32:学園長の思惑
長おひさしぶり。
それではどうぞ
サイド:ハク
「……帰りてぇ」
「……仕方ないだろう、僕達はセルティニア誘拐直前まで一緒にいたパーティーメンバーなんだ。呼ばれるに決まっている」
おれの何気ないかつ何度目かの呟きに返すニーアの顔も、
若干緊張している雰囲気が伝わってくる。
ニーアだけではない。
ニーアの横のルリーアも、緊張で持たされているセルティニアのロッドを握りしめて居心地悪そうにしている。
……なぜティノがこの状況で寝ていられるのかは知らん。こっち寄りかかんな。
セルティニアの父親、
つまりフェローニア家当主様であるバーナガル・フル・フェローニア様への連絡はすぐについた。
なんでも実践演習の際にいた政府の騎士団から話を聞いたばかりだったらしい。
すぐに会合の時間がもうけられた。
……のはいいのだが。
……辛い。とにかく辛い。
何が辛いって、今いる場所と空気が。
おれたちが今現在座っているのはフェローニア家の一室だ。
そしてその回りには当然、屋敷の警備がいるわけで。
セルティニア誘拐云々の話で緊張で張りつめまくって煮込みまくってバジルでも添えたような空気の中で、
体感時間が永遠にさえ感じられるほど当主様を待ち続けるこの状況が辛くないとかどんなドMですか。
……と。
ガチャリという音と共に開いたドアの音に、
おれたちは一斉にそちらを見た。
入ってきたのは、いかにも大貴族ですと言わんばかりの威厳が感じられるおっさ失礼おじ様と、
そのおじ様について悠々と入ってくる細身の男だった。
「お客人方、少し遅れて申し訳ない。大急ぎで外出手続きをして飛んできたのだが」
「いえ、まるで待っておりませんので、お構い無く」
学園長がいつもでは考えられないほどの丁寧さで返事を返す。
冗談じゃないくらい待ったんだけど。
体感時間で。
当主様は返答に頷いて席に座る。
そして、重々しく口を開いて語り始めた。
「さて皆さん、ご存じの通り私の娘、セルティニアが誘拐されたことを話し合う前に、まず彼を紹介したいとおもう」
当主様がそう言った直後に立ち上がったのは、先程入ってきた細身の男だ。
「おや、あなたはヴァラー殿」
学園長が声をかけると、ヴァラーと呼ばれた男はスッと頭を下げた。
「ウィーネル殿はもう知っているだろうが、彼が今回の学園実践演習の際に警備を担当していた私の長年の助手、ヴァラーだ。
……娘の入った学園ということで彼に頼んだのだがな。まさか誘拐されるとはおもわなんだ」
「……大変申し訳ありません……今現在、私の部下に捜索させているので。私もすぐに捜索に加わります」
当主様の言葉に、更に深々と頭を下げるヴァラー殿。
「いや、責めているわけではない。娘の捜索をすぐに行ってくれたことに感謝しているよ。すまないが、よろしく頼んだ」
「わが命に代えても」
そんなヴァラー殿に穏やかに言う当主様に、ヴァラーは胸に左手をおいて一言、そういうと席につき直した。
……ん?
一瞬、彼が見せた手の甲に赤いものが見えたきがして、目を凝らす。
あれは……傷、だろうか……何か布が手の甲に巻かれて……。
直後、背筋に悪寒が走った。
素早く前を見ると、ヴァラー殿はすでに当主様の方を見ている。
……気のせいか。
「……アタリ、だな。フフン」
「え?」
直後、学園町の方から声が聞こえた気がしてそちらを見る。
が、学園長も相変わらず当主様を見て、事情を説明していた。
……疲れてんのかな、おれ。
まぁ確かに、モンスターと戦闘、濃すぎるパーティーメンバーのリーダー、誘拐事件に睡眠不足、悪寒に空耳、極めつけに学園長と色々あったからなー。
……あれ、ここまで重ねて今シャキッとしてるおれって軽く偉人じゃね?
……あ、ただの可哀想な人だわ。
「……というわけで、今現在ルリーア・ハイデンベルが持っているフェローニア嬢のロッド以外、残っていませんでした」
「……そうか」
おっと、忘れてた。
いつの間にか学園長が報告を済ませている。
考え事をしていた間に進んだ当主様の話に慌てて耳を傾ける。
当主様は困ったように顔をしかめて続けた。
「ふむ……本当にこれだけならば、今全くといっていいほど有力な情報がない。セルティニアを誘拐した犯人は、相当計画的だったようだな……くそ、どうすればいい」
いらただしげだ。
そりゃそうか。娘を誘拐されて手がかりがないんだ。
こうなっても仕方がない。
おれたちも何かないか、必死で頭を働かせた。
重苦しい沈黙が続く。
ルリーアもニーアもおれも、さすがにティノも、重い空気に黙って下を向いた。
──沈黙を振り払ったのは言葉ではなく、スッと椅子を引く音だった。
学園長だ。
学園長が席をたつ。
当主様がそれを見ると、学園長は頷いて、口を開いた。
「……お言葉ですがバーナガル殿。残念ながらワタシ達学園側には何も手出しできることがありません」
……場の空気が、つめたく固まった。
予想できない言葉に、おれたちは一斉に学園長を見る。
セルティニアの誘拐の件について、自分達はなにもすることがないと?
……何、いってんだ?この人?
「学園長!」
ルリーアが席を立って学園長を見た。
いや、あのルリーアが、睨んでいた。
おれも席を立って、学園長に食って掛かった。
「何いってるんですか!おれたちにだって出来ることがあるはずでしょう!」
「……ほお。それは、なんだ?」
落ち着いた学園長の声。
ガウァースは瞑目したまま、腕を組んで話を聞いていた。
おれたちは出鼻をくじかれたような気がして、一瞬つまる。
「それは、とにかく探すだけでも充分戦力に……」
「その危険に対する責任はどうする?」
「え?」
「ワタシには、生徒を無事に育てるという義務がある。その責任をワタシに放棄しろというのか?」
学園長の言葉には、容赦がなかった。
それでも、ルリーアは食いついた。
「……そんなの、」
「……まぁ確かに、フェローニア嬢を危険にさらしているワタシには、そう言う資格はないのかもしれん。
……だがな、1人を危険にさらしているといえど、もう何人かまでもを危険にさらしていい理由にはならんだろう。違うか?
……ワタシは確かにいい加減だ。だがな、生徒を軽々しく危険にさらすほど、バカな真似は今まで一度もしなかった筈だぞ」
絞り出した言葉に、速攻で返される冷徹な正論。
押し黙るしかなかった。
……おれは、横で泣いているルリーアの肩を抱いて宥めつつ、
下を向く事しか、出来なかった。
痛い沈黙が、また降りる。
「……解っているさ、ウィーネル殿」
やがて重々しく、当主様が口を開いた。
その声は、固かった。
そして、微かに、湿っているような気がした。
当主様は優しく、そっとおれたちに語りかけてきた。
「……ハークレイ君とハイデンベル君、ヘイム君にティノ君、だったかな?」
「……はい」
俺が顔をしかめたまま返事をすると、当主様は頷いて話を続けた。
「私は、君達にとても感謝をしたい」
その言葉に、驚いて当主様の方を見る。
当主様は、驚くほど穏やかな顔をしていた。
「セルティはとても手の掛かる子でね。昔から外で遊ぶのがすきで、活発で驚くほど猪突猛進な子だった。
そのまま学園に入学して、何か迷惑をかけやしないかと、大貴族の長らしくなく、とても心配していたものだ」
苦笑気味に語る彼の言葉は、とても穏やかだった。
言葉は、染み込むようにおれたちの耳に届いていた。
「そんな私の娘のために涙を流してくれる。君らのような子達がいてくれて、セルティも幸福者だよ。セルティの事を一心に考えてくれたこと、感謝する」
そういい終わると、当主様はおれたちに向かってゆっくり、
深々と頭を下げた。
……そのあと。
……おれたちは、自分達の無力を噛み締めながら。
……ゆっくりと、部屋を出た。
屋敷を出ても、沈黙は続いた。
馬車に揺られ、すすり泣くルリーアの声。
いつもは騒がしいのに、押し黙ったままのティノ。
下を向いたまま、耐えるように瞑目するニーア。
屋敷から離れるまで、その空気のままだった。
「……お前ら」
屋敷から100メル離れた辺りだろうか。
不意に学園長が話しかけてきた。
おれはさっきの非礼を詫びようと、口を開いた。
……下を向いていたままだったのが、情けなかったが。
「……いえ、もう大丈夫です。
……さっきはすいまs
「──よくやった。いやマジで」
……え?」
場の空気にあわない返事がきた。
驚いておれたちは学園長の顔を見る。
……あの、学園長?
……どーーして、そんなに爆笑寸前な顔をしていらっしゃるんでせう?
横を見れば、ガウァースも口元を押さえて、顔を真っ赤にして。
直後、
「……~~っうぷ、ぶ、ぶっははははははははははははは」
ガウァースが大爆笑した。
「お、クク、おい、ロックボーン、し、し、静かに、ぷっ、フフフフフブフォオ」
なだめようとしている学園長までこの始末。
な、ど。どうした。何があった?
ルリーアもおれもニーアも、何がなんだかわからず呆然としている。
ティノでさえポカン顔だ。
「ヒー…ヒー……っぷふぅ。……ふぅオーケイ。もう大丈夫だな?ロックボーン」
「ゲェッホ、オエ、ぐ、っふう。もういいぜ」
しばらく爆笑していたアホ教師二人であったが、やがて落ち着いて、
いやまだニヤニヤしてんだけどとりあえず落ち着いて、
こちらを見て、もう一度いった。
「……よし、お前ら。よくやってくれた。あれだけ場の空気を感動的にすれば、あいつらも信じこむだろ」
「あいつら?」
おうむ返しに問い直すと、今度は学園長もガウァースもニヤリとあくどい笑みを浮かべて、言った。
「「……よしお前ら、動くぞ」」
……おれたちはよくわからず、クルリと背を向けて屋敷の方に戻っていく2人を追っかけることしか出来なかった。
ただ1つ言えたことは。
……少し見えた学園長の横顔は、計画通りにことが進む悪人の顔だった。
はい、なんか途中凄いシリアス?になりましたけど最後に台無しにする学園長クオリティ。
感動のシーン、騙されていただけたでしょうか?
無理か。もっと腕をあげなければ。
これからは怒濤の勢いで更新していく(※予定ですあくまで予定です) ので、次回もよろしくお願い致します。




