面接
「ほう、君は知能系の指数も体力・筋力系の指数も高いようだね」
面接官は画面の向こう側でそう言いながら頷いた。
「ありがとうございます」
青年は画面に向かって返事をする。大学での成績が優良だったことや、テニスを十年やってきたことなど説明する必要はなかった。
なぜなら、全ては数値に置き換えられているからだ。
全ての人間が体にスキャン用のインターフェースを埋め込むことが義務付けられてから二十年以上が過ぎ、それはもはや人々にとって日常となっていた。
一人一人が数百に及ぶ個別データを持ち、0から一〇〇〇までの値に振り分けられるそれぞれの指数はいくつかの項目で同じになる事はあれども、全てが一致する事はなかった。これにより人は完全なる個性を手に入れた。
そして今行われているのは人々がこうしたデータによって差別化されるようになってから主流となった面接方法だった。こうしてデータを見ながら通信による面接をする事で、人々はどこに住んでいようとも、全国――いや、全世界に就業機会を見出す事に成功した。
もはやこの面接という行為はただの確認作業でしかなかった。
「我が社が求める三十の項目のうち、二十八項目を満たしている。しかし……」
面接官は表情を曇らせた。そしてこう続ける。
「少しばかり攻撃性の数値が高いねえ。いや、決して悪い事ではないんだよ。最近は内向的な項目ばかりが高い学生が多いからね。ただ、どうしてなのかな、と思ってね」
青年は僅かに間を作り、泰然とした口調で答えた。
「ああ、それですか。ずっと個人競技をやっていましたから、どうしても人に勝とうという気持ちが出てしまいまして……」
流暢に並べられた言葉を吐きだしたのは、ぎこちなく歪んだ口だった。
「なるほどね。うん、それはいい事だ。ここだけの話、君はほぼ採用で決まっているからね、こうして確かめられてよかったよ。予想通りの人材だ。では、また後日……近いうちに通知を送るよ」
「……はい、ありがとうございました。失礼します」
青年は淡々と言い、頭を下げると、通信を切断した。
黒々とした画面に映るのは眉目秀麗だが、温度を感じさせない冷ややかな顔。
そして青年は部屋の隅にある棚に視線を向けた。
そこにあったのは無数の瓶。そしてそのなかには赤黒い液体や元が何であったの判別のつかない固体の入り混じった不気味な塊が入っていた。
青年はゆっくりと立ち上がり、その一つの瓶を手に取り恍惚の表情を浮かべる。
「くっ……くくッ」
狂気に染まった青年の笑い声は、静まりかえった部屋の壁や天井にゆっくりと溶け込んでいく。