぐるんじゃない! 何が聞きたいんじゃ? え? ワシは孫を人質に取られとる、なんでも答えてやるぞ」


「だったら、最初から話してもらおうか?」


「最初から?」


「ああ、そうだ」


「……この子はの、凛君は両親を亡くし、これからどうしようかと途方にくれとったんじゃ。その時、シチュー君と知り合っての。ゴミ箱に捨てられとったんじゃそうじゃ。

 シチュー君は占いロボットじゃ、凛君に占い師養成コースを受講させて、ハカタの占いの館で働けるようにしたんじゃ。実際に占うのはシチュー君じゃが、ロボットは金を稼げん。占い結果をアレンジして、お客に告げるのが凛さんの役目じゃった。

 そのうち、凛君の占いはあたると評判になっての。それで、あんたの彼女、奈津子さんが来たんじゃ。奈津子さんはあんたが乱暴者だとわかって別れるかどうか悩んでおった。シチューが占うと別れた方がいいと出ての。後はあんたの知っての通りじゃ」


「じゃあ、奈津子とこの女が知りあったのは偶然だっていうのか?」


「そうよ。偶然よ。でも、あんたに追いかけられた上に、家を放火された。最初、あんたが家に火をつけたって思ってた。でも、この間、あんたの話きいて、保護司だってわかったけど……。

 まあ、これはどうでもいいけど、とにかく、あんた達に追い回されて、撃退したでしょ。あのあと、仁と知り合ったの。仁は奈津子さん、探してて、それで、奈津子さんをおいかけてナニワに行こうって話になった時、うちのシチューが、舞をダザイフテンマン宮に奉納したいって言い出したのよ」


「ロボットがなんで、奉納舞なんかするんだ?」


「あたしの旅を占ったらそういう結果が出たんですって。実際、シチューが舞を奉納してくれたおかげで、宮司さんと知り合いになれたし、飛行船に乗れた。シチューの占いって結構あたるのよね。ああ、ちなみに、あんたと奈津子さんの相性も占ったけど、あんたも奈津子さんと別れた方がいいわよ、彼女、あんたの財産食いつぶすから」


「は、馬鹿馬鹿しい。俺には財産なんかねえんだよ」


「え? そう?」


「ああ、外れたな」


「ううん、シチューの占いはよくあたるのよ。ふーん、じゃあ、あんた、身内に亡くなった人がまだいないのね」


「亡くなった人だと?」


「そうよ。遺産を貰うのよ。そしてお金持ちになる。だけど、奈津子さんに食いつぶされる」


「け、そんな話、誰が信じるか。第一、金持ちの身内なんぞいねぇよ。それに、おまえらのおかげで奈津子と別れたしな」


「でも、未練があるんでしょ。奈津子さんはね、沐浴って言ってね、淫乱の星をもってるの。男にとっては無視出来ない星なのよ。あんたはね、彼女の虜なのよ」


「う、うるせー、わかったような事、いうんじゃねえ! おい! 占い師さんよ、あんたの両親、事故で死んだんだってな」


「な、何よ、いきなり。だからどうだっていうのよ」


「けけ、本当にそう思ってるのか? さて、次はおまえだ」


 米沢が刈谷仁に向き直る。


「おまえ、この女の親の事故、嗅ぎ回ってるよな。何故、俺に聞かなかった? ええ?」


「僕が調べてるって何故知ってる?」


「それぐらい調べりゃすぐわかるさ。おい、何故、聞かなかった?」


「君たちが殺したんなら、事件を調べている僕も殺されるかもしれない。だから聞かなかったんだ」


「賢明だな」


「あたしの両親、殺したのあんた達なの?」


「ほう、どこまで知ってる?」


「知らないから聞いてるんじゃない。あたしの両親が死んだのは雨の日だった。普通じゃ通らない道を通って事故にあったって聞いた。父さんと母さんが死んだ場所、行ってみたの。落ちた岩はもうなかったわ。でも、父さんも母さんも、自分で運転するような人じゃなかった。いつも、ロボットにまかせてた。あの日に限って自分で運転して事故にあったなんて信じられない」


「ロボットカーってのは故障するんだよ。ロボットが故障したら人間が運転するしかないだろう。俺の相棒のゼブラってのは頭のいい奴でな。舗装されたちゃんとした道を塞いで、車を脇道に誘導するなんざ、朝飯前なんだよ。そこに岩が落ちてくりゃ、簡単に人は死ぬのさ」


「あんた達が仕組んだの!」


「証拠はないさ。それに、道を誘導しようが、岩を転がそうがロボットを故障させようが罪にはならない。せいぜい、器物損壊。つまり、直接手を下さなくても、人を殺す方法はあるってわけさ。わかったら、これ以上、俺達のまわりをうろちょろするんじゃねえ。ま、もうすぐ出来なくなるがな。さてと、船を出して貰おうか」


「なんじゃと」


「いいから、じいさん、船を飛ばすんだよ」


 米沢は銃を西九条通兼に突きつけると、凛と刈谷を残して、操舵室へ行った。


「どこに行くんじゃ」


「ハカタだよ。この船なら、三日で着くだろう。三日で着かなかったら、孫はギタギタだからな」


「三日? 三日じゃと! だったら、陸地を進まねばならんじゃないか!」


「ああ、そうだ、東に向うんだよ」


「だめじゃ! 今はだめじゃ!」


「逆らうんじゃねぇ。孫がどうなってもいいのか?」


「いいから、ワシの話を聞け! いいか、今、タトゥには地球自衛隊のステルス型アンドロイド兵が来とるんじゃ。ここから東、都賀平に終結しとる。ワシらは見たんじゃ。今、おまえさんが言った東にいけば、そのアンドロイド兵の真ん中に突っ込む事になるんじゃぞ!」


「は、誰が、そんな話、信じる? え? ステルス型アンドロイド兵だと! 笑わせるな」


「信じないのか! どうなっても、知らんぞ!」


「さっさと、船を出せよ」


「やはり、駄目じゃ」


「おい、じいさん、孫がどうなってもいいのか!」


 ババババ!

 米沢が光線銃を天井に向って撃った。弾が室内を飛び跳ねる。窓ガラスにあたった。ガラスが粉々に砕け、弾は外に飛び出した。


「さっさと飛べ!」


 西九条通兼は仕方なく牽引ビームのスイッチを切った。

 飛行船は速やかに上昇して行った。


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