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おれ異世界でもトラブルが絶えないのは何でだろう。  作者: じむ
一章:旅と仲間と魔法学園とトラブル
39/51

37:戦いが終わったあと2、夜空の窓辺で


サイド:ハク


「……帰りてぇ」


思わずそんな声を漏らす。

それに反応する声がひとつ。


「……仕方がないだろう。フェローニアのついでに、救出した僕たちも主役にされているんだからな」


飛んできたニーアの言葉、というかその雰囲気に強烈なデジャヴを覚えて、おれは盛大なため息でそれに応えた。

まぁ、1度目(あのとき)と違うのは、


「別に、パーティーでまで主役になる必要はないと思うんだけどなぁ……」


「……そこは同意だ」


ここが「セルティニアが帰ってきた記念パーティー」というそのまんまのパーティーの会場であるということくらいだろうか。


俺の怪我が入院中の治療のおかげで1週間くらいで完治したあと、おれはセルティニア救出の際の出来事を報告しにデウィーネの国会議事堂に出向き、

各大臣全員が揃った会議室で全てを話した。

……のだが。


もうなにあの空気、超こえぇ。

全員が全員、あのバーナガル殿でさえ百戦錬磨の武人みたいな顔して聞いてるから、途中からルリーアとか半泣きだったよ。

袖つかんできたよ。

いや、可愛かったけどさ。

……どうでもいいけど、どうして学園長とガウァースとティノはなぜにあんな余裕で自由に動けるんだろうな?

会議室のテーブルの中央においてある果物はお前らがが全部くっていいものじゃないよな?ていうかあれは飾りの一種だよな?

空気が読めないにも程がないかな?


……まぁともかく。

おれたちの話を聞いたデウィーネ政府は、この一件をシーウォール、ジパンギルに報告。

各国に対外政策の強化と近いうちの3国合同会議を提案した。

これで恐らく、シーウォールやジパンギルの方も各々警戒心を強めてくれるだろうということで会議が終わり、

これでようやくゆっくり寝れると思ってデウィーネ学園に矢先だった。


学園長が思い出したかのようにこのパーティーが開催されることを打ち明け、なにも知らなかったおれたちは唖然としているうちに学園の大ホールに連れてこられたのだ。

そして現在に至る。


……もうね、なんていうか。

色々言いたいことがあるけど、多すぎてどれから言えばいいのかわかんないから、割愛。


今、おれとニーアは大ホール2階のバルコニーにいる。

本来なら1階で生徒からの質問やらなぜか要求されるサインやらに答えるべきなんだろうけど、

さっきおれとニーアは食べものを取りに行けないくらい大勢に囲まれて質問攻めにあって避難してきたので、すぐに戻る気はない。

今はルリーアとガウァース、セルティニアが質問攻めの相手をしてくれているから問題ないだろう。


ちなみにティノも恐ろしい勢いで食って飲んでしてるから、

とりあえず料理がなくなって暴れるまでは問題がないと思う。

そして料理がなくなることも当分ないだろう。

学園長がせっせと運んではあとどれくらいティノが食えるかで予想当てゲーム開催してるから。


どうでもよくないけど、予想当てゲームで金を賭けさせるな、デウィーネ屈指の学園の学園長が。


それにしても、とおれはガウァースを見て口を開く。

ガウァースは現在、男子生徒と熱い会話を繰り広げながら一緒に豪快に笑っていた。


「ガウァースが意外とと社交的なのには驚いたな。宴会とかは好きそうだけど、こういうきらびやかなパーティーの主役は結構苦手な部類かと思った」


「……ロックボーン先生は、恐らくこういうときは楽しむものだと割りきって楽しんでいられる人なんだろう」


「あー、そういえば村でモンスター倒したときも、主役だーとか言って普通に楽しんでたもんな。それであの性格だし、こういうパーティーに変わっても何ともないわけか」


「……お前は、村で一泊する時にもそんな目に遭っているのか?」


「おう。なんでかなぁ、おれって旅行とかに向いてないのかな?」


冗談を言って、苦笑する。

ニーアも少し呆れたような顔をしつつも、フッと笑みを浮かべていた。

あーなんかいいな、この感じ。

いっつも凄い濃い奴らと関わっているから、ニーアみたいな奴だけと一緒にいるととっても落ち着いて会話できる。

そう思っておれは何となく口を開いた。


「いやー、今までみんな揃ってることばっかりでゆっくりしなかったけど、こうやってお前と2人でってのもいいよな」


「……え?」


何気なく口にした1言に、ニーアが止まっておれを見る。

目を少し丸くさせて、学園だと1人しかいないだろう猫耳をピコピコさせる姿は思わず笑みがこぼれるほど微笑ましい。

うん、やっぱり前衛2人っていうのもあって親近感湧くのもあるけど、こいつ面白いなぁ。

真面目だから結構固いところもあるけど、変に意地張ってないから一緒に前衛やってて気が楽だし。


ニーアは案の定、誉められたのが照れ臭いのかあたふたとして反論を始めた。


「の、ぼっ、僕はそんな、2人でいてもそんな、あの、面白い相手じゃないと思うしっ、そんな……」


「いやいや、一緒にいて落ち着くし、洞窟の時だってスゲー助かったし、感謝してんだぜ?お前とならこれからもずっと一緒に前衛やっていけそうな気がする」


「ず、ず、ずっと!?お、お前と、ずっとか!?」


「ん?嫌か?」


「い、いい嫌ちがう、ちがくて、嫌じゃないけどそんなあの、将来なんてほら、わからないものだぞっ?」


「そりゃまあ、そうだけどさ。前衛のコンビなら多分、お前以外いなさそうなんだよ」


「ぼ、僕以外いな、い、な、な……っ!?」


やっぱり面白いやつだなぁと思いながら、ちょっと誉めちぎってみたり。

でもまぁ、これはおれの本心だ。

本当に前衛のコンビなら多分こいつ以上は望めないと思うし、こいつ以外と組む気もない。

のだが、ニーアにはさすがに誉め言葉があの小さな体に収まる許容範囲を越えたようで。


「~~~~~っ!た、の、食べも飲み物を取ってくる!」


どっちだよ、と突っ込みたくなる一言をのこして、1階に降りていった。


苦笑しつつその背に手を振ってから、おれは外を向いて一口、持っていたグラスのジュースの残りを飲んだ。

色々あって疲れていたのもあってか、久しぶりに1人になったことで生まれた静けさに軽い安堵を覚えて、暫く景色を楽しむことに。


「……全く、貴方、主役の意味解っていらっしゃいますの?」


出来なかった。

突然背後から飛んできた独特のお嬢様口調に、おれは景色とセンチメンタルもどきをあきらめて振り返った。


「お前こそ、ファンの奴らはどうしたんだ?」


「丁度よくヘイムさんが降りてきたので、一気に全員任せてきましたわ」


「お前食べ物取りに行っただけの奴に容赦ねぇな」


そこには案の定、グラスを持ったセルティニアがいた。

……というか、ニーアとおれはこのパーティー中に食べ物は食べれないんだろうか?

下をちらりと見ると、ニーアは十数人の生徒に取り囲まれて猫耳を驚きで逆立たせていた。

……黙祷。

まぁ、セルティニアも来たわけだし、ガウァースはともかくルリーアはそろそろ休憩が必要だろうから、おれも行くべきなんだろうか。

考えが浮かんで、おれはセルティニアの方に歩き始めた。


「んじゃ、おれもそろそろルリーア辺りと交代してくるかな。お前もここにいすぎると結構な人数来るから、時々場所変えとけよ」


経験上の注意事項を言ってから、おれはセルティニアの横を通って会場内に戻ろうとする。


「って、待ちなさいなハークレイ!」


「おうっふぅ」


ろうとしたんだけど、鳩尾に拳がのめり込む感覚と共に強制停止させられた。

こ、こいつ……退院ほやほやの人間に無駄に腰のはいった拳決めやがって……。


「おま、殴るはねぇわ殴るは……」


「貴方が人の話を聞く前に出ていこうとするからですわよ全く」


「あ、相変わらず理不尽な……」


膝をつきながらプルプルと抗議する。

なにその「鬼ごっこで逃げる奴が捕まらないから超強力な麻酔銃用意しよ」みたいな理不尽。

誘拐後でさえ健在なセルティニア理論に戦慄する。


……まぁ、それはいい。

おれは立ち上がってセルティニアの話とやらを聞いてみることに。


「……んで、なんか用なんだろ?どうした?」


膝をはたいて落ちたグラスを拾ってから訊いてみると、セルティニアはコクリと頷いて口を開いた。


「……今回の件、ご迷惑をお掛けしましたわ」


目を伏せながらそんなことを言ってくる。

これはもしかしなくても、

セルティニアが誘拐されたことについてだろう。

どうやら結構本気らしいその言葉に、

おれは笑って答えた。


「ああ、そのことか。別に気にすんなよ。もともとお前狙いだったみたいだし、だからおれ達も助けたくて動いたんだ」


「それでも、ですわよ」


おれの言葉に、しかしセルティニアは首を振った。

おれがセルティニアを見ると、セルティニアは俯いたまま話を続ける。


「私が未熟だったせいで、私は無様を晒すだけでなく、皆さんを危険な目にあわせた。貴方も重傷を負った。それは謝るだけでは済まない、罰があって当然の物ですわ」


セルティニアの言葉は真剣に自分の未熟を悔いていた。

おれは黙ってセルティニアの口から吐き出される言葉を聴いて、俯いたセルティニアを見る。

そこにはきっと、プライドがあるんだろう。

大貴族としての、セルティニア個人としてのプライドが。

だからこそ、真剣な顔で自分を恥じて、悔いて、責めているんだろう。

おれはそんなセルティニアに何かかける言葉を考え、


「ですから、私は皆さんに償おうと思いますの」


「え?」


顔をあげたセルティニアの言葉にアホっぽい声をあげた。

そんなおれに構うことなく、セルティニアはコホンと咳を1つ。

そして顔をあげておれを見る。

その目は、いつも見ていたセルティニアの、決意に燃えた目だった。

セルティニアはそんな決意の目をまっすぐおれに向けて、一言。


「──償いは、皆さんに恥じることのないよう、もっと強くなることですわ。 フェローニア家次期当主として、一緒に戦うパーティーメンバーとして、セルティニア・フル・フェローニアとして」


その言葉に、おれはつい先日のことを思い出した。

白い病室で、ルリーアもおれも決意した事だ。

……あのとき、そういえば全員聞いてたんだっけ。

そう思い出して納得したおれをみて、セルティニアが微笑んだ。


「……貴方とハイデンベルさんが固めた決意、私も加えてくださいな。もちろん、私も横に並んで」


あのときのルリーアとの決意を聞いたセルティニアの参加表明。

それを聴いて、おれは苦笑した。


「……下がれって言っても、お前はあっさり横に並びそうだなぁ」


「当然ですわ。私より先に行こうなんてしたら斬首刑ですわよ」


怖いことを言って、セルティニアはさらに笑みを深くした。

その笑みは、背後のきらびやかな会場の光を受けて、

純粋にきれいに見えて。

おれはなんとなく、照れ臭くなってスッとグラスを持ち上げた。

その空のグラスに、セルティニアは自分のグラスをぶつけることで応えてくれた。

今度こそ、しかし増えた1人と一緒に景色を見る。

ワイワイとしたパーティー会場の隅で穏やかな空気が流れるなか。


「……僕も負けてられない、な」


「ん?」


どこからか聞こえてきた気がしたそんな声に、振り返って首をかしげる。

今の声は……。


「どうかしまして?」


「……いや、なんでも」


聞こえなかったらしいセルティニアが聞いてくるが、おれは笑って首を振った。

……どうやら、もう1人増えたらしいと思いながら。


どーもじむです。

今回もまた、イイハナシカナー風な話になりましたね。

さて、もうこれで一章に当たる部分が終わりました。

章の付け方がわからないけども、そう思っていただければ幸いです。

次回からはちょっと時間がたったお話。

さらにグレードアップしていこうと思いますので、

これからもどうかおれトラをよろしくお願い致します!



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