26:学園生活開始
お久しぶりです
短めですがどうぞ
サイド:ハク
小鳥が鳴き、朝の来訪を告げてくる。
毎年この世界で"花咲きの月"と呼ばれる暖かい空気の中、
その穏やかな空気を一杯に吸い込んで、
デウィーネ魔法学園の学園生活が始まるという。
そんな騒がしくも穏やかな朝に
おれは死んでいた。
……いや、転生者のおれは1度死んでて当然なんだが、そうじゃなく、精神的に死んでいた。
原因は、まぁ昨晩に起こった事故である。
昨晩、おれはティノを連れて部屋にいくと、
まず学校内を探索し終えて帰ったところのニーアに事情を説明した。
学園長との話し合いで出来るだけ他には言わずに、
学園長が内密に国に調査を依頼するということで決まったため所々ぼかしながらの説明となったが、
ニーアは困惑しながらもティノの同室を了承してくれた。
ここまでは良かった。むしろニーアが話のわかるやつで良かったとさえ思った。
問題が起きたのはそのあとだ。
ティノの寝る場所をどうするか、という話になったときのことである。
さすがにドラゴンと言えど女の子なので、
ソファや床に寝せるわけにもいかないという結論に至ったおれは、
渋りまくっていたティノを説き伏せてなんとかティノがベッドで寝ておれはソファで寝るということにした。
そこでいきなり自分が見知らぬニーアの横で寝ることを何か申し訳なく思ったのだろう、
ティノがニーアに言ったのだ。
「すまぬが、そなたの横のベッドを使わせてもらう。
妾は拒否したのじゃが、ご主人がどうしてもというのでな。何か無礼があれば許してほしいのじゃ」
……と。
……まぁ、言いたいことは、事情をすべて知ってた俺なら解った。
が、それが話し合いの段階まで知らなかったニーアにわかるはずもない。
「ごご主人がどうしてもっ?ベ、ベッドを……っ!!」
次の瞬間には、
噴火したニーアが「不潔」だとか「お前初日から」だとか、
言葉のナイフをブンブン投げながら物理的にも前回は投げられなかった花瓶などを投げるという事態に涙目になりながらも説得を始める、
という事態に陥った。
そして説得も終わり、部屋に幸運にもついていた自動修復のエンチャント(よくよく考えたら恐ろしい機能性である)が完了した頃にはとっくに日がのぼっており、
結局すやすや眠ったのはティノだけだったのだ。
そんな状態で迎えた初日の授業。
「……その、なんというか、すまない……」
寝不足でグッタリしたニーアの後ろの席からの言葉に、
「……ああ、もう、気にしないで……いいから……」
さらに寝不足でドラゴンとドンパチやった疲労が抜けずに、
おそらくニーア以上にグッタリしたおれは何とかそう返した。
そんなおれ達の前では、ティノが寝ぼけ眼を擦りながら「お早うなのじゃ」を虚空に向かって繰り返している。
なかなかシュールだが、どうやら相当朝に弱いらしい。
そして羨ましい。
でもまあ、そんなに大して今何が起こってる訳でもないし、
しばらくぼーっとしてたら疲れも紛れるだろう。
なんやかんやで、結局はニーアが話のわかる奴でよかっt
「──ハクっ」
忘れてました。
もう1人の、昨晩になにも起こっていないかが気になりまくっている女の子を。
「……ああ、ルリーア。おはよう」
突然ピョコンと出現したサイドテールに、
おれはこの先の可能性にアンデッド系モンスターのような声を絞り出して挨拶した。
しかし、幸いにもルリーアはこんなおれを見て、
一瞬でおれが昨晩何があったのか理解したらしい。
「……お、おはよう。……なんだか昨日の夜は私が懸念してないことでお疲れ様、だったんだね……やっぱり」
「……うん、まぁ、ちょっとな」
「あ、あはは……」
おれのいつまでたっても変わらないアンデッド声と表情に弱い笑いを見せる。
いつもならこういう顔も可愛いとかなにも聞かないでいてくれるから助かるなぁとか思えるんだけど、
今現在おれにそんな余力はないらしい。
意外にもグッタリしっぱなしでルリーアに機械的かつ死にそうな笑みを返しただけに終わった。
それでもまぁ、ルリーアが執拗に昨晩のことを聞いてこなくて良かった。
まあ状態的に聞くまでもないと思ったのだろうが。
ともあれこれでおれもホームルームまではゆっくり出来そうなので一安s
「──ごきげんよう、皆さん。そしてハークレイ、先日こそ私の素性がばれてうまく逃げられてしまいましたが、
今度こそ貴方の醜態を白日のもとに曝して私の顔に泥を塗った事を懺悔させて差し上げますわ!」
iんすることはできないのだろう。うん。
半ば現実逃避ぎみにこの貴族さんのことは忘れようとしていたのに、
このタイミングで最初の目的と段々ずれているような気がする発言と共に入って来てしまった。
……もう、どうすりゃいいんだろうな?この状況。
おれは内心途方に暮れつつも何とか隣を見る。
と、案の定豪奢な金髪と絶対的な自信の目が見えた。
おれのそんなアンデッドなご様子に、
セルティニアは何を勘違いしたのか朗々と喋り始める
「フフン、その様子だとアレですのね?私が来たことでこの先どうなるのかを不安に思っているのですわよね?安心なさいな、きっと貴方の予想通り、貴方は今日こそ私に跪くことになるのですわ!」
やっぱ最初の目的と大分ずれてるなぁ、と思っております。
あとちょっとでいいから寝せてと。
言い返したいが眠さもピークなので本格的にヤバい声がでない。
そんなおれにまた何を思ったのか、
セルティニアは得意気に笑いながら口を開いて、
「……はっ!そういえばご主人?妾の寝床のことなのじゃが、その、
昨晩はご主人のベッドで寝させて貰ったが、さすがに毎日というわけにもいかぬと思うのじゃ。やはり1度話し合って決めないかの?」
正気に戻ってきたティノの一言に、軽いデジャビュが起きそうな感じで表情を固まらせた。
それに対しておれは最後のちからを振り絞って声を出した蛙のようにガックリと頭を垂れ、
ニーアは昨晩のデジャビュが頭に思い浮かんだのか、
来るであろう波乱に顔を強張らせた。
案の定、波乱はすぐに訪れた。
「ベ、ご主人のベッド!?ちょ、ティ、ティノちゃん、もう少し詳しく……!!」
「ふぇ?」
「は、は、ハークレイっ!?貴方よりによって学園内でななな何を……!?」
およそ2人分の波乱が一気に起こり、おれに叩きつけられる。
……そんな2人を横目に、おれはとりあえず、
「……誰か、助けてくれ」
──ゴチン!
天を仰いで、切実な願望を口にした後、間抜けな音をあげて盛大に机に寝落ちをした。
「ちょっと、聞いていますのハークレイっ!?
貴方の罪は、このデウィーネにいる限り私が絶対に──」
寝落ちしたにもかかわらずうっすらと聞こえてくるほどのセルティニアの執念はすごいと思った。
割りとガチで。
はい、というわけでじむです。
今回から学園編が本格的に動き始めますので、
どうか生暖かい目で見守ってやってください。
28,2℃は意外に冷たいので、35,252℃位でお願いします
それでは次回もおれトラをよろしくお願い致します。