44:さっそうと現れるヒーローはかっこいい。ただしイケメンに限る。
サイド:ハク
おれたちがトーアルを出てから5日、旅は順調なペースだった。
……山賊とモンスターの出現率が。
いやね、ほんとに多い。
山賊を1人見たと思ったら5秒で30人に増えるくらい多い。
まぁ理由はやはり前回と同じ、厳戒態勢だと思われる。
単に行商人なとがいないからという理由だけでなく、
冒険者や騎士団の人々も出入りを禁じられているため、
そういう輩を退治する人間がいないということもある。
さらにこの地方で獲物がないと悟ってジパンギルに向けておれ達と同じように移動している奴らもいるんだから、
鉢合わせ率が半端じゃないのは仕方がない。
……とは、わかっているんですけどね、うん。
「……こんなことってあるでしょうか」
「かつてない楽しい事態だなこれは」
馬車に乗ったままおれが呆然と呟き、学園長が突っ込みどころ満載な声を上げる。
ツクモ村を通り過ぎて、おれの故郷、シーウォールへの道をつなぐ街道の大きな広間のような街道分岐点。
――そこに、100人単位の盗賊団や山賊団が、いた。
……いやーあれだね。
一年前くらいにこんなの見た気がするね。
あの時もこのメンバーだったっけ、いや―懐かしい懐かしい。
はっはっは。
いやー思い出に浸っちゃうね、浸りすぎてもう正気に戻りたくなくなるねーなんて、ははっ。
……。
…………コホン。
さて。
どうやらあれはあの人数で1団というわけではなく、
複数の団体が一度にこの分岐点まで来たもののようだ。
ところどころで睨みあっているような様子からもそれがうかがえる。
ていうか雰囲気が全力で荒み濃縮100%です。
ただ、違う団が集まって中が最悪なこの状況でも。
「テメェ等、他の団なんかにかすめ取られんじゃねぇぞ!久々の獲物なんだからな!」
「おうおう野郎共、獲物ばらしたらうちの連中以外は殺してもかまわん!盗めるもん全部かっさらえ!」
「とりあえずここらの奴ら全員血祭りだゴルァ!」
標的は獲物に絞ったようで。
「おいそこの家族一派ぁ!金目のモンと食糧と女をおいていけ!」
「血祭りだゴルァ!」
山賊連合(仮)を代表して男が叫ぶ。
見慣れた光景でも規模がおかしいと見なれなさすぎる。
いうなればいつも見てる湯船がそのまんま25メートルプールになった感じに近いかもしれない。
絶対に泳ぎたくないけど。
あとどんだけ血祭りにしたいんだ、そこの出刃包丁引っさげたおっさん。
と。
「……家族は、私とおにいちゃんのみでは」
「そこに食いつくのかリリス」
「むぅ……妾はいちおーこんやくしゃなのじゃぞ?もうかぞくもどーぜんというやつなのじゃ!」
「もう一年間聞いてるけど婚約破棄の仕方ってありませんか」
「わ、私こそ家族ではないけど、フォーチュン・デザイアの初期メンバーだからなんていうか、ある意味ふぁ、ファミリーっていうか……だもん」
「落ち着けルリーア、パーティーとファミリーはだいぶ違う。いろいろな事がいろいろな意味で違う」
「……そういえば僕とフェローニアと学園長以外、全員パーティーだったんだな」
「おう、そういえばニーアも一応ギルドには入ってるんだったな。もしよかったら入るか?フォーチュン・デザイア」
「……べ、別に僕はかまわないが」
「そうか、じゃージパンギルに着いたらだな。よろしく」
「……よ、よろしく……(グッ)」
「ん、どうしたニーア、握りこぶしなんかぐふぅ」
「ちょっとハークレイ!私に話を振らないとはどういう了見ですの打ち首志願ですの!?」
「うん、お前の握りこぶしは大体予想がついてた。けどなんだ?お前も入りたいのか?」
「え……ま、まぁ?貴方がどうしてもというのであれば」
「じゃ、いいや」
「入ってやりますわよ!!?」
「落ち着けってロッド向けてとか半強制じゃね」
「聞いてんのかお前ら!?」
そして続けて突っ込みを頂いた。
さすがに現実逃避はできなかったことに溜息をつきつつ、
おれは目の前の本題を直視することに。
後ろで「え、ちょ、ワタシのボケターンは?」とか聞こえるが気にしない。
目の前を向いてみると盗賊連合(仮)の代表がこちらにナイフを突き付けたまま威嚇していた。
その威圧感と圧倒的な物量を確認して、おれは一言、返す。
「聞いてませんでした」
「きいとけよ!?有り金な!?女な!?」
「だってもう、盗賊とか山賊ってそればっかじゃん、挨拶もしないでRPGみたいに突然襲い掛かって定型文で「有り金と女おいてけ」しか言わないじゃん」
「そういうもんなんだよ!世界共通だよ!」
ジト目で返すおれに対して、連合男は力強く突っ込みをくれた。
ああ、自分以外の突っ込みを聞いたのはどれだけ久しぶりだろう。
もう2、3年聞いてない気がする。自分以外の突っ込みを受けるってこんな気分だったんだなぁ。ボケって気楽だなぁ。
まぁ、冗談はさておいて。
「いやだって言ったら?」
おれはまだギャーギャーうるさい山賊連合に一言質問を繰り出す。
このままでは次のジパンギルへの旅路に戻るまでに日が暮れてしまう。
あとはさすがにこれ以上ボケに浸ってたら戻りたくなくなりそうだったので。
すると突っ込みの嵐はぴたりとなりをひそめた。
代わりに険悪な空気が漂い始める。
「そうなりゃ殺して奪うだけだ。助かりたいか死にたいか、どっちだ?」
さっきの男が突っ込みとは比較にならないほど剣呑な声で言ってくる。
同時に、ぞろぞろと後ろの山賊連中が動き始めた。
剣、ダガ―、斧、槍、弓、ありとあらゆる武器を構え、逃がすことを許さない顔でぐるりと馬車を取り囲む。
そして一言。
「さぁ、どうする?」
……まぁ、数が多くてもやることは変わらないか。
そんな考えを浮かべつつ、とりあえずおれは馬車の御者に声をかける。
「どうします?せんせー」
「そうだなぁ、このままじゃ先に進めんよなぁ」
ガウァースはおれの質問に答えつつ、ぐるりと取り囲む山賊連合を見まわして、言う。
「このまま、こいつらを叩きのめして堂々と、ってのはどうだ?」
そしてニヤリとして提案をこちらに投げてきた。
それを聞いたおれは、今度は後ろに目配せをする。
「……だってさ」
それだけ言って反応をうながしてみると、楽しそうに笑う学園長をはじめとした全員が各々の反応を示した。
ショートソードを手に取るニーア。
特異魔法で召喚術の構えを始めるティノ。
ワンドを構えるルリーア。
そしてそれを代表するように、セルティニアが口を開いた。
「悪くありませんわね、豪快で」
そこまで聞いて、おれは呆れたように笑う。
そして、剣を手にとって、馬車の前方を睨みつけた。
「けれど、」
山賊連合は、そんなおれ達を見て、驚きの空気を見せた。
が、それも一瞬。
さすがは規模が違うというか、前回のように取り乱したままではなく、
次の瞬間にはさらに包囲を狭めて臨戦態勢を整える。
緊張感が高まっていく。
そして。
『逃げよう』
馬車が、爆発的な勢いで発進した。
馬車はそのまま、山賊を無視して駆け抜ける。
包囲網を突破してもなお、走り続ける。
「……え?」
連合のなかからそんなつぶやきが聞こえようとも、走り続けた。
無理だもん!
トーアルからツクモ、ツクモからここまで散々いろんなもん退治してきて満身創痍なんだよ!
なのにここにきて100人単位とか体力的にも精神的にも無理だもん!
真っ向勝負かと思った?残念!してたまるか!
してたまりますかぁぁ!!
※以下、カオス過ぎて手に余るので会話のみでお楽しみください。
「飛ばせガウァース!」
「チェイスか、良いねぇ!」
「先生、喜んでいる場合じゃありませんっ」
「なにを言うヘイム、新鮮で楽しいじゃないか」
「学園長までっ……うぷ」
「え、お、おおおおいヘイム、おまえまさか酔ってる?酔ってるのか?あああ待て待て待てそのままこっちに来るなさっきボケられなかったからといってこんな体を張ったボケはいらなおおおお!?」
「ががががたがたゆれるのじゃじゃじゃじゃ」
「ティノちゃん!?大丈夫!?」
「ルリーアさん!ティノちゃんを抱きかかえますわ!このまま床に座らせると小さいからだがバネのごとく飛んでいきますわよ!?」
「なななななんかくrうpおrrrrrr」
「「いやあああああ!?」」
「……盗賊たちが追いかけてきた」
と、リリスの言葉でおれは後ろを確認していたリリスの方を見る。
全力で馬鹿なやり取りをしているこの瞬間にも、連合は盗んだ馬車で追いかけていらっしゃったらしい。
後ろを見ると荷台を切り捨てて馬だけになった相当な数の盗賊や山賊が来ていた。
半数以上が減ったあたり、残りは荷物の見張りで残ったようだ。
え、それにしても馬多くね?
なんで20頭とか馬がいるの?
1団1馬車、馬車1台3頭として、7個くらい山賊グループがいたってことなの?
馬鹿なの?死ぬの?
「クソ、さすがに馬だけだとこっちより少し早いな」
距離は少しずつ縮まってきている。
「時間稼ぎはできそうか?」
縮む距離に内心焦りつつ、おれはリリスに聞いてみる。
リリスは少し考えた後、言った。
「撃つなら」
「……死なないか?」
「そのときは因果応報」
お母さん、お父さん。
ぼくの妹が、ヤバいです。
とまぁ、そんなことも言ってられないので、おれはリリスに1つだけ条件を出してOKを出すことにする。
「威力最低設定で撃て。時間稼ぎがメインだ」
「わかった」
幸いにもリリスはこれを承諾してくれた。
お母さん、お父さん。
ぼくの妹はやっぱり、多分大丈夫です。
リリスが馬車の荷台の後ろを開ける。
強風がリリスの髪をかき上げた。
「銃口変更、連射」
次の瞬間には、強風に負けない銃声が響き渡った。
数瞬遅れて、盗賊たちの馬のスピードが目に見えて落ちる。
魔素機関中を持っていることが予想外だったんだろう、
相当あわてて馬をなだめている。
リリスもうまく外しているようだ。
ぼくの妹は大丈夫でした。きっぱり。
このままいけば余裕で振り切れる。
が。
突如、振動が馬車に襲いかかった。
「きゃっ……!」
リリスの身体が大きくよろめく。
おれはあわててリリスの手を掴んで、放り出されるのを阻止する。
「大丈夫か?」
「……大丈夫。ありがとうおにいちゃん」
リリスの様子に安堵してから、状況を確認するべく御者台を見る。
どうやら、馬車が岩か何かを踏んだようだ。
ガウァースが舌打ちしている。
と、こちらの馬車のスピードがガクンと落ちた。
「まずいな」
スピードが落ちるのを感じながら、おれはまた視線を後ろに戻す。
銃弾がやんで勢いづいたのか、体勢を立て直した山賊達がガッツリ追いかけ始めていた。
さっきと一転、スピードはだいぶ不利になった。
リリスが腕に収まったまま魔素機関中を連射するが、揺れる馬車の中のためまるで見当違いの方へ銃弾は飛んでいく。
このままじゃ囲まれるだろう。
こうなればおれが特攻して時間を稼ぐか、なんて荒っぽいことをやけくそで考え始める。
その時、おれ達の馬車を何かが通り過ぎて行った。
馬車の後ろからではなく、前から。
「え?」
おれが間抜けな声を上げ、リリスが目を見張ってそれを見る。
前方から飛んできた影は、そのまま馬車の後方の山賊達の馬に突撃していき……。
馬から山賊が消えた。
「は?」
「え?」
ルリーアとセルティニアが声を漏らす。
馬が、とまった。
突然の事態にガウァースも馬車を止め、後ろにやってくる。
全員が立ちつくす馬を呆然と眺める中。
馬の後ろから1人の男が出てきた。
その男は右手に長い何かをを持って、左手に縛りあげた山賊達をずるずると引きずっている。
そしておれ達の方に近づいてきた。
呆然と立ち尽くすおれ達に、ゆっくりと歩いてくる。
と。
ガウァースが一言漏らした。
「お前……」
ガウァースの声に、男はこちらを見て笑顔を見せた。
「やっぱりガウァースか。こんなでけぇ図体と馬車はお前しかいねぇと思ったぜ」
からかうようなそんな言葉に、おれ達は思わず構えを緩めた。
ガウァースを見ると、ガウァースは驚いた顔のまま男に訊ねた。
「フォムか?」
その顔が喜びに変わっていくのを、おれ達は自体が飲み込めないまま見ていた。
お久しぶりですじむです。
なんとまぁ更新の遅いこと遅いこと。
このまま月刊ペースにしてしまおうかと考えております。
おいやめろ。
さて、今回出てきたフォムさん。
なにやらガウァさんとお知り合いのようですが一体?
次回も気長にお待ちいただけると幸いです。