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四、ヒノヤマ神社

 ヒノヤマ神社は、州都ナニワの北、火山島イデを遠くに見晴らすアシガラ山の中腹にあった。

 火山島イデは火州州都ナニワの西の海に浮かんでいた。イデ火山はナニワ富士と呼ばれるほど美しい山である。イデ島には惑星タトゥに最初に降り立ったロボット達が作った地熱発電所があった。現在は、発電所に勤務する人々とその家族を中心に、半農半漁の人々が住んでいる。その人々が自然発生的に作ったのがヒノヤマ神社である。祭神は、イデ神。火山イデを神格化して祀っていた。しかし、イデ火山の噴火で埋まってしまい、ナニワの北、現在の地に再建された。

 西九条通兼は飛行船アマノハシダテ号をアシガラ山の裾野にあるヒノヤマ神社の格納庫に着陸させた。そこから三人と一台はロボットカー・メリーナにのって、ヒノヤマ神社を目指す。

 その日、州都ナニワは曇りだった。

 曇り空を背景に凛達を出迎えたのは、決して若くはないが臈長けた美しい巫女と百歳は越えたかと思える老婆だった。巫女の名前は鹿園寺茉莉子、老婆は鹿園寺キラといった。茉莉子はキラの孫娘である。


「ほう、これは美しい!」


 仁が早速、口説きにかかる。が、鹿園寺茉莉子は刈谷の口説き文句に眉一つ動かさない。その上、無口なクールビューティーだった。

 片や、老婆の方は饒舌で、西九条通兼とは旧知の仲らしく、並んで歩きながら世間話に盛り上がる。二人の間から、何がおかしいのか笑い声が絶えない。

 そんな四人をみながら、相沢凛はシチューと共にヒノヤマ神社社務所へと歩いて行った。

 社務所に入り、鹿園寺キラが土間から板の間に上がろうとしてつまずいた。さっと老婆を抱きとめる仁。


「おっと、足下気をつけて、キラ」


 その場にいた、全員がぽかんとした。


「あ、ごめんごめん、きれいな名前なんで、つい呼んでしまった。どうぞ、おばあちゃん」


 仁が照れくさそうに言う。


「おう、びっくりしたのう。若い者から名前を呼ばれたのは一体何年ぶりじゃろうのう」


 鹿園寺ばあさんがぽっと頬をそめる。


「何を赤くなっとる? え? 年甲斐もない」


 西九条通兼が、やや不満そうに言う。


「わしゃ、気は若いんじゃ! 黄昏れとるどこかの宮司とは違うわい」


「誰が黄昏れとるじゃと!」


 鹿園寺キラと宮司は口喧嘩をしながら、社務所の奥へと入って行く。残った凛達は、老人達の他愛ないケンカに顔を見合わせ、声を殺して笑った。

 鹿園寺茉莉子は凛達を社務所の奥にある宿舎に案内した。一通り宿舎を見せた後、茉莉子は言った。


「明日のロボット舞ですが、私、シチューさんと一緒に踊ってみたいのです。お許し頂けますか?」


「あ! あの、もちろんです! あの、こんな無骨な奴でいいんですか? もっとスマートなロボットの方がいいんじゃ?」


「ほほ、見た目ではなく舞の素晴らしさですわ。ぜひ、一緒に舞わせて下さい」


「もちろんです。どうぞ、踊ってやって下さい! よかったわね、シチュー。あんた、こんな美人と一緒に舞えるのよ。嬉しいでしょ?」


「お嬢様、その問いには答えられませんが、お嬢様が喜んで下さっているのはわかります」


 凛はムカムカしながら言った。


「あんたね、一言嬉しいって言えないの? もう、鹿園寺さん、こういう奴ですが、宜しくお願いします」


「ほほ、こちらこそ、宜しく」


 鹿園寺茉莉子は社務所で待っているからと言って戻って行った。凛は良い香りのする茉莉子を一体幾つだろうと思った。

 宿舎に落ち着いた仁は凛と西九条通兼に言った。


「やっとナニワに着いたんだ。早速、ナニワスイシンを調べに行こうと思うんだ」


「いいよ。行こう行こう」と凛。


「悪いがわしゃ、鹿園寺さん達と打ち合わせがあるんじゃ。あんたらで行ってきてくれ。調査だけなら危ない事はないじゃろ。凛君はナニワが初めてじゃろ? ついでにいろいろ見てくればいい」


「ありがとう、そうするわ」


 刈谷仁と凛は、シチューと共に宿舎を出た。社務所にいた鹿園寺茉莉子に声をかける。


「僕達、これから出かけてきますから」


「行ってらっしゃい。では、シチューさん、早速、練習しましょうね」


 鹿園寺茉莉子がシチューに笑いかける。


「はい、お願いします」と生真面目に答えるシチュー。


 凛はシチューと鹿園寺茉莉子の様子を見て、「美女と野獣」という言葉が浮かんだがすぐに打ち消した。


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