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八、米沢広司、再び 二

 米沢広司がヒノヤマ神社にやってくる三十分ほど前、シチューは舞を舞う準備をしていた。

 シチューは社務所の控え室で、風呂敷包みの中から紋付袴を取り出すと身に付けた。特殊な合成繊維で出来た着物は正月用にとシチューの前の主人があつらえた物だった。シチューは舞扇を取り上げた。小刀としめ縄を持ち舞殿に上がる。

 鹿園寺茉莉子に紹介されて、シチューは舞を舞い始めた。普通だったら、シチューは体内スピーカーで踊る。今日はイデ神社の楽部の面々が生演奏をしてくれた。雅な音楽が境内に響き渡る。いつものように扇を使って舞うシチュー。ひらひらと着物の袖をひるがえし、扇を投げるシチュー。

 集まった人々は、シチューの舞に大きな声援を送った。

 次にシチューは鹿園寺茉莉子と舞を踊った。一人と一台の舞は、美しさと迫力に満ちていた。こちらも、大きな拍手が起きた。

 総ての出し物が終り、人々が去ると凛達は宿舎に引き上げた。


「あれ、テレビ付けっぱなしにしてたっけ?」


 離れの玄関から宿舎に入ろうとして凛が声をあげた。その上、煙草の匂いがする。凛はへんだなと思いながら玄関から続く居間の引き戸をあけた。


「よう、お嬢ちゃん、久しぶりだな」


 突然現れた米沢広司に、凛達はぎょっとして立ちすくんだ。米沢の銃が凛をピタリと狙っている。


「おい、ロボット! 動くなよ。動いたらおまえの主人を撃つからな」


「きさま!」


 刈谷仁がギリギリと米沢を睨みつける。


「おっと、大人しくしてくれ。今日は話し合いにきたんだ。ちょっと聞きたい事があってな。俺の言う事は聞いた方がいいぞ。ちょっと待ってな」


 米沢は部屋においてあった通信端末をポンとたたいた。等身大の3Dモニターに佐原和也の姿が映し出された。


「やあ、皆さん、初めまして、佐原です。西九条さんはいますか?」


「わしじゃが」


「ダザイフテンマン宮の宮司さん、ですね。今、パーティをやってましてね。あなたのお孫さん、清香さんをお招きしたんですよ。清香さん、おじいさまですよ」


「おじいちゃん、佐原さんがパーティに招いて下さったの。お母さんも一緒よ」


 3Dモニターによって等身大に再現された若い娘と四十代の女性。西九条通兼の孫娘とその母親である。


「清香! 孝子さん!」


「素敵なパーティよ。佐原さん、毎月自宅でパーティを開いているんですって。ほらみて、佐原さんからお着物までいただいたの」


 モニターの向うで見事な振り袖に身を包んだ清香がくるりと一回転した。


「清香さん、向うでビンゴゲームが始まりますよ。いってらっしゃい」


「おじいちゃん、またね」


 画面の中の清香と孝子が去って行く。


「ま、孫に何をするつもりじゃ!」


 西九条通兼が真っ青になって3Dモニターで立体化された佐原和也にせまった。


「お近づきの印ですよ。これからダザイフテンマン宮の信者になろうと思いましてね。ところで、西九条さん、うちの米沢がお世話になったみたいで、この男がいろいろお聞きするでしょうが、正直に答えてやって下さい。お願いしますね。そうすれば、お嬢さん達は無事、送り届けますから」


 通信は切れた。


「孫を、嫁をどうするつもりじゃ!」


 西九条通兼が米沢にくってかかる。


「何もしやしないよ。あんた達の出方一つさ。さてと、ここでは、誰が来るかわからないからな。飛行船に乗ろうか。おい、占い師、こっちに来な」


「何すんのよ」


「いいからこい。おい、ロボット、貴様はじっとしてろ。いいか、お前がちょっとでも動いたり下手な真似をしたら、おまえの主人の命はないぞ!」


 凛がしぶしぶ、米沢の前に行くと、米沢は凛の腕を掴み、後ろ手にひねりあげた。凛の頭に銃を突きつける。


「痛い!」


「お嬢様!」


「動くな、ロボット! きさまら、前を歩け」


 米沢は刈谷と西九条通兼に、顎をしゃくって命令する。


「おかしな真似するんじゃないぞ。じいさん、おかしな真似したら孫娘を売り飛ばすからな。わかったら、さっさと歩け! おい、じいさん、こいつのメインスイッチを切れ。完全に停止させろ」


「すまんが、ワシのロボットではないんでの。メインスイッチがどれかわからんのじゃ」


「チッ! おい、占い師、おまえがやれ、おかしな真似するなよ。ちょっとでもおかしな素振りをしたら、このじいさんの孫娘をギタギタにするからな」


 米沢は凛の片腕を掴んだまま、凛を突き飛ばす。凛は仕方なく片手を伸ばしてシチューのメインスィッチを切った。シチューの機能は総て停止した。


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