第2話 聖女
忘れた頃に投稿
「後ろ盾の代わりとして、シアラにはその騎士に付いてもらってほしいのです」
スラム出身と聞き、シアラが思わず紅茶を噴き出してしまってから数分後、聖女は何事も無かったかのように話を再開した。ちなみにその数分間シアラは聖女に必死に謝り倒し、ほとんど泣きそうな顔になっていた。
「絶対無理えす」
実際半泣き状態だった。
シアラは幼い頃から教会で過ごしてきた。男性との接触もほとんどなく、あったとしても年配の神父や幼子ばかり。元傭兵はもちろん、同年代の男と出会ったことさえ無い。そんな状態で騎士とは言えど、スラム出身者の教育などできるわけが無い。
シアラは、聖女の願いとあったら何としてでも叶えたかったが、さすがに無理だと思った。
聖女は依然として微笑みを浮かべていたが、幾分ひきつりが見える。
さすがに自分でも無理を言っている自覚があるようで、なだめるように言った。
「私も以前お会いしましたが、元傭兵とは思えないほど理性的で冷静な方です。歳も私たちとそれほど変わりません。貴方なら問題なく彼と話すことができるはず……多分」
「多分て何ですかぁ!」
最後に本音が漏れたようだったが、このまま押しきろうと考えたのか、言葉を続ける。
「まあ、実際に会う前から無理だと決めつけることも無いでしょう。話し合った上で無理だと言うのなら私も考え直します。それに、そもそもそれほど長い間彼の専属という訳でもありません。シアラには私の側にいてもらわなくてはいけませんからね」
「聖女様…」
最初は強硬に反対していたシアラも、聖女のこの言葉に揺れた。さらに聖女は丁寧に頭を下げる。
「お願いします、シアラ。その騎士も騎士団に敵視され、後ろ楯が全くない状況ではさぞや心細い思いをしているでしょう。教会に所属するあなたにこのような役目をお願いすることは筋違いなのでしょうが、貴方しか頼れる人はいないのです」
聖女の言葉に感動したようで、シアラは目を潤ませる。そして力強く言った。
「分かりました!不肖このシアラ、その騎士のため、そして何よりも聖女様のため、この任務精一杯務めさせて頂きます!」
「大変な役目でしょうが、よろしくお願いしますね」
「はい!それでは早速その騎士様とお会いして参りますね!」
決めたことには一直線のようで、シアラは素早く部屋から退出した。
聖女はその様子を微笑ましそうに見ながら、椅子の上で地面に届かない足を楽しそうに振っていた。
その、聖女には珍しく年相応に見える行為を見た者は誰もいなかった。




