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二、田沼奈津子 一

 刈谷仁は米沢広司を気絶させると、凛達が隠れている隣の部屋に行った。


「凛、君の家を焼いたのは、米沢じゃないみたいだぜ」


「えー、そうなんだ。だったら、誰が……」


「親を亡くした女子工生の家を焼いたら金が貰えるという噂がハカタの夜の街で流れていたそうだ。家を焼いて住処をなくし、住む所のなくなった女子工生を囲うつもりだったらしい」


「ええ! ま、まさか、あの保護司じゃないでしょうね」


「ああ、あのガマガエル!」


 凛が吹き出した。


「そうね、ホント、ガマガエルだわ。あのガマガエル、強引にあたしを連れて行こうとしたし! あんの野郎! 帰ったら只じゃおかないんだからー!」


 凛はハカタの方角に向って雄叫びを上げた。その場にいた全員が耳を塞いだ。


「ふう、気がすんだかい。だけど、凛。保護司がしたっていう証拠はない。また、間違えないように今度は慎重にやらないと」


「そうだけど」


「この仕事が終わったら、ハカタに行って、保護司の事、調べてやるよ。他にも余罪がありそうだし。それより奈津子さん、米沢はあんたの荷物を気にしているようだけど、何か心あたりない?」


「荷物? 荷物ねえ??」


 結局、奈津子は駅に荷物を取りに行った。

 アマノハシダテ号に戻って来た奈津子は、どさりとテーブルの上に鞄をおいた。


「私の荷物はこれだけよ。中身は私の着替えとかだし」


 鞄の中身を引っ張り出そうとした奈津子の手元から何かが落ちた。クリスタルのお守りだ。凛が拾い上げる。


「これ、どうしたの?」


「ああ、それ。流行ってるから、ハカタの街で買ったの」


 凛はお守りをしげしげとみた。六角形の断面をした長さ五センチ程の棒状のお守り。水晶で出来ているというそのお守りは、様々な悪い運気を吸ってくれると評判になり、ハカタの街で流行っていた。凛はクリスタルを固定している台座の部分をみた。


「でもこれロゴが入ってない」


「ええ? そうだった? ……ホントだ。ない」


 刈谷仁もお守りを詳細に観察した。それを横に見ながら凛はシチューに言った。


「シチュー、あんた、ラッキーアイテムとしてこれと同じお守り持っていたわね」


「はい、お嬢様」


 シチューは風呂敷包みの中からクリスタルのお守りをだした。お守りには、アルファベットのAをデザインした文字が台座に入っていた。片や、奈津子のお守りにはこのロゴがなかった。


「このお守り、あやしいな」と刈谷仁。


「えー、なんで? なんで、ロゴが入ってないの?」


 奈津子も首を捻る。


「あー! 私、もしかして! あちゃあ。間違えたんだ! 備品を常務の部屋に持っていった時、絨毯につまずいてこけたのよね。常務の机にぶつかってさ、机の上の物がいろいろ落ちて、その時、つなぎの胸ポケットにいれていたお守りも落としちゃったの。同じお守りが二つあって、どっちも一緒だとおもって、一つおいてきたけど、あっちが私のだったんだわ」


「それはいつ?」と凛。


「金曜日の午後だったわ。私、早く帰りたくて急いでいたの」


 刈谷はクリスタルを持つと、ロボットカー・メリーナに向った。


「メリーナ、このクリスタルに何か細工がしていないかどうか、わかるか?」


「おまかせを」


 メリーナの荷台には簡単な分析機器が供えられている。これは、刈谷仁が取材していて珍しい物を見つけた時、分析する為だ。

 刈谷は分析用の箱にクリスタルをいれると、メリーナの分析ボードにセットした。

 しばらくして、メリーナが結果を報告した。


「これは人工物です。中に何かが刻まれています。恐らくデータかと」


「なんだって! そのデータは読めるのか?」


「いいえ、私では無理です。これ専用の機械が必要です」


「は! さすが、佐原ダイヤだ。オリジナルデータパッケージを作れるシステムを持っているとは。メリーナ、ありがとう、助かったよ」


「情報は読み解けませんが、材料があれば私のシステムでコピーを作れます」


「なんだって! 凄い! で、材料は?」


 メリーナが材料を読み上げた。


「それでしたら、こちらのお守りと同じではないでしょうか?」


 横で聞いていたシチューが答える。


「え? じゃあ、このお守り! まさか! シチュー君! お守り、貸して!」


 刈谷はシチューからお守りを受け取ると、メリーナの分析ボックスにいれた。


「メリーナ、このお守りにデータをきざめるか?」


「はい、クリスタルピースと同じものです」


「なんてことだ! このお守りを作ったのはどこの会社だ!?」


「ああ、それでしたら、ナニワスイシン株式会社です。占いの館『アタル』でもラッキーアイテムとして仕入れていました」」とシチュー。


「面白い! ナニワスイシンか……、ナニワにあるのか?」


「はい、ナニワに本社も工場もあります」


「みんな聞いてくれ。奈津子さんの持っていたお守りはデータパッケージだった。お守りじゃなかった。中に情報が刻まれている。これを読み解けば、米沢達の悪事を暴けるかもしれない。米沢は自慢そうに佐原常務と親しいと言っていた。だったら、常務もグルだと思う。取り敢えず、このお守りを作った会社に行ってこれを読む方法を調べてみようと思う」


 西九条通兼が横から口をはさむ。


「お前さん達、随分、危険な事に首を突っ込んだようじゃの。悪いが、わしゃ、巻き込まれるのはごめんじゃぞ」


「ああ、わかってる」


「ね、それより、これからどうする?」と凛。


「そうだな。米沢を監禁しておけたらいいんだけどな。しばらく監禁しておいて、奈津子さんが無事逃げられたら、米沢を解放する」


「だけど、米沢が奈津子さんじゃなくて、あのお守りを探していたとしたら、まずいんじゃない」


「……僕に考えがあるんだ。まかせてくれる」


 刈谷仁は、にーっと不敵な笑みを浮かべた。


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