46:傭兵団に酒と元隊長はわるいらしい
サイド:ハク
「「「かぁんぱーい!!」」」
カランカランと、グラスとグラスがぶつかる音が弾ける。
現在、おれ達はフージ村というジパンギルへの街道にある村の宿屋で大量に買った酒を手に、
ガウァースの馬車で移動しながらギルズレイド傭兵団の皆さんと宴会をしていた。
馬車の壁にはいつの間にか用意されていた垂れ幕に"隊長ご一行おもてなし会"なんていう文字が。
……垂れ幕いつ用意したんですかとか、
、
こういうのって普通ジパンギルについたらやるもんじゃないんですかとか、
この世界に酒気帯び運転は無いんですかとか色々考えが浮かんだりもするが、
せっかくのガウァースと傭兵団の再会なんだし、そういうのも野暮かと思って諦める。
「へぇ、君達はデウィーネ魔法学園のエリート君達なんだぁ」
と、傭兵団の女性が酒を舐めながら身を乗り出して聞いてくる。
この人はシーナリー・マースさん。
先程馬車に大声で手を振っていた女性だ。
ちなみにビースタクトで、ひょこひょこと揺れる長い耳からしてウサギらしい。
「シーナっ呼んでね」という彼女に、 ニーアが謙遜するように手を振って否定する。
「いえ、そういう訳じゃ。まだまだ若輩者で……」
「いやいや、すげぇと思うぞ?厳戒体制だっけか、それで無法地帯になった街道を、隊長のあのクソデカイのとはいえ馬車1つで来てるんだからな」
そんなニーアとおれ達を称えるように、シーナさんの横で男性が首を振った。
ソルド・ヤードさん。こっちも傭兵団の一員で、正門前で出迎えにきてくれた人だ。
この人はオオカミのようで、髭にとがった耳がある。
「うん、ソルの言う通り。その若さで街道中の悪党の群れを突破して来た腕は誇っていいと思う」
ソルドさんに重ねるように同意して誉めてくれたのはランツ・クーネさん。
優しげな顔つきと言葉遣いの、タレ耳犬を持つビースタクトの長身男性だ。
この3人がフージ村の前で待ってくれていた傭兵団員の方々で、残りはジパンギルに残してきたらしい。
聞けばこの三人、傭兵団員の中でも古株の、幹部みたいな立場なんだとか。
「……え、あ、その、ありがとうございます……」
だからか、ニーアが余計に萎縮しているように見える。
まぁおれみたいに傭兵団のことなんてハイパー初耳人間の俺ならともかく、
ずっとジパンギルの憧れとしていたニーアにとっちゃいきなり団長幹部と乾杯しながら誉められてるんだから無理もないか。
そんなニーアに助け船を出すべく、おれは幹部の3人に質問をする。
「皆さんガウァースがいた頃からの団員なんですか?」
「おう、その通り」
おれの質問にソルドさんが頷いて、他の2人と御者台でインフォムさんと乾杯しているガウァースを見ながら話してくれる。
「そんときは幹部なんて無くってさ、隊長と団長のツートップでやってたんだぜ。隊長がいなくなってからてんやわんやで、慌てて古株だった俺たちが急遽穴埋め要員に、って感じさ」
「へぇ……」
そんなエピソードを聞いて、ルリーアがチラリとガウァースを見る。
そんなに大きい存在だったと知ったからか、なんだか尊敬じみた視線である。
……まぁ、今までのダメおっさんぶりを見るに、そんな様子ミジンコ程度もなかったからなぁ。
「まあ、あれだ。隊長の存在が消えた今、おれたちが傭兵団を支える三本の矢になってるってわけさ」
ソルドさんが自慢げに胸を張る。
「ほぉ、それでお前らそんなに偉くなったんだなぁ」
と、当のガウァースがジョッキを二本持って現れた。
……わぁ、ソルドさん青くなってる。
この人も偉大な隊長さんの被害者なんだなぁと一瞬でわかった。
見ると、さっきまで一緒に話してたインフォムさんが「うひゃあああ」とか「うおあああああ」とか「助……のわあああああ」とかいいながら必死で馬車の手綱を握っている。
……へ、へー、どうやらほんとに飲酒運転の概念はないらしいね。初耳ー。
……念のため脱出できるように強化魔法かけておこう。
「まだお前らがガキんちょ新兵の頃はDランク程度の任務ひとつでガッチガチに緊張してたんだけどなぁ」
「う……そ、そりゃでも新兵ならだれでもあることですし」
と、ひそかにもしもに備えている間にもこっちはなんだか盛り上がっている。
「まぁ、そうなんだけどよ?いやぁ感慨深くってなぁ、何だっけか、新兵の頃の先輩たちに言われてたあだ名」
「ちょ、た、隊長」
「"はなたれソル坊""へっぴりランツ""お漏らしシーナ"」
「「「ああああああああああ!!??」」」
……うわぁ。
来て早々さっそく言いたい放題だよ、とんだ暴露大会だよ。
ニーアとルリーアもなんだか微妙な顔してるし。
そりゃ憧れの先輩方の恥ずかしい黒歴史を暴露されたらどんな反応すりゃいいのかわかんないわ。
「隊長!!なんでそういうこと子どもたちの前で言っちゃうんですか!!?あああもう絶対ひかれるじゃないですかこれ、ってああああ違うの違うのおも……って別にそんなちょびっとだけでってこれ墓穴ほった!?いやああ違うの違うの……!!!」
特にシーナさんの荒れっぷりが半端じゃない。
弁解もちょっと暴露気味に墓穴を掘りまくっていて、聞いてるこっちがだんだん恥ずかしくなってくる。
そんなシーナさんがとうとう羞恥心と自爆に負けて顔を覆う様を見て、ガウァースは爆笑しているわけだが。
……さっき、いままでのダメおやじぶり、とか言ったが、軽く訂正しよう。
現在進行形である。
「ふふん、なかなか愉快なお仲間のようだな?ロックボーン?」
「おうともよ」
厄介なことに1人ワインを楽しんでいた学園長まで参加する始末。
うわぁこれシーナさん、いじられ過ぎて昇天するんじゃないか。
恥ずか死って本当にあるんだろうかなんてどうでもいい考えが頭をよぎったりしつつ、とりあえず黙とうをささげる。
ポンポン。
「ふぇ?」
「……だいじょーぶじゃ、妾もたまにあぶないときがある」
「うわあああああああああんこんなちいさいこにまでええぇえぇぇえぇえ!!!!もうお嫁にいけないよおおおおおおおおおおおお!!!!」
あ、食料も底を尽きたらしい。
地獄絵図である。
――と。
「みんなあああああああ!!!」
御者台の方から声がした。
その声に、その場の地獄絵図のしせんがそちらに向いた。
シーナさん以外。
その視線の先には。
「ついた、ぞおおおおお!!あれが、ジパン、ぎうわあああああああああおおおおおおおぉぉぉ!!!!」
もう御者台に足がついてないインフォムさんの前方に、目的地が見えた。
お久しぶりですじむです!
え、や、やだなぁみなさん、覚えていませんか?
え、あの、いえ、人違いでしたごめんなさい……。
というわけで、投稿ペースはもう諦めることにして、これからも気長にお待ちいただけると幸いでございます。
……あの、頑張るから、ほんとに忘れたり、しないでくださいね……?