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おれ異世界でもトラブルが絶えないのは何でだろう。  作者: じむ
一章:旅と仲間と魔法学園とトラブル
31/51

30:実践演習とお嬢様の憤怒

お久しぶりんぐ。じむです。

でわでわ30話、どうぞ

サイド:セルティニア


(──まったく、信じられませんわっ!)

私、セルティニア・フル・フェローニアは憤りを隠せないままに炎魔法(フレイムマジック)を使う。

練り上げたイマジンの通りに突き進んだ熱線は、

私達実践演習パーティーの敵……リザードマンを貫いていく。


現在、私達"特進魔法科・実践演習パーティー"は、

名前の通り実践演習の真っ最中である。

ポイントがあるであろう場所を推測し進みながら、

かかってくる下品なモンスターと戦っている最中というわけだ。

リザードマンを貫いた熱線をそのまま魔力を放ち続けることで保ち、

パーティーメンバーのいない方へとロッドを振るう。

狙い違わず、熱線を放ちながら剣のように振られたロッドは、

その放たれている熱線で前衛に襲いかかろうとしていたリザードマンを焼き飛ばす。


なかなか鍛練を積まなければ出来ない魔力の制御の仕方だけれど、私はそんな些細な成功などには目もくれず、

一点を勢いよく振り向き、射殺さんばかりににらみつけた。

一点──そう、ハークレイ・ウィンスの方を。


(……そもそもこのイライラももどかしさも、元はと言えば全部ハークレイがあんなアクセサリー愛好家みたいな冒険者と大喧嘩なんかするから始まったんですわっ!)


内心で毒づきながら、次のイマジンを練り上げて魔法を速攻で放つ。

やがて、目の前に立ち塞がっていたリザードマンの群れが全て居なくなっても、もどかしさは消えなかった。


「……よし。もう全部やったな」


ハークレイが満足げに呟くのでさえも、イライラする。


「うん、皆ケガとかないかな?」


「むろんじゃ!」


「……こちらも問題ない」


「ええ、問題ありませんわ」


それでもハイデンベルさんの質問に笑顔で頷く。

その直後にあまりの自分の仮面ぶりに内心で呆れつつも、私はハークレイの号令で皆と共に歩き出した。

もう日は暮れかけているので、一刻も早くセーフプレイス、もしくはこんな獣道よりもっと開けた場所に出る必要がある。

この実践演習は3日後までが期限であるため、それまでは野宿となる。

セーフプレイスであれば屋根はあるし食料の備蓄がおいてあるらしいし、

モンスターも来ないので安心して眠ることができるが、

ただの開けた場所ではそうもいかない。

屋根もないので雨をよける対策もしなければならない上に当然見張りが必要になる。

焚き火を絶やさないように薪を集める必要もある。

それに今晩は支給された堅パンや干し肉があるけれど、

明日からはセーフプレイスが見つからなければ、

昼のうちに食料を探す必要だってあるのだ。


黙々と歩き続け、私達は運よくセーフプレイスを見つけた。


「お、あれセーフプレイスだよな?いやー、おれのことだからてっきりモンスターの巣にでも入るんじゃないかって思ってたけどやったな!」


「あはは……もう開き直ってるんだね……。とにかく見つかって良かったね」


「……初日にしては上々の滑り出しだろうな」


「……今日こそ妾はご主人と同じベッドで寝r」


「「ベッドないから」」


「……むう」


皆の喜びの声に私も賛同しつつ、セーフプレイスで待機している先生に名前を告げて、いそいそと野宿の準備を始める。

早速置いてある食料をそれぞれポーチやリュックに詰めて明日に備えると、

焚き火を起こす。

それからは何事もなく、

寝る場所のことでティノさんとハイデンベルさんがなにやらハークレイを巻き込んで揉めていたが、

穏やかに夜になった。

焚き火を囲みながら寝袋を広げ、他愛のない話をするハークレイ達を見ながら

……それでも全く、私のモヤモヤはおさまらなかった。


そんな様子が顔に出ていたのだろうか。

あろうことかこのモヤモヤの元凶、ハークレイが不思議そうに尋ねてきた。


「……おーい、セルティニア?さっきから怖い顔して、どうしたんだよ?」


それを聞いて、ハークレイの顔を見て、私は。


「……では、言わせていただきますわ」


「……お、おう」


……この1日溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、高らかにハークレイに叫んだ!


「──っどうしてっ、貴方は全くピンチにならないんですのよ!?」


「予想の斜め上に理不尽だったっ!?」


実践演習パーティーの唖然とするかおと、ハークレイの驚いたような悲痛な叫びが、夜の森にこだました。


──────────────────────────────


……そう、そもそもの発端はハークレイなのだ。

フェローニア家の次期当主である私は、幼い頃から刺激とはかけ離れた生活を送ってきた。

それで立場をわきまえておとなしく本でも読むような性格なら良かったのだけれど、

残念ながら私の性格は思った以上に活発で、

そんな境遇があまり好きではなく、毎日刺激に飢えていた。

毎日限界ギリギリまで魔法の特訓をしたが、それでも全く飢えは潤わなかった。


そんな中で聞いたハークレイの大喧嘩の噂は、私にとって絶好のオアシスであったのだ。

これで私の欲求不満を解消させようと思った。

個人的にもこのデウィーネで問題を起こすなんて輩が気にくわなかったのもあるが、

やはり私に刺激をあたえてくれそうなまたとないチャンスだと思ったのである。

何かしら理由をこじつけて彼に私の相手をしてもらおうと思い至った私は、こっそりと屋敷を抜け出し、ハークレイの情報を集めた。

そしてようやく見つけたハークレイの返答は。


「……その話なら、もう終わったよ?」


……迂闊だった。

私は世間知らずだった。

まさかそんな、そんなすぐに問題が解決するとは思っていなかったのだ。

……だから、やっぱりこれは私のせいである。

謝るべきなのは私だと。

わかっている。解っているのだけれど。


「……はっ!?賄賂ですわねっ!?」


この通り、自分の過ちを認めたくなくて。

何より、恥ずかしくって、恥ずかしくって……。

気がつけばそんなことを捲し立てて因縁をつけて、逃げるように屋敷へと戻った。


……その後、入学式でハークレイとハイデンベルさんに鉢合わせてしまった時も。

そしてそれから毎朝。毎日。毎晩。

私はハークレイに私の恥ずかしさを気づかれないように、恥をかかないように、

「ハークレイを犯罪者だと信じて疑わない貴族の少女」としての立位置(キャラクター)

確立させていってしまったのである。


だけれどある日、私は聞いてしまった。

ハークレイは、全然犯罪者なんかじゃなくて。

ハイデンベルさんを助けるために奮闘するような、善良すぎるお人好しな巻き込まれ体質の男の子で。

喧嘩だって、ハークレイは被害者として起きたことだと。

偶然ルームメイトになってしまったハイデンベルさんから聞かされたのだ。

だからハイデンベルさんは知っている。

私もそれは理解しているということを。


……でも私は謝れなかった。

自分があまりにも恥ずかしくって、意地になって、謝るタイミングを逃したから。

謝れなくて、意地になって、突っかかって、それについても謝れなくて。

……そんな悪循環の中で出てきたこの実践演習(イベント)は、

チャンスであった。

この機会に仲直りをしようと思い至ったのだ。

そして実践演習パーティーが決まったあの日から、

考えに考え抜いて、名案中の名案を思い付いたのだ!

巻き込まれ体質のハークレイは、今回の実践演習でも必ず何かしらのピンチになるだろう。

そこで私が彼に手を貸して、こう言ってやるのだ。


「これで、貸し借りなしですわ!」


完璧だ。

完璧すぎる。

謝れない私が、唯一仲直りをする方法。

貴族(フェローニア)の名を汚さずに、かつハークレイの私の立位置(キャラクター)の認識を覆す方法。

私は、考え付いたこの名案を実行するために、

今日精一杯のフル装備で、イメージトレーニングを重ねて臨んだ。

結果。


私は、巻き込まれ体質の人間の対処力を侮っていたことを気がつかされた。

例えば、こんなときに。


朝、開始時(回想)


「……んじゃ、皆いこうぜ」


「……ああ」


「うん。頑張ろうね」


私が"仲直り計画"を実行するチャンスをやる気十分で待っていたときのこと。


──シャッ!


開始早々、突然何かの影がハークレイに向かって飛んできたのだ。

真っ直ぐに飛んでいく何かはハークレイの肩口目掛けて飛んでいく。


(早速チャンスですわねっ!)


驚きと同時に、私は手にもったロッドを掲げ、


シャッ!(何かが飛んでくるおと)


バッ!(私がロッドを掲げる音)


バシィッ!(ハークレイが"何か"をつかむ音)


「……え?」


信じられないものを見た。


「……あっぶね。なんだこれ。石?」


「す、すまん!魔法(マジック)の予行練習してたら、余波で石が飛んじまって……!ケガはないか!?」


「あー、そういうことな。だいじょーぶだいじょーぶ。

ただ、おれ以外にはやらんようにな?

何が起きるかわからってうおぉ!?

セ、セルティニアさん?なんでロッドを掲げてこちらを見てらっしゃるんだお前!?」


「……なんでもありませんわ」


「……さ、さいですか……」


昼:戦闘後


「ふう……全員、ケガないか?」


「妾はへーきじゃ!」


「うん。大丈夫だよ」


ゴブリンの群れに遭遇し、討伐した直後のこと。

安心しきっていた私達に、

何処から来たのかゴブリンの4匹が、茂みから私達に飛びかかった時だ。

これは私にも不意討ちだったため、


(まずいっ……!)


私はとっさにパーティーを風で囲んでゴブリンを弾こうとして、


グワッ!(ゴブリンが飛びかかってくる音)


バッ!(私がロッドを掲げる音)


ザシャアっ!(前衛2人がまとめて斬り伏せる音)


「……また?……」


またもや信じられないものを見た。


「……やるな。僕以外気付いていないかと思っていたが」


「ビースタクトの聴力ってすげえな。でも、トラブル体質舐めんなって、はは……は?」


「……その、セルティニア。……どうかしたか?」


「……!なん、でもありませんわ、ヘイムさん……!」


……こんなときに、私の計画は完膚なきまでに砕かれたのだ。

そして今しがたの私の発言である。

仕方がないでしょう。

でしょう?


「いや、なんでピンチにならないの?ってお前!まるでおれがピンチになるのを狙っていたかのよーな」


「そこまで解ってて何故ピンチにっ……ああいや、えっと、何でもないですわよ!」


「更に理不尽重ねられた!?」


私は言いかけた本音を慌てて隠すと、ハークレイが更に驚愕する。

(ああ、全く五月蝿いですわね!)

人がせっかく、仲直りの……じゃなくて、態度を改める機会を与えて差し上げたというのに、

そもそも私だってこんなにチャンスが潰されるなんて……。

内心で自分の計画を潰されたことに怒る。

……いや、これは怒るところじゃないことも、わかってはいるのだけれど。

とにかく。

ハークレイの顔を見たくなくて、何より頭を冷やしたくて、

私は立ち上がった。


「え、いや、どっか行くのか?」


「……少し散歩ですわ!貴方に気を使われるなんて気味が悪くて仕方ありませんから!」


「もう理不尽すぎて何を求められてんのかわかんねえ!?」


喧しく驚愕するハークレイを無視して、私はロッドを持って短剣をローブの懐に入れるとセーフプレイスから出た。

ああ、またやってしまった……と、自分を責めながら。




しばらく歩いて、私は少しだけセーフプレイスから離れた場所で立ち止まった。

本来、こういうのは許される行為ではない。

セーフプレイスにいた教師の方は生徒用のセーフプレイス野営地の反対側にある入り口にいるので私が抜けたことは気づかれないだろうけど、

ハイデンベルさんやヘイムさん、ティノさんなんかには後で謝っておかなければ。


「……はぁ」


思わず、木にもたれ掛かってため息をついてしまう。

……私も、解っている。

これは全部私のせいだ。

刺激のない生活に耐えられなくて、ハークレイを見つけて、

墓穴を掘って恥ずかしくなって。

あげくに、学園でせっかく一緒になっても謝れなくて。

こんなみっともないことになっているんだと。

解っている。


「私としたことが、らしくありませんわね」


小さく苦笑。

こんなにウジウジするなんて、私らしくない。

やっぱり、さっぱりと謝るべきだ。

そう。今回は初めて同い年の男の子に謝るということが少し恥ずかしいだけだ。

今回は恥をかくけど、今後でそれまでの名誉を挽回する働きをすればいいのだ。

自分を少しずつ鼓舞する。

頭が冷えて来ると、さっきの自分の思考にまた恥ずかしくなるが、

それさえも謝って流してしまおうと思う。

小さい頃からやっていた、元気の出し方である。


「……明日、きちんと謝りますわ。そもそも策なんて、私らしくないですわ!ええもう、ガッツリ謝ってやりますわよ!」


自分に自信をつけて叫ぶ。

(そうですわ!そもそもこんなにウジウジする方が恥ずかしいじゃないですの!なら明日、意地でも許してもらいますわよ、ハークレイ!)

宣戦布告のようにセーフプレイスをキッと睨み付けると、私はハイデンベルさん達に謝るべく来た道を戻ろうと、


「……?」


したところで、ガサリとなにかが動いた音に振り返る。

モンスターの危険性もあるのでロッドを構えながら魔力を流して発光させる。

魔法(マジック)の初歩の初歩だ。

媒体となるものにイマジンを練り込まずに魔力を流すだけだと、

光を発するのだ。

私はロッドを持って音のなった方へ近づいていく。

一瞬だった。


──ザァッ……!


気がつくと、私の後ろに人がたっていた。


「っ!?」


振り向こうとして、腕に激痛が走る。

思わずロッドを取り落とすと、男と思われるその影は私の腕を捻りあげたまま引き倒した。


「っきゃっ!」


悲鳴をあげようとして、すかさず口を塞がれた。

そのまま私に男が何かをしゃべり、首筋に激痛が走って……。

私の意識は、そこで途切れた。



……スランプや。こんな腐りきった卵に黒酢でも混ぜたような人体破壊級の文章力の癖にスランプや。

というわけで、恥ずかしがりやで意地っ張りだっただけなんですね、セルティさん。

と、きれいにまとまりそうだったのに空気読めないにも程があるタイミングで突然現れた謎の影。

セルティニアの身に何が?

次回またお会いしましょう。


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