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おれ異世界でもトラブルが絶えないのは何でだろう。  作者: じむ
仲間の過去と秘密とトラブル
50/51

49:すげえよな。旅の最後までたっぷりだもん


サイド:ハク


ということで嵐のようなニーアのお父さんと、対照的に穏やかなルリーアのお父さんにロビーまで案内されて、おれたちはそこで自己紹介をすることに。


「さっきはどうも、すまんかったな!ニーアちゃんの父親のヴァンディッド・ヘイムだ」


「ルリーアの父のアルフォーン・ハイデンベルです」


ニーアのお父さん、ヴァンディッドさんは堂々と、

ルリーアのお父さん、アルフォーンさんは穏やかにそれぞれ自己紹介をする。

……ヴァンディッドて。なんかアレな意味なかっただろーか。ギルドを率いる人間にはだいぶついちゃいけないやつ。

まぁともかく、こちらも全員が自己紹介を


「おお、ふろんとのヴァヴァナの方が美味しいのじゃ!がわーす!そっちのテーブルのもよこすのじゃ!」


「馬鹿者トカゲ娘!貴様ワタシのおやつ用に馬車で保管していたものも全部食ったではないか!少しくらいワタシに……少しって皮寄越せって意味じゃないわばかぁ!」


「あら、こちらのお茶は緑ですの?……これが東方の"リョクチャ"ですのね?なるほど、とても美味しゅうございますわ……独特の苦味とまろやかさ……おかわり頂いてもよろしくて?」


「左からウィーネル学園長、ガウァース、セルティニア、ティノです」


するはずもなく、おれとルリーアとニーアで紹介してますはい。

……ていうか学園長。だいぶ年下のはずのティノの行動なんかで半泣きにならないでください。

ガウァースが「まぁまぁ落ち着け落ち着け。あとで買ってやる、買ってやるから。な?」とか言って宥めててなんか年甲斐もなくいたたまれないので。


「ははは!ニーアちゃん達、その様子だと苦労してるんだなぁ!」


「「「もう慣れましたよ」」」


バンディッドさんにさわやかな笑みで返すおれ達は、それはもう「大人の階段のぼる?いえ、飛んできましたけど」って顔をしていたことだろう。

ええ、飛んできましたとも。


「それにしても、ガウァース前隊長もお変わりないようで。最近はデウィーネでの活躍を聞いていましたよ」


そんなおれ達の笑顔をなんだかほほえましそうに眺めてから、アルフォーンさんがガウァースに話しかけた。

……それにしても、やっぱり傭兵団の元隊長"大斧のガウァース"はジパンギルではだてじゃない知名度らしい。

外交大臣とはいえ、デウィーネからの噂が届くほどだもんなぁ。

こんなオヤジでも。

……こんなオヤジでも。


「ああ、いやぁ。大したことはしてねぇさ。なぁ、ハク?」


「そうですねー先生。アンデッドキングとかー盗賊との軽い戦争とかー、全然大したことじゃないですよねーははーん」


叩き斬ってやろうか。


「ははは、向こうでも"豪"の大斧は健在なようで、何よりですよ」


なんにもなによってないです、アルフォーンさん。

笑顔で剣の柄を握りこむおれを笑いながら言うアルフォーンさんの台詞を心の中で一刀両断しつつ、

おれはとりあえず怒りを納めて本題に入ることに。


「ところで、」


せずに。


「ってなんにもよくねぇええぇえぇええぇ」


「おっとっと、おいおいハクちゃんよぉ、フェイントはいいが殺気が漏れてんぜ、ククク」


きょうはどうやらよく殺意のこもった金属音が鳴る日のようです。

まる。

と、ノリ突込み気味のフェイントをかけつつ本日の"ガウァースを叩き斬ろうキャンペーン"を失敗させて唸っていると、アルフォーンさんが本当に本題に入った。


「ああ、そうですね。ついつい話し込みそうになってしまいますが、それは後日でも構わないでしょう。

さてと、皆さん長旅でお疲れのようですし、そろそろお部屋へ案内させていただきたいのですが……


──生憎と、こちらのお部屋の空きには4部屋しか無いものでして。

──部屋割の方は、決まっておいでですか?」


ガタッ。


さっきまで好き勝手やってたやつらの空気が一変した。

……。

あこれアカン奴や


「今回こそっ、私が!!ハークレイとひとつ屋根のっ……しっ……下の監視役に立候補いたしますわよ!!」


「……家族なんだからおにいちゃんとおんなじおへやになるのは道理。よってわたしがこんどはおんなじおへやになる」


「ふ、ふたりとも、落ち着いて、ほら、前回、なんにもなかったことだし、前の宿の部屋割でいいんじゃ、ないかなぁって……い、いや、宿の時みたいに、はくとおんなじへやがいい、とか、そういうことじゃなくって、そのあのうにゅうにゅ」


「むがっ……みぎにどーい、じゃぞ!またご主人と一緒にねたいのじゃえへへー」


「ままままてティノ!!ハイデンベルもなにちょっと何もなかった感出そうとしているんだ在っただろう同……とか抱き……っいや!!とにかく!だ、だダメだダメだそんなの不埒だありえん却下だ却下!!今度こそここはルームメイトだった僕がそんなことが起きないように一緒にっ、あ、いやっいっしょにっていうかなんていうか」


「なんだとニーアちゃんそこのハークレイ君とルームメイトだったのそこんとこkwsk」


「お前は少しだまっとれ愚息が」


「うるせぇ!!うおおおにいいいいあちゅわあああああ」


「ふん!」


「甘いわボケじじい!獅子円礫掌!」


「ふはははは虚け者めが!奥儀、王獅子煉獄破砕拳っ!!」


「しまっどうおおおおおおおおお」


「ほほう、魔法(マジック)のない東方の武術は、いつ見ても素晴らしいな」


「あぁ、おれもこっちのが戦いって感じでしっくりくらぁな……あー帰ってきたんだなぁ」


人がふえてたいへんにぎやかでいらっしゃる。

……んー、獅子の技は豪快だなぁ、ていうか、拳戟がまるで空中に浮かぶ絵みたいにはっきりくっきり見えるわーあれはまともに喰らいたくないけど大会ってあの人たち出るのかなぁやっぱり大トリで出るんだろうなぁ。

人が増えたにも関わらず現存するまともな人類がおれとアルフォーンさんしかいなくなったという状態から、

ついに半ば死を覚悟した老兵の如き視線を向けて逃避する。


「おやおや。みんないつもこうなのかな?」


と、アルフォーンさんがニコニコと聞いてくる。

大使館前でのニーアのお父さん達へのスルースキルといい今回といい、

おやおやなんてゆったり流せるあたり、この人もなかなかに神経の太い人である。

まぁでも確かに、ルリーアも騒ぎに参加する時がほとんどだけどかわすときはすごいうまく安全圏に入るからなぁ。

お父さんに似たんだろうか。


「ええ、まぁ」


「なぜここまで盛り上がったのかはさておき、これでは部屋割なんて話ではないね。ただ、にぎやかでいいことだ」


「そうですかねぇ。結構頻繁に命の危険にさらされますけど」


しれっとまともな空気にふっ飛んできた何かの破片をいなしつつ、ぼやく。


「ははは、やはり苦労はしているようだね。君の話は、娘からよく聞いている。手紙でね」


「え、そうなんですか」


「ああ、むしろ君の話以外はあまり聞かないなぁ。今日はハクと、っていうのが口癖のようでね」


「……いろいろ、聞かれてるんですか」


「ああ、とてもいい関係なようで、父としてうれしいよ」


……まじか、そんな話題にしてたのか、ルリーア。

あぁ、ガウァースの話とかも、ルリーアから聞いてたのもあるのかなぁなんて一部納得したりもしつつ、

話題にされたことに対していろいろとまずいことがあったりなかったりする刺激的な毎日を振り返ってみる。

……うわぁお、言われたくないことしかねぇや。

訂正します。まずいことしかなかったです。

ぼくの人生はまずいです。


「ははは、話通りの面白い子と、お友達だね」


冷や汗と過去の思ひ出を同時にぽろぽろしているおれににこやかに話しかけるアルフォーンさんが一体おれのことをどう思っているのか非常に気になるが聞かないでおこうと思う。

まずいので。

ぼくの人生(今後)が。


「──そんな君だからこそ、ルリーアを助けてくれたんだろうね」


と、そのアルフォーンさんの眼が真剣なものへと変わった。

……あー、やっぱりルリーアから聞いてるんだ、とおれは一転、苦笑してアルフォーンさんを見る。

まぁ、ルリーアみたいなまじめな子に限って、言わない訳ないか。

一応、おれは手を振って先手を打つ。ルリーアの元になったお父さんのことだ、このあとに続く言葉はわかりきっていた。


「あー、ルリーア本人からもらってるし、お礼はもう充分貰いましたから。言わないでください」


「はは、君はそう言う子だろうと思っていたよ。……けれど、それでもだ」


あら、読まれていたようで。

あくまでも真剣に、おれを見据えて視線を外さないアルフォーンさんにまったくどうしたものかと苦笑を苦く深めて考えていると、アルフォーンさんは続けて口を開いた。


「そこで、君に是非渡したいものがある」


そう言って、テーブルの下に置いていたのだろう、やたらと意匠の凝らされた箱を取り出した。

そしてそれを開くと俺に見せるようにこちらへ箱を押した。

中身をみる。

なかには……服?


「1年前に君が防具をなくしてから、新しいものを買わなかったと聞いてね。是非これを渡そうと思ったんだ」


「え」


視線を、箱の中の服と笑うアルフォーンさんを交互に移す。


「……こ、これを、ですか」


思わずこういう反応が出ても仕方がないと思う。なぜなら、箱の中の服は、たとえお礼といっても到底おれがもらっていいような代物に見えなかったから。

吸い込まれるような黒い不思議な生地に青や白の刺繍が模様のようにはりめぐらされている。そしてその刺繍をよくみれば、様々な文字が連なっているのがわかる。

一目でただの飾りではない、魔力付加(エンチャント)だとわかる。それも、だいぶ強力な。

……服レポまでしてつまり何が言いたいかというと。

高い。

絶対に高い。

でもお高いんでしょう?と訊いても、はい!とても貴様ごときが買えないくらいお高いんです!とハツラツと返ってくるレベルで高い。


「い、いやいやいや、さすがにこれは貰えませんよ」


さっきとは別の冷や汗を滝のように流しながら、ずずずー、っと箱を押し返す。こんなものを素直に貰うほど貴族な暮らしはしてないし大物でもないわ。

しかしおれは同時に悟る。

どうせあれだろう。お礼をし過ぎるあのルリーアの、しかも神経半端じゃない太さを誇ってそうなお父さんである、ここから卓球の如く即行で返されて、箱がハイパー反復横飛びするはめになるに違いない。だがしかし負けん。

よし、と覚悟を決めて身構える……が。


「……そうか」


……あれ?と小首を傾げそうなほどに、おれは脱力することになった。なんというか……あっさりすぎて脱力しt


「──私の娘の命は、この服に見合うほどの価値はない、と、そういうことなんだろうかね……はは、は……可愛い、娘なのだけれど……」


「変なとこでナイーブか!!?」


思わず叫んでしまった。

いや。いやいやだっておかしいでしょう?何がどうしてこんな勘繰り方して借金取りに恋人の家宝持ってかれた人みたいなテンションになってるの?さっき物理的に命の危機レベルの漫才を笑顔で流してたあの強い(確信)な笑顔はどこいったの?

もはや何汗かもわからない汗を何処の滝なのか訊きたくなるような勢いでもって滴らせつつ、

おれは必死に返答をする。


「いや違います!!違うけど!!」


「ふ、ふふ、いい。気を使わなくても、いいんだよハークレイ君。こんな布にも、私の娘は釣り合わない、そんな風に育ててしまった事、そしてその事にさえ気づかなかった私が悪いんだ……ああ、ルリーア、本当にすまない……せっかく助けてもらった命を、私が貶めてしまったんだね……」


……これは。

ズウゥン、みたいな音まで付きそうなこの沈み具合のアルフォーンさんを見て、顔がひきつる。

このナイーブぶりはやばい。そして深読みぶりもやばい。海底2万マイルどころか、岩盤ぶち破って惑星の核に特攻かける勢いだ。


──そしてさらに悟る。

これは、もう……言うことはひとつしか無いじゃないか。

オセロ終盤とかで詰んだときって決まったとこしか置けないよね。

あれです。


「わかりました!もらいますいただきますむしろくださいお願いします!」


言った。

言ってしまった。

ああ、もう決定だ。おれはこれからこの高級品を身に纏って生きていかなきゃならないんだ。

「いやぁ、それにしてもカッコいいなぁ!」などと言いながら箱の中をみて、さめざめと嬉し涙を流す。

嬉し涙だ。

嬉し涙なんだ。

そして当然、そんなおれに対して、輝くような笑顔を浮かべた人となるのは。


「ほんとうかい!?いやぁ、うれしいなぁ!ありがとう!ぜひとも使ってくれたまえ!」


……なんていうか。

切り換え、早くないすか。

よく見たら、結構最後の方鼻とかグズグズ言ってたはずなのに、なんか涙の片鱗も見えなくないっすか。………。

笑顔を変えずにこの服のいいところを嬉々として解説し始めたアルフォーンさんを見ながら、おれは確信した。

どうやら、ジパンギルには相当に食えない人がいるようで。いやあ、頼みを聞いてお礼を貰ったのに何故だか敗北感ですよ。


「──さあて、お礼を受け取ってもらったところで、だね」


──と、絶望にうちひしがれるおれなんぞ露知らず。敗北感の主は妙に明るい笑顔で続けた。


「……そろそろ、"彼らの話"にハークレイ君も混ざれ、といわれるんじゃあないかな?」


「「風魔法(ウィンドマジック)!」」


「ぐふう」


もう片方は露知らなくなかったです。

体の内外二重の意味で強烈なデジャヴを物理的に叩き込まれ、アルフォーンさんがものすごい勢いで視界から消えた。


「ハク!お前がいなければ始まらないだろう!」


「あなたは!一体何をぐずぐずしていますのよ!!」


「ハクごめん!で、でもちょっと気になっちゃって早急に教えてほしいことがあるの!」


露知らないどころかいないと始まらなかったらしいです。

後ろでドンパチやってた意味はなんだったのか。

そして予想通り、おれが参加したところで意見が聞かれる訳ではないようで。


「で!!」


「誰がいい(んです)の!?」


「ハークレイ君とやらちょっと俺とニーアちゃんの発育について語りあかs」


「ふんっ!」


「げぼるぁっしゃあ!」


なんというか予想通りの選択問題を突きつけられた。そして+アルファでなんだかとても気になる提案をいただいたが速攻で撃沈された。

……さて。どう返しても正当率は0、刀傷から銃創までの焼けたり凍ったりバラエティ豊かな変死しか待っていませんよ?

そろそろ何らかの汗を絶え間なくながし続けて襟も気持ち悪いし脱水症状も怖くなってきたしまずは落ち着いて水を飲む。


そして、とりあえず探りを。


「がうぁーs」


『却下』


なんでだよ。こういうときって普通男は固めて組まされるだろ。普通に考えよう。みんな一旦学園に戻って忘れてきた大事な常識を取り戻してこよう。な?

……まぁこいつらのうちはじめから常識を持っていた人間はそういなかった気がするが。

不毛すぎた探りで改めて絶望的な状況を懇切丁寧に教えてもらって、おれはさらに必死で考えを巡らせる。

……さぁ、誰だ?

誰をえらぶことが一番生存率の高い道だ?


まずルリーアとティノはダメだろう。宿屋での事がある。銃創と刀傷で凍傷と大火傷を1度に味わうのは2回の人生に1度だけでいい。


ニーアもやはりまずい。1番良い奴なのに1番実績が積み上がってるし。その上に今回は、あのパワフル変態お父様がもれなくセットでついてくる。

生きた心地がしない。


学園長。

論外。


セルティニア。

論外。

論外。


「リリスで」


銃創だけは減った。


はじめまして!じむです

ついにジパンギルに災難をボコボコ受けながら無事なんてジパンギルジョークでも言えないけどとりあえず到着。任務完了のハークレイ一行。

さてさてこちらの滞在中の武芸大会やらなんやら、どうなるでしょうね?

では次回!

………いつでしょうね。


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