一、アキバ神社 一
アキバ神社では、巫女見習いの少女達が、凛達を出迎えた。
刈谷仁がガジャに襲われた話を少女達にする。
「仁様、ガジャに襲われるなんて! すぐにお手当しますわ」
黒髪を三つ編みにして赤いリボンをつけた少女が救急箱を持って来る。
「お着替えお持ちしました」
別の少女、こちらは三つ編みを青いリボンで結んでいる、が浴衣を持って来た。
「お茶はこちらに」
三人目の少女は緑のリボンを結んでいた。他の少女達も刈谷一人を甲斐甲斐しく介抱する。
「何? この待遇の差!」
凛が叫ぶが、少女達はくすくす笑いながら、刈谷仁一人を囲んで別室に連れて行ってしまった。
凛達の手当はアキバ神社の賄いを手伝っているおばさんがしてくれた。
凛や西九条通兼の怪我は軽い打撲だったが、地ノ宮神社の宝田神主達は、ガジャに引っ掻かれたり噛まれたりしていた。三人は感染症の恐れがあるので、大事を取ってカガミバラ総合病院へ入院した。病院側は宝田神主達がガジャに襲われたと聞くと警察に連絡を取った。
宝田神主は警察が来る前に西九条通兼宮司にステルス型アンドロイド兵を見たと警察に話した方がいいかどうか相談した。宮司は仁と相談して言わない方がいいだろうと助言した。ビデオに映っていない以上、証拠がない。
宝田神主は警察官にガジャに襲われた話はしたが、アンドロイド兵の話はしなかった。
一方、ナニワに向っていた田沼奈津子もまた、カガミバラで客船を降りていた。船旅に飽きたのである。
田沼奈津子はカガミバラの街を見物して回った後、列車でナニワに向おうとカガミバラの駅にやってきた。ナニワ行きの列車を探す。寝台列車があった。夜九時出発である。
奈津子はその寝台列車のチケットを買い、発射時刻までどうやって時間をつぶそうかと思いながらふらふらと駅の正面入り口に出た。するとハッピを着た男が寄って来た。
「ねぇ、お姉さん、アキバ神社に行かない? 今評判のアキバミコシスターズの踊りが見られるよ」
「アキバ神社って?」
「ほら、あそこに見えるでしょ」
奈津子は男が手を降った方向を見た。駅から巨大な鳥居が見える。
「アキバ神社は芸能の神様を祀ってるんだ。毎日三時から、巫女見習いの少女達が踊るんだよ。可愛いよ。これ、チケット。買わない?」
「お金がいるの?」
「1000クレジットだけど、今日はね、特別公演があるよ。ロボットが奉納舞を踊るんだ。これがいま、ネットでもの凄い評判になっててね。どう?」
「うーん、行ってみたいけどー」
奈津子は胸の谷間を男にちらりと見せた。
「でもぉ、旅行中だしぃ」
とさらに、胸をつきだし、腰をくねらせた。男は鼻の下を長く伸ばし、目尻を下げ、奈津子の胸元を食い入るように見て言った。
「だったら、安くしとくから」
「いくらぁ?」
「700、いや、500クレジット!」
「買った!」
こうして田沼奈津子はチケットを購入、アキバ神社に向った。
アキバ神社はアキバ駅の近くにあった。アキバ駅からアキバ神社までの参道は、商店が軒を連ねちょっとした賑わいである。
奈津子は、チケット売りの男をたらし込んで安くチケットが買えたのでご機嫌だった。異常に暑い日だったが奈津子は気にならなかった。むしろ肩や背中や太ももを丸出しにした服を着て、行き交う男達の視線を釘付けに出来るのが嬉しかった。
奈津子は、アキバ神社の参道を、商店をひやかしながら歩いて行った。奈津子はソフトクリームを見つけると、迷わず買った。冷たいソフトクリームを舌で絡めとるとバニラのあまーい味が口一杯に広がった。飲み込むと冷たい塊が喉から胃に落ちて行く。奈津子は幸せだった。
奈津子が二つ目のソフトクリームを胃の中に収める頃、商店が途切れ奈津子は境内に入った。ソフトクリームで汚れた手を手水舎できれいに洗う。柄杓に水をため、ごくごくと飲んだ。
奈津子が舞殿に行くと、ちょうど舞が始まった所だった。舞殿の周りには、パイプ椅子が置かれ観客席が作られている。観客席の周りには縄が張られ、参拝客と区切られていた。奈津子はチケットを係の者に見せ席についた。
巫女見習いの少女達、アキバミコシスターズ八人が、巫女の装束をつけ、両手に鈴を持ち、頭にかんざしをさして舞台で踊る姿は圧巻だった。シスターズは総勢四十八人。六チームに別れているのだという。
奈津子は舞台に熱中した。鈴の音。雅な音曲。少女達の衣ずれの音。どこか人を陶酔させるものがあった。
演目は、特別出演というロボット舞になった。奈津子は、筒型をしたロボットが紋付袴を来て、六本の触手で日の丸の扇を器用に操って舞う姿に驚きながらも見とれていた。
奈津子が熱心に見ていると、肩を叩かれた。何かと思って振り向くと悪夢が座っていた。
「よう、奈津子。久しぶりだな」
米沢広司だ。
「あ、あんた!」
奈津子の体が小刻みに震える。
「俺から逃げられると思ったのか? え、奈津子!」
「そんな、なんであんたがここに?」
「おまえを追って来たんだよ。おまえが行くとしたらナニワしかねぇだろ。空路は制限させてるし、車じゃあ、時間がかかり過ぎる。船で来たんだろうっておもってよ。会社の船で追いかけて来たのさ」
「そ、それで! わ、私、あんたとヨリを戻す気になんてないんだからね」
「おい、どの口で言ってるんだ。おまえは俺と一緒にハカタに帰るんだ」
「いやよ!」
奈津子の大声に周りからシーッと言う声が聞こえる。
「ほら、行くぞ」
米沢広司はパイプ椅子に座っている奈津子の体をむりやり後ろから立たせた。周りの迷惑も考えずに米沢広司は奈津子を引きずるように、会場から連れ出す。
「いや、やめて!」
「おまえ、荷物はどこだ?」
奈津子は腕を振りほどこうと身をよじらせる。
「言え! 荷物はどこだ?」
「あんたに関係ないでしょ。私はあんたと別れるって言ってるのよ。離してよ!」
「離せねえよ。さあ、荷物はどこだ。荷物を持ってさっさと帰るぞ」
「帰るって、どうやって?」
「どうやって? 船に決まってるだろうが」
「無理ね」
「なんだと!」
「ハカタ行きの船は、私が乗って来た客船ニイタカ丸がナニワに行って戻って来るまでない。飛行機は飛ばない。後は高速バスか鉄道。だけど、直通はない。それとも、車? ハカタまで何日かかるかしらね?」
奈津子のいいように米沢広司が切れた。米沢広司は奈津子を境内の隅に引っ張って行った。あたりに人気がないのを確かめると、米沢は奈津子を地面に突き飛ばした。
「貴様、バカにしやがって! 久しぶりにいたぶってやる」
「い、いや、やめて!」
顔を覆う奈津子。だが、米沢広司は容赦しない。なぐろうと拳を振り上げた。
しかし、米沢広司の手はがっちりと掴まれた。
「あんたさ、女を殴るしか能がないのかい。紳士といえないね」
「貴様、誰だ?」
「奈津子さんの友達」
奈津子がぽかんと刈谷を見上げた。
「え? あんた、誰?」
刈谷仁も、えっという顔をした。
「忘れた? ほら、スナックで会った」
「えーっと、そうだっけ。私、プレゼントされないと男は覚えられないのよね」
「おい、腕を離せ。俺はこれからこの女にヤキをいれるんだ。おまえもこんな女の為に怪我したくないだろ。わかったら離せ」
米沢が刈谷に凄んだ。だが、刈谷は怯まない。不敵な笑いを浮かべ米沢を睨みつけた。
「僕は、今、あなたに用があるんですよ」
刈谷は米沢広司の腕を掴んだまま体の下に潜りこみ投げ飛ばした。したたかに、地面に叩き付けられる米沢!
「きさまー!」
米沢はわめきながら、刈谷に突進した。拳を刈谷に向って突き出す。何度も突き出される拳を鮮やかなフットワークで避ける刈谷。だが、石につまづいた。すかざす刈谷に馬乗りになる米沢。刈谷を殴ろうとした。




