40:突然の旅立ちはやっぱり結構突然に
サイド:ハク
リリスはちょっと前にデウィーネ魔法学園の新入生として入学し、
1年うえのおれたちの特進魔法科パーティーに入った。
手紙でおれが学園にいることを伝えたところリリスも興味がわいたらしく、
学園に入学するためにデウィーネにやって来たのだ。
そして入学式で学園長がリリスを発見、
魔素機関の最先端武器である銃に目をつけて特進魔法科に入れ、
さらにおれの妹であることを知り「こいつは面白い」と何が面白いのかは知らないけどとにかく喜んでおれたちの特進魔法科パーティーに入れたんだそうな。
おれと再会したときリリスは相変わらず無表情だったが、
それでもストレートな金髪を若干弾ませながらおれの胸元にトテトテと収まりに来てくれた辺り、再会を喜んでくれたようだ。
おれはそんな可愛い妹相手に相当全身で喜んだが。
ただ、リリスがおれたちのパーティーメンバーと顔を会わせた瞬間の第一声が。
「……お兄ちゃん以外、みんなかわいい女の子」
……という、なんか普通にただの事実のはずなのに何故か責められているような、
何にも悪いことしてないのに何故か謝りたくなってくるような、
そんな台詞だったのだが。
このあとなんだか不機嫌になったリリスを懐柔するのに結構かかったりしたが、
今となってはいい思い出である。
ちなみに、リリスの機関銃も拳銃もおれのアドバイス通りヤクザオヤジからもらった精鋭武器らしい。
魔素機関銃とはその名の通り、
魔素機関を搭載し、魔力を弾丸に特化させ放つ銃だ。
魔力を流すと銃口がイマジン通りに変更され、
マシンガンのような連射からショットガンのような散発まで多彩な攻撃ができる。
銃口をイマジン通り変更すれば発射した弾に込めた魔法をグレネードよろしく発動させることまでできるんだから、
割とチート級の強さだったりもする。
ただ、そんな最先端技術の塊を3つも持っていかれたのはオヤジにとって手痛い出費だったらしく、
リリスにこれを渡したとき「銃でハークレイのボウズに一発よろしく」とか言ってやがったとのこと。
実際、おれは律儀に頼みを聞いているリリスと模擬戦をするたびに、毎回本気の魔法弾の嵐に見舞われている。
銃の威力を非殺傷レベルに落としているため死んだり怪我をおったりはしないものの、
当たったら痺れてしばらく動かせない威力くらいはあるため毎回おれも必死である。
ちょっと話がそれた気がするが、こういうわけで、
リリアルス・ウィンスはおれたちと共にデウィーネ魔法学園で鍛練に励んでいるわけである。
さて、そんなリリスとおれは今現在、
急用で呼ばれた学園長室に向かって中庭の柱が立ち並ぶ通路を歩いていた。
「急用って話らしいけど、なんかあるのか?」
「……わからない。でも大事な話、ともきいた」
リリスにも心当たりはないらしい。
実はニーアもおれも、なぜ呼ばれたのかは聞いていないのだ。
ちなみにティノは言うまでもなく知らない。
聞いててもきっと覚えちゃいないだろうし。
おれはため息をついてぼやいた。
「全く、学園長も何についてかくらい言ってくれってんだよな」
「……学園長先生は、大事な話だから呼んでから話そうと思ったのかも」
「かもなぁ」
リリスのフォローを聞きつつ、おれは内心で否定していた。
なぜならこの間、学園長室に呼ばれて、
着いたとたん凄い剣幕で詰め寄られてなにかと思ったら
「ティノの大食いを利用して大会にでも出させて賞金狙いたいんだが主であるお前から言っておいてくれないか」
とかいう一周回ってこっちが死にたくなるほどどうでもいい事だった、
ということがあったからだったり。
まぁ今回はさすがにパーティーメンバー全員を呼んだわけだし、それなりに重要なことだろう。
「……お兄ちゃん、なにかした?」
……だというのに我が妹は、
割りと本気の目でおれがなにかしたのか聞いてきた。
……あっれー、どういうことだろうな?
おれはリリスの目に顔をひきつらせながら、
とりあえず無罪であることをアピールする。
「いや、全員を呼んだわけだし、誰かがどうこう、って訳じゃないんじゃないか?最近はおれも何にもなかったし」
言葉通り、おれはここ数週間、
トラブルには全く巻き込まれていない。
そのせいで嵐の前の云々とかじみに懸念していた怖いことを言われたりもしたが、その"嵐"も今のところ皆無だ。
だから今回呼ばれたのはきっとおれじゃない。
ハズ。
……しかし、おれが「最近は何にもなかった」といった瞬間、
リリスの目が細くなった。
その目はハッキリ「お前よくそんな事言えるなおい」というリリスの感情を物語っていた。
そして、それに続くように一言。
「……ニーアせんぱいとお風呂でバッt」
「すまん、結構色々あったな。うん色々あったわごめんなさい」
瞬間接着剤張りに即行で己の認識が間違っていたことに気づいた。
……一応弁解しておくが、決してわざとじゃない。
ニーアとの生活では普段ノックしてから入る習慣をつけていたのだが、
その時は鍛練から帰ったらテーブルの上に「買い物にいく」とメモがおいてあって、
てっきりいないもんだと思ってシャワーを浴びにいったらまさかの出掛ける前にシャワーを浴びていたニーアと鉢合わせしたのであるから、そりゃあもう決してわざとじゃない。
わざとじゃないのである。
それでもとりあえず頭を下げるおれに、
リリスはため息をついて前を向いた。
どうやら許してくれたようで、おれはホッと安堵した。
……と。
「──あ、ハク!」
不意に横から声がして、おれは顔をあげてそちらを見た。
そこには2階へと続いている階段があって、今おれはこんなところで頭を下げていたのかと思うとちょっと恥ずかしくなったりもする。
そんなおれの視線の先に繰り広げられているのは。
「……て、わ、ひゃあ!」
……親方ぁ、けっこう上から女の子がぁ!と叫びたくなるような、
まぁつまりおれの上に自由落下してきている美少女という光景だった。
……ぶっちゃけ踏み外しただけだよねうん、とか呑気に思ったそのゼロコンマ数秒後。
「どぅおっ」
なんて間抜けな声をあげて、おれは美少女の下敷きとなった。
ゴツ。
後頭部に鈍い音が響き渡る。
が、美少女を受け止めるまでにはさすがに間に合わなかったものの、
後頭部がダメージを受ける時には届いていた魔力が瞬時に頭を強化、
たいした痛みもなく割と無事で済んだ。
「ご、ごめんね?大丈夫?」
美少女が謝ってくる。
おれはダメージの無いことを示すようにひょいと美少女ごと体を起き上げて口を開いた。
「全然。魔法も間に合ったし。そっちこそ大丈夫か、ルリーア」
質問された落下系美少女……ルリーアは、首をたてに降って答えてくれた。
おれはそんなルリーアによかったよかったと笑いかけ、
念のためどこか怪我しちゃいないかルリーアを見る。
言葉通り、怪我はなさそうだった。
……にしても、まぁ。
一年前と比べると、ルリーアも大分変わった気がする。
少し伸びたセミロングの金髪、くりっとした赤茶の目も少し大人びた。
サイドテールの結びが下に降りたのも大人びた雰囲気を手助けしているのだろうか。
魔法使い用のローブも青と白のドレスのようなものに買い替えて、
そういえばティノとお揃いにしたって喜んでたっけなー、とか色々思い出す。
そんな美少女がおれの目の前にいるわけで。
いつの間にか怪我探し目的じゃなくまじまじとみていたことにふと気づく。
「……ハク?どうしたの?やっぱりどこか打った?」
と、そんなおれにルリーアから心配そうな声が。
おれは慌てて手を振る。
「あーいや、何でもない。いや、怪我がないんならよかった」
「ハクが受け止めてくれたからだよ。ありがと」
おれの言葉に、ルリーアは微笑んでお礼を言ってくる。
その笑顔を向けられ、なんだか照れ臭くなっておれはなにか言おうと
「……こんにちは、ルリーアせんぱい」
したところで、なんだかとっても不機嫌そうな声が。
声の方をみると、リリスが声の通り不機嫌そうにむくれた顔でおれたちを見ていた。
……なんでそんなに不機嫌なんだ?
疑問が頭をよぎり、そう尋ねようと口を開く。
しかし口から声としてその疑問が出る前に、おれは今の状況を把握した。
……リリス(不機嫌)の目線の先→階段の下の廊下のど真ん中で膝に乗っかったルリーアと乗っけてるおれ(至近距離)。
……こいつは。色々とアウトだった。
ルリーアもそれに気がついたようで。
「わ、悪いっ!」
「!わ、わっ、ごめんっ!」
2人同時にばばっと離れた。
まぁ廊下のど真ん中で2人してずっと座り込んでたらリリスも怒るわな。
ちょっとのけ者にしちゃってたし。
ルリーアも顔をリンゴ張りに赤くしている辺り、
膝の上に座ってるのが恥ずかしかったんだろう。
悪いことしちゃったなー、なんて思いつつ、
のけ者扱いになってしまったリリスにも謝罪する。
「リリスも悪いな」
「……別に、いいけど……」
リリスはちょっと頬を膨らませていたものの、一応許してくれた。
……まぁこんなちょっとしたハプニングもあったけどとりあえず、
気を取り直して。
おれたちは改めてルリーアを含めて3人で学園長室に向かった。
向かっている途中、一応ルリーアにもなにか知らないか訊いてみたが、
ルリーアもなぜ呼ばれたのかは知らないようだった。
……本当になんなんだろうな?全員よんどいてこれだけの人数に内容言わないって。
なんかとってもサプライズなイベントが待ってたりするのだろうか。
ならば内容を言わないのも納得できるが、まずサプライズをしないでほしい。
大抵サプライズは下らないか危ないかの2択なので。
まぁ、なんにせよ半数以上に言ってないってことは、メンバー全員に言っていないという解釈で大丈夫だろう。
あの学園長の事だからどちらでもありえるけど、
これで大食い並みにどーでもいいアレだったら抜剣して襲いかかってもいいと思う。
どうでもよすぎて死にたくなる前に殺ろうぜ。
勝てる気がしないけど。
そんなことを考えつつもそのまま特に何事もなく廊下を歩き続け、
やがて廊下の少し先に目的地が見えてきた。
学園長室、と書かれたプレートがぶら下がっているドアだ。
「よし、着いたな」
おれが学園長室のドアプレートを見て、確認するように呟く。
「何がよし、ですのよ」
真っ先に、背後から怒った声が投げつけられた。
聞こえた声に驚いて振り返る。
そこには。
「全く、レディを3人も待たせるなんてどういう了見ですのハークレイ」
「まだ集合時間前だが、確かに少し遅い」
「ご主人!常にじゅぷんまえこーどー、じゃぞ?」
柱に身を預け、腕を組んで相変わらず理不尽に怒るセルティニア、
時計を見て冷静に言うニーア、
無邪気に笑って得意気なティノ。
一回り大きくなった残りの特進魔法科メンバー全員が揃い踏みだった。
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さて。
「お前らも呼ばれた理由、聞いてないよな?」
「逆にこちらがうかがいたいくらいですわ」
おれはため息をつく。
「本当に全員に言ってないのか、あの人……」
ぶっちゃけある程度結果は見えてた気がしなくもないが。
まぁ、ここで愚痴ってもしょうがない。
「じゃ、直接聞きますか」
「それが賢明、だな」
おれが呟き、ニーアが頷く。
全員に目配せしてから、おれはドアをノックした。
目配せの意味は、「ノックした瞬間ドアが爆破したりする」系統のどっきり対策に身構えさせるため、
というのはもうここでは日常茶飯事だったりする。
色々と突っ込みたい気持ちもわかるがそこはそっとしておいていただきたい。
木の板を叩く音を2つ。
爆破はなかった。
代わりに答える声が聞こえた。
「遅い、いつまでそこで話している。私の登場意欲がなくなるだろうが」
「あんたが用件を先に話しておかないからでしょーが」
声にマジトーンで突っ込みながら、おれはドアを開けて学園長室に入った。
学園長室のなかに入ると、いつも通りの不敵な笑みが出迎えた。
笑みの主……デウィーネ魔法学園、
ウィーネル現学園長は笑みを崩さずにパンパンと拍手をする。
「ふふん、流石は私の教え子だな、"ビックリドア"を警戒する時の構えに隙がない」
「せめてもう少しマシなことに力を入れてとりくんでください」
そんな言葉に脱力しつつ呆れて返す。
「ククク、やめとけやめとけ。我らが学園長さまに、説得なんて無駄だぜ?まぁ、わかりきってんだけどな」
横からの声に、さらに脱力して諦めることになったが。
声の主はそんなおれを見て喉の奥でクツクツ笑いながら、
体を預けていた棚から立ち上がった。
学園長とそれほど変わらない悪役じみた笑みを浮かべて、
ガウァース・ロックボーンはおれの肩に手を回す。
……うぜぇ。あと重ぇ。
「あれ、ガウァースも呼ばれたの?」
ルリーアが不思議そうな声をあげる。
ガウァースは首をたてに振った。
「おう、呼ばれたぜ。用件は聞いちゃいねぇがな」
ガウァースはそう言うと、「さて、」とおれの肩に肘をのせて学園長を見た。
ちなみにおれは軽い強化をかけておく。
こいつの体重はおそらくリンゴ(をたっぷり積んだ軽馬車)3個分くらいの重さなので。
「……で、ウィーネル。全員揃ったことだし、そろそろ用件を伝えようぜ?」
学園長に話をするように促す。
ガウァースも呼ばれたと言うことは、
この話はおそらくガウァースも関係があると言うことなのだろう。
学園長はガウァースの言葉に頷く。
「ああ、そうだな。よし、お前らを呼んだのは他でもない」
なにやらお決まりの台詞でようやく本題に入った。
「まあ簡単に言うとだな
──お前らとワタシはこれから、ジパンギルにいくことになった。支度しとけよ以上!」
そして終了した。
なるほど。
「まてこら」
「ん?質問かハークレイ?ヴァヴァナはおやつにはいるぞ?」
ヴァヴァナとはもとの世界で言うバナナである。触感見た目はもろバナナ、栄養価が非常に高い。激しい運動の前後、長旅にオススメ。なるほどおやつかそれは良かった。
このやろう。
「疑問だらけだよ!なんd「ヴァヴァn」経緯な!経緯を話そうぜ!?台詞に食い込んでまでヴァヴァナトークすんなよ!」
「ああなんだ、経緯か。てっきりヴァヴァナなぜなにコーナーかと思ったぞ全く」
学園長の唐突かつ異常なヴァヴァナ推しを食い止めてつっこむおれの姿はさぞかし全力でありましょうぞ。
みっともないことこの上ないとかは考えないでいただきたい。
学園長はそんなおれが脱力するのを横目に満足そうな顔を浮かべる。
「嬉しそうな顔しちゃってなぁ、ハークレイ?」
「誰がだよこのやろう……」
「ふふん、もうお腹一杯か少食め。肉を食え肉を」
もう大分ついていけない発言をしてにやにやしていた学園長のうざレベルは軽く万人の臨海点を突破するだろう。
……実はそれからも色々と突っ込まなければいけない場面が延々と続いたが、
学園長が本題に入ってくれるまで割愛。
「まぁ、お前らがジパンギルに行かなければならなくなった経緯だが」
ようやくテーブルについて本題に戻ると、学園長はすっと目を細めた。
そして続けて放たれた言葉は、割りと衝撃的なものだった。
「この1年間なんの音沙汰もなかったダステートの連中が シーウォールとデウィーネ間で目撃されたと情報がに寄せられた」
「!」
おれたちの顔が強張る。
1年前、おれたちが巻き込まれ、
ヴァラーとベルセルドの陰謀をなんとか阻止して撤退させたダステート帝国のデモンタクト達。
そいつらがまた、山を越えてこちらにやって来たということだろうか。
もしくは別に動いていた残党か。
前者ならばどうやって侵入したのかはわからないが、
あの特徴的な見た目ならば目撃情報は間違いないだろう。
「そいつらが目撃されたのは数日前の事で、すぐに騎士団が捜索した……だが」
続けた学園長はテーブルに敷かれた地図に指を伸ばす。
「デウィーネからシーウォール間まで捜索した騎士団が発見したものはすべて野宿跡、そしてそれらはすべて目撃された日から更に数日前のものだった、と言うことだ」
「ってことは、もうこっちの街道方面にはいねぇ可能性が高い……ってことか?」
ガウァースが顎を撫でながら眉を潜める。
学園長は頷いた。
「その可能性は高いだろう」
「じゃあ、私たちがいく必要はないんじゃないですか?騎士団の方々がジパンギルに警戒するように呼び掛けて……」
ルリーアがもっともな事を口にする。
デウィーネからシーウォールの間ににいないのであれば、
騎士団が外への警戒体制を敷いてジパンギルに警戒要請を送ればいいだけのはず。
おれたちがわざわざジパンギルにいく必要があるのだろうか。
しかし、学園長はそんなルリーアを見て指を1本たてた。
「"他の可能性"はどうだ?」
「え?」
「……確かに、"街道方面には"いない。だがもし、シーウォール王国に、あるいはこのデウィーネ共和国内に潜伏したんだとしたら?」
「あ……!」
ルリーアが息を飲む。
他の全員もハッとして学園長を見た。
確かにあり得ることだ。
魔法で学園長のように姿を隠すことができるものがいれば、
あるいはまた内通者を新たに作ったのならば、案外容易にそれができてしまう。
学園長は頷いて続ける。
「その可能性を考え、デウィーネもシーウォールも現在国外に人を出さない内部警戒令をすぐに発表するらしい。
もちろん、国から国への魔素機関での通信も禁止、町や村の人々も同様だ。
そうなるとジパンギルへの警戒要請なんて送ってられんだろう?」
「いや、でも発令前に要請くらい送っておけば」
「残念ながら要請には手続きが必要でな。発信するまでに丸1日はかかる。
今日中に発令される内部への厳戒体制を前に悠長に一日かけて要請を送る余裕がないというわけだ」
おれの言葉もあっさりと否定される。
それはそうか。
現在、厳戒体制等は国から国へと魔素機関の通信で送られるものだ。
偽物を流されて混乱させないためにも大変な手続きがあるんだろう。
その魔素機関の通信がすべて切られるということは、
ジパンギルに警戒要請を送る手段は無くなってしまう。
「そこで、だ」
と、学園長が手を叩いておれたちをみた。
その目にはいつもの、なにやら楽しそうな光が。
「デウィーネが我々を"伝達係"に選んだと言うわけだ」
「伝達係?」
「……ああ、そういうことか」
おうむ返しに聞くセルティニアの隣で、おれは合点がいってため息をつく。
学園長はそんなおれにニヤリと笑ってうなずいた。
「そういうことだ。国内から何人たりとも出させない上に通信さえ遮断させた今、ジパンギルへの伝達方法は皆無。
ただ、ジパンギルに警戒要請を出さなければならない今、
苦肉の策で例外として伝達させる人間を送り出さざるを得ないという結論に達したデウィーネは信頼のおける伝達係を探した」
「で、一番伝達係としての役割を果たしてくれそうな人間としておれたちを抜擢したわけだな。
このメンツが一番やつらを知っている上に、過去に戦っているから実力もある上に裏切る可能性がない」
「お見事」
ガウァースが拍手をかましてくる。
それを鬱陶しく見て流しながら、おれは顔をしかめて学園長を見た。
問題はこれじゃない。
「……あの、そういうことなら出発は今日中、遅くても厳戒体制が敷かれてまもない早朝までになるんじゃないですか?」
おれが懸念したことを、ルリーアが代わりに口にした。
そこが問題である。
一刻を争う急な用事だ。
悠長に何日もおいて出発とはいかないだろう。
案の定、学園長はなぜか自信満々に頷いた。
「その通りだ」
「また無茶苦茶ギリギリで言うなあんたは……」
ため息をつかざるを得ない。
いつだってこの学園長は行動を起こす直前に言うんだから困る。
主におれたちが。
特におれたちが。
「阿呆、ギリギリで言わなきゃお前らあたふたしないから面白くないだろう」
「あたふたしてるときに魔法で部屋に特攻してくるのはあんた以外面白くねーよ」
笑う学園長に突っ込む役目はいつのまにかおれになってしまった。
他の奴は全員ボケ担当か達観してるかの2択なので。
そんなおれも心が毎日折れそうです。
「さぁて、お前ら」
そんな様子に構わず、変わらない学園長が元気に声をあげた。
「今日中に出るぞ、支度だ支度。解散!」
パン、と手を叩く音と同時に、おれたちは疲れた表情で自室へ急いだ。
……これが、おれたちの突然の旅の始まりであり、
待っていた"嵐"へ突っ込む最初の一歩だった。
お久しぶりです。予定より更新遅れてごめんなさい土下座。
少し長くなってしまいましたが、
暇になった今のうちに可能な限り書いていこうと思いますので
皆様どうかよろしくお願い致します!
では近いうちに次回で!