六、ケイエスグラント 二
翌朝、改めて二人はケイエスグラントを訪ねた。
特殊機器課の課長、双杉正雄はいかにも技術畑の人間だった。
にこにこと笑いながら、仁と握手をする人の良さそうな男は言った。
「何か解析してほしい物を持ってるんですって?」
「ええ」
「ナニワスイシンさんから、連絡が入ってます。見せて貰えますか?」
双杉正雄は刈谷仁からクリスタルを受け取るとしげしげと見た。
「ちょっと待ってて下さい」
「あ、それ一つしかないんです。壊されると困るんですが」
「はは、大丈夫ですよ。一緒に来ますか?」
双杉は仁と凛を、別室に案内した。そこは組み立て工場のような所で、たくさんの作業台が並び、多くの技術者が何かを作っていた。
双葉はある作業台に二人を案内した。
「恐らく、この機械で読めると思います」
双葉はクリスタルを作業台の上においてある機械に差し込んだ。3Dモニターに書類箱がポンと浮かぶ。双葉が手で箱をつまんであけた。箱の中にはたくさんのフォルダーがある。それぞれに、タグがついていた。箱からフォルダーを引き上げると、3Dモニターの全面に書類が展開された。
「これ、全部、コピー出来ます?」
「残念ながら出来ないんですよ。ここで読んでいただくしかないです」
「では、この機械を貸していただけませんか?」
「いえ、それもだめです。この機械は外に出せないんです」
仕方なく刈谷仁は、その場で読み始めた。
「こちらには人が来ないように言っておきますので、好きなだけ読んでいただいていいですよ」
双葉は二人を残して工作室から出て行った。
「さてと、写すか」
「え?」
「僕のノートに写すから」
仁は上着の内ポケットから、手帳を取り出した。作業台の上に乗せ、真ん中をポンと叩く。
「デン助、モニター画面を写してくれる?」
「ガッテン承知! おいらにまかせてくれたらあっという間だぜ!」
折り畳まれていた手帳がみるみる開いて行く。A4タブレットサイズになると止った。端から棒状の物が延びて手帳を支える。
「な、なに、これ?」
凛が素っ頓狂な声をあげる。まわりで作業していた人々が一斉に振り返った。
「あ、あの、なんでもありません。脅かせてすいません」
凛は慌てて頭を下げた。向き直った凛に刈谷仁が言った。
「くくく、これはね、ノートブック型ロボット。性格が江戸っ子だけどね」
ノートブック型ロボット。事務作業に特化されたロボットである。命令すると書いたりコピーしたり映し出したり書き出したりしてくれる。記者の刈谷にとっては、必需品だった。
ノートブック型ロボット・デン助がモニター画面を写し取って行く。
仁はデン助が写し取った内容を後ろから眺めていた。
「……あいつら、こうして金を稼いでいたのか」
「なに? なにかわかったの?」
「ああ、いろいろね」
小一時間程して、ノートブック型ロボット・デン助が仁に言った。
「おーい、出来たぜ!」
「早かったな」
「あたぼうよ」
「じゃあ、手帳に戻ってくれる?」
ノートブック型ロボット・デン助はパタパタパタと自らを折り畳んだ。
刈谷は元の手帳に戻ったデン助を上着のポケットにいれた。
「さ、行こうか」
「うん」
仁と凛は双葉課長に礼を言ってケイエスグラントを出た。
ヒノヤマ神社の宿舎に戻った刈谷仁はケイエスグラントでざっと見ただけの書類を詳しく調べた。
そこにはダイヤモンドの不正取引の内容が詳細に書かれていた。




