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五、ナニワスイシン

 刈谷仁は凛と共にロボットカー・メリーナに乗ってナニワスイシンへ向った。

 ナニワスイシン株式会社に到着すると、刈谷は受付嬢にクリスタルピースを見せ、開発担当者と話をさせてほしいと言った。


「しばらく、お待ち下さい」


 受付嬢に案内された応接室で待っていると、担当者がやってきた。黒いスーツを着てメガネをかけた知的美人だ。渡された名刺には、真鍋ゆかり、クリスタルピース開発担当とあった。


「真鍋です。宜しくお願いします」


 型通りの挨拶が行われると仁は早速、用件に入った。


「このクリスタルピースなんですが、こちらの会社で作った物ですよね」


 仁は、奈津子のデータパッケージから作った複製を見せた。

 真鍋ゆかりが、クリスタルピースを一瞥する。


「はい、弊社で作成した物です」


「これは、お守りとして売られていますが、データパッケージではないんでしょうか?」


「あの、何故、そのような疑問を?」


「……まあ、好奇心ですかね」


「それはただのお守りです。おみやげ業者から依頼を受け作りました」


「しかしですね、このお守りとそっくりなデータパッケージを見つけましてね」


「は? あの、何のお話でしょう?」


「データパッケージですよ。実は、このお守りを使って、そのデータパッケージをコピー出来るかやってみたんですよ。そしたら出来るんですね。びっくりしました。ですが、データを読めないんです。全く同じ物を作れても、読み出せない。何か特殊な装置が必要なんだろうと思うんです。お心あたりはありませんか?」


「そんな筈はありません! そんな装置、聞いた事がありません! これはただのお守りです!」


 担当者の真鍋ゆかりはテーブルをドンとたたいて反論した。


「そんなに熱くなる事はないですよ」


「熱くなっていません!」


「まあ、これをどこかの研究所に持っていって、もっと詳しく調べてもらいますよ。そしたら、いろいろわかるでしょう」


「いいですよ。調べていただいても何も出て来ない筈です」


「ふーん、僕はこう思っているんですよ。例えば、特殊なデータ蓄積装置を欲しがっている人がいて、特注で製造装置を作った。だが当初予定していた金額よりも製造費がかかってしまった。なんとかこの装置で元をとらなければならない。そこで、クリスタルがお守りとして使えると気付き、大量生産した。しかし、依頼主との契約では、クリスタルを十本以上製造してはならない事になっている。この事が依頼主にばれたら違約金を請求される……」


「違うわ! 手違いだったのよ」


 真鍋ゆかりは、あっと言って口を抑えた。


「どんな手違いだったんです? 話して貰えませんか?」


「注文本数は十本じゃないわ。十二本だったのよ。一ダース。現場の人間が、注文伝票を作成する時、入力をミスったの、十二じゃなく十二万って。ミスがわかった時には原料も十二万本分仕入れていて……。仕方なかったのよ。十二万本作るしかなかったの。それに、依頼主とは十二本以上作ってはいけない、なんて契約結んでなかったし。作って売っても法的には問題ないわ」


「法的には問題なくても、倫理上の問題は残るんじゃないですか?」


「だ、だからって。どうにもならないじゃない。もう、作ってしまったんだから」


「……このクリスタルピースはデータパッケージで読み取り装置があるんですね」

「ええ、そうよ、あるわよ。でも、その装置は依頼主しか持ってないわ。だからデータは絶対に安全なのよ」


「……、この子は相沢凛と言います」


 唐突に刈谷仁は凛を紹介した。


「この子の両親は事故で死んだんです。ですが、その事故がどうにも不自然なんですよ。普通では起きない事故だったんです。僕はその事故を調べてるんです。このデータを調べれば何か出て来るんじゃないかって思ってましてね。協力していただけませんか?」


 真鍋ゆかりは、迷った。どうやったらデータを読み出せるか、知らないわけではない。

 目の前に座っているこの若い男はクリスタルピースがどこの会社の物か、一切名前を出していない。しかし、真鍋ゆかりはそのクリスタルピースがどの会社に納められた物かよく知っている。相手は、こちらの事情もよくわかった上で、あの会社の名前を出さずにデータの読み出し方を聞いて来ている。

 信頼出来そうな男だと真鍋ゆかりは思った。が……。


「申し訳ないですが、これ以上はお話出来ません。事故が絡んでいるなら警察にいかれたらいかがですか? お引き取り下さい」


 真鍋ゆかりは立ち上がった。刈谷仁も仕方なく立ち上がる。


「……そうですね。僕は一介のフリーライターです。お気が変わったら、名刺の番号まで連絡下さい。今日は会って下さってありがとうございました」


「いいえ、お役に立てませんで」


 真鍋ゆかりは二人が応接室を出て行くのを見ていた。

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